師走*クリスマスパーティー(コメディ風)

もうすぐ年の瀬。

刺すような冷気を纏う外気を一切感じえないほど、部屋の中は暖かい


「雪だ。」

葵はそう言って窓に駆け寄り空を眺めた


ひらりひらりと舞い落ちる白の一片ひとひらは大粒の牡丹雪

ベランダに落ちてはすぐに溶けて消えていく

だがその上からまた雪がはらりと舞って、今度は白の欠片が少しの間残って、やがて消えていく


「積もるかな。」

柊哉は雪の様子を家の中から眺めながらつぶやいた


「柊哉よ。覚えておるか。わらわがお前と会った日のこと。今日のような牡丹雪の舞う日であった。」

「うん、覚えてるよ。」


それは今日と同じように牡丹雪の舞い散る日のことだった


「わらわは恋人と間違えて」

「俺は人形と間違えて」


「柊哉に拾われた」

「葵を拾った」


ふたりは顔を見合わせて笑った


「こんなことにになるとはの。拾われたときには、考えもせんかった。」


こんなこと、とは。


夕方から宅配便を持ってくるインターホンの音が何度響いたことだろう

ケーキはもちろんのこと、チキンに、ピザに、オードブル

ふたり掛け程度のそう大きくない茶色のテーブルが、みるみるうちに豪華な食べ物で埋め尽くされて

質素だった机の上に豪華絢爛な彩りが帯びる


数日前に柊哉が

「もうすぐクリスマスだね」

と、言ったので

「くりすますとはなにか」と葵は尋ねたのだ


「日本では恋人と過ごす人が多いかな」と柊哉は申した

であれば最愛の人と過ごさぬわけはあるまい


すぐに藤臣へ逢瀬の約束を果たし、絶賛準備中と相成るのであった。



部屋のなかをぱたぱたと小忙しく動き回る様は、藤臣とは似つかない

それなのに、どうして、あの日、間違えたのだろうか


確かにどちらも麗人である。

けれど、藤臣のような儚い美しさと、柊哉の愛しみある可愛らしさは似て非なるもの


「うーむ。」

葵は柊哉の一挙手一投足をじっくり観察しながら、大きく唸った


「あのさぁ、じいっと、ぼおっとしてんなら、おっきくなって手伝ってよ。」

隙をついてはケーキのトッピングをぽくぽくと口に運ぶばかりの葵を、柊哉はあきれ顔でつかみ上げてツリーに飾りをつけてくるよう指図する


「はぁい。」

葵は、床に散乱したモールを拾い上げてツリーに掛けた


と、そのとき本日何度目かというインターホンが鳴り響く


『宅配便です』

「はーい。」


大きなつづらと小さなつづら・・・ではなかった。制服をきたガタイの良い男性は段ボールに入ったなにかを柊哉に手渡して、小判ーもといゴールドカードを拝借

「ありがとうございましたー。」

と、快晴の笑みを浮かべて去っていく男性


「あぁ‼これだ‼」

見つけた。見つけたぞ。藤臣との共通点‼


*****


ところ変わって妖界ー


「へえっくしょいっ。」


藤臣は夕暮れ時に呉服屋へ足を運びながら盛大なくしゃみをかました


「大丈夫ですか。藤臣様。」

「あぁ、うん。誰かわたしの噂でもしてるのかな。」


藤臣の傍をついて歩くのは、妖であり藤臣の治癒術を習う一番弟子の松衛門しょうえもんである

松衛門は藤臣が鼻をぐずらせるのを心配そうに見つめながら歩調を合わせて歩く


「全くもう、師走の夜にわざわざ人界まで行かなくても良いではありませんか。」

「まあまぁ、せっかくの葵のお誘いだから。」


松衛門はやれやれと首を振った


土の道を草履が擦っていく音が、江戸を模した街並みに溶けていく

しばらくして目的の呉服屋で藤臣は足を止めた


「やあ。頼んでいたものはできてる?」

「あぁ、藤臣様。ようこそいらっしゃいました。ええ、それはもう一等品をご用意しておりますよ。」


呉服屋の主人らしき人が目くばせをすると、幾人かの従業員があれよあれよという間に大小さまざまな霧箱をもって現れた


「冬物のお着物が一式に帯と、かんざし、お化粧品、お鏡、櫛あとは・・・」


主人が高揚し紹介するものは一目見ただけでもわかる超がつくほどの逸品である


「お代金はしめて・・・」

主人が少し言いにくそうにしているのを藤臣は最後まで聞きもせず

「これで。」

と朱色の巾着を差し出す


金属と金属が当たってじゃらじゃらと音をたて、ぱんぱんに膨らんだ巾着はいかにも重そうだ


巾着の中を一瞥した主人は目を丸くして

「あれぇ、こんなに・・・」

と感嘆の声をあげたが

藤臣は爽やかに笑い

「まぁ、もらっておいて。」

と答えただけだった


それにうろたえたのは傍で様子を見守っていた松衛門

「ちょっ、藤臣様。少し多いのでは・・・。」

「そうなの?まぁ、いいんじゃない?良いものを買わせてもらったんだし。」

「いくらお渡しになられたのか把握されてますか?」

「えー、いやぁ。。」


松衛門はあからさまに大きな大きなため息をついて

「これだからお坊ちゃまは‼」

と目を吊り上げた


****

さて、人界。柊哉の部屋


葵は柊哉に恐る恐る声をかける

「のう。これらは、いくらしたのだ。」


机いっぱいに広げられた料理たち

そして今届いたつづらたち


「えー?うーん。知らなーい。カードだからあんま見てない。」


平安の世から今も変わらぬ藤臣の財布に穴が開いたかのような金銭感覚

良家の出身であったゆえ、何を買うにも懐から金の硬貨をおもむろに出し渡すだけ

値段を聞くこともなく、いくらであったかすら把握しない


柊哉の買い物もいつもそうだ

すまほとやらをかざすか、あの金の符を差し出すのみで

値段を聞くこともなく、いくらであったかすら把握しない



きっと、会ったときから感じるものがあったのだ

この者たちは金銭感覚が狂っていると。


「柊哉よ。わらわのけえき代がかさむからな。これからもしっかりと働くように。」

「なんだよそれ。」



とはいえ、奇跡の出会いがなければ、わらわの願いは叶わなかった


「柊哉に拾ってもらったゆえ、藤臣に会えたのだ。柊哉には感謝してもしきれん。」

「いや、別に俺は、それに俺だって葵と会えたおかげで仕事再開できたようなもんだし。」


柊哉は朗らかに笑う

葵は続けた


「柊哉はの、わらわの初めての友達なのだ。友とは何を指すのかよくわからぬが、これからもよろしく頼む。」

葵はにこりと笑った


想い人を待って、待って、泣いてばかりの日々であった

それが、柊哉のおかげで笑顔ばかりの日々になった


つまづいたときには相談してもよいか

困ったときには支えてもらってもよいか

楽しい時には一緒に笑おう

泣いているときには暖かいココアを入れてほしい


柊哉でなければきっといつまでも泣いていたことであろう

ありがとう。そして、これからもずっと一緒に


「はい、こちらこそ。」

柊哉も笑って、葵の黒髪をゆっくりと撫でた



柊哉は今さっき届いた箱を開けて、はじけるような笑顔で葵に声をかける

「ねぇ、サンタさんのコスプレ、着てもらっていい?あ、あとね、トナカイもあるんだけど。」



ごめん。前言撤回。一旦白紙に戻して考えさせてもらう。










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呪縛解封師‐君想うゆえに君ありて‐ 紅雪 @Kaya-kazuha

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