見ず知らずの後輩と過ごす眩しくも切ない一つの物語

大学を辞めてこれといった目標を持たずコンビニでバイトをしながらダラダラ働く主人公。そんな彼のもとに並行世界からやってきたという女子高生が現れる。この女子高生、あっちの世界では高校の天文部で主人公の後輩をやっていたという。並行世界からやってきた彼女は当然行く当てがなく、主人公の家に住みたいというのだ。
突然現れた美少女との同居生活……うん、イイネ!

しかし、彼女の口から語られる先輩はどうも充実した毎日を送っているようで、自分とは大違いとのこと。全くの他人の話ならまだしも、もしかするともっと上手くやれていたかもしれない自分の話を聞かされて面白いはずがないし、当然甘酸っぱい雰囲気にもなりやしない。
そんな日常に耐えかねた主人公は興味本位で、こちらの世界の後輩がどんな生活を送っているのか調べようとするのだが……。

本来存在しなかった後輩と暮らすひと夏の話。とても楽しそうに先輩の話をする彼女の姿と、ありえたかもしれない理想の自分はとても眩しく、だからこそ読み終えたときに何とも言い難い苦さが残る。


(「夏の物語」4選/文=柿崎 憲)