KAC参加者の「ひそかな楽しみ」
1 はじめに
KACおつかれさまでした。
『KAC2020 ~カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2020~』
カクヨムの運営さんが、二日に一度公開する創作のお題に基づいて、ユーザーが作品を投稿・閲覧、レビュー投稿することで参加できるカクヨムユーザー全員参加型のキャンペーンです。
石束にとってはカク活(カクヨム活動)復帰のきっかけになった催しで、とても思い入れがあります。才能と技術は今更どうしようもありませんが、それが許す限り「何か書きたい!語りたい」と気持ちだけは燃え立つ季節であり、今やってることを全部棚上げにして突撃したいキャンペーンです。
今回は、そんな催しの時に石束がやっているちょっとしたか『遊び』についての、創作日記的な文章になります。今回は感想文でかつ自作語りも含めますので、沢山の方に読んでいただくことを想定しておりません。正直この『趣味』に関してだけは、楽しいけど他の人を引きずり込むのはなあ、という気もします。
もう、すでに、はまってしまっている人は、手遅れであるとしても!
2 KACでつづきもの 「短編」で「連作」
すべての前提として。KACのレギュレーションに次のような文章があります。
対象 ユーザー・作品
カクヨムに会員登録してい(中略)
各回のお題に沿った作品
ジャンルは各回の条件に準ずる
タグに「KAC20201」~「KAC20205」をつけること
文字数1200~4000字の作品
お題ひとつにつき、1エピソードで投稿された作品
カクヨムでの公開日がお題発表以降、かつ、お題発表翌日の23:59までの作品に限る
応募方法
作品タグに「KAC20201」~「KAC20205」をつけて作品本文の文字数1200~4000字以内で投稿してください。
お題ひとつにつき、1エピソードでお願いします(審査の関係上、次のエピソードにつながっていても続きは審査対象にしません)
「お題ひとつにつき、1エピソードで投稿された作品」
「お題ひとつにつき、1エピソードでお願いします(審査の関係上、次のエピソードにつながっていても続きは審査対象にしません)」
「お題ひとつにつき、1エピソードで投稿された作品」と二回も書いてある(笑)
賞品とか評価が絡むコンテストである以上、「この範囲でお願いします」「はみ出すと評価の対象となりません」とあるのは当然です。「続きものを、やってはいけません」ではありませんが「続きものであっても、一本づつとしても見ます。別の日の応募作の内容を合わせてみることはりません」という意味だと思います。
むしろ「別の話を見ないとわからない内容の場合、不利になりますよ?」
と文章外に(気のせいかもしれませんが)忠告してくださってるような気がします。
であるのにもかかわらず。
同一の世界観で登場人物で背景で、五つの短編を書くフリをして、あたかも別の作品を書いているかのように装いながら、4000字×5回で2万字(去年は10回だったので4万字)上限の中編を書く。
あわよくば「完結」させる!
もちろん、一本毎の設定と情報が説明不足ならないように、構成した上で!
「その一本だけで成立する短編のコンテストたるKACにおいて、あえて「連作」をやる。もちろん、レギュレーションをクリアした上で」
石束が、今回のKACでやっていたのはそういう『遊び』でした。
3 様々な「制限」
とはいえ。
そんなことが普通にできるなら文章でご飯が食べられるだろうという話で。
予測不能の「お題」で、時間内に仕上げる、というだけでも大変です。
去年は思い付きで「好きな時代劇で書いてみるか」と軽く考え、軌道に乗りかけたところで「紙とペンと○○」なんて三題噺がきたため、
「アアイエ、ペン? ナンデ? ナンデ、ペン?」
とパニックになり、気が付けば忍者の話を書いていたという事がありました。――うん、わかりませんよね。私にもわかりません。
ナンデ?
(後になって「これ別に『筆』でもよかったんじゃね?」とか思いました)
そして
「四年に一度」「最高のお祭り」「Uターン」「拡散する種」「どんでん返し」
今年はこの5つ。
特に「Uターン」「拡散する種」。これを予測することが可能でしょうか?
シミュレーションしたり、仮想作品つくれたりできるでしょうか?
少なくとも、わたしにはできませんでした。
今年も相変わらず、毎回崖っぷちまで追い込まれてました。
なのに、ここからさらに「作品のテーマが同じ短編の連作にする」という縛りを自分にかけます。
正気の沙汰ではありません……等と、初めてやった時は思ってませんでした。
逆に。
「同じキャラでやった方が、動かしやすいし、話も思いつきやすいだろう」
と思ってたのです。元々自分はアイディア勝負のびっくりよりも、感情表現と人間関係を見せたい方の作風だと……馴染んだキャラでの人情噺(ハッピーエンド着地)に向いた作風だと(自分では!)理解していたつもりだったのです(笑)
だから! 絶対自分にとってはこっちの方が楽なのだと!
……まあ、現実にはそんなこと、なかったのですが(遠い目)
一つ毎に違うキャラ、違う世界で書くのとどっちがやりやすいか、というと「自分にはこちらの方がとっつきやすかった」というくらいの感覚で、そもそも縛りとは考えていなかったのです。
自分のことを完全に棚に上げて、いろいろ見まわしてみると。
「短編集」とはいっても色々あります。「シャーロック・ホームズの冒険」は短編集ですが、それぞれのエピソードに関連はあまりありません。アシモフの「黒後家蜘蛛の会」もそうですが、少しずつ登場人物のキャラクターや背景、人間関係が明らかになっていくのが楽しかったりします。(「我はロボット」なんかも、続けて読むとロボット史になってるあたり、アシモフという人は異なる作品の設定とキャラを繋ぐ志向を持っていたのかもしれません)また、グループSNEによる『ソード・ワールド短編集』はテーブルトークRPG『ソード・ワールド』を「シェアード・ユニバース」とする作品群でした。同じ世界で冒険をする登場人物たちはすれ違うことすら稀でしたが、どの作品も「フォーセリア」世界へ読者を誘う物語でした。
これらのお話では同じ「設定」は勿論枷になっていません。むしろガイドラインを引いてある道を走るみたいに「定石」があるので、それを頼りにお話しをつくっていけるのです。
たとえば。
「ホームズ」という「唯一人の諮問探偵」、そこへ舞い込む事件という「定型」。「黒後家蜘蛛の会」に集まる様々な登場人物と給仕の「ヘンリー」という舞台装置。「冒険者」と「フォーセリア」は、そこで冒険しても探偵をしても職人しても恋愛をしても良い世界です。(実際、冒険者も騎士も悪党も探偵もロックバンドすらもいる世界です)
畏れおおいことながら(笑) KACに参加する前までは(現実の壁にぶつかるまでは)「こんなのをやってみたいな」思っていたわけです。だから、繰り返しになりますが、同一設定の続き物であることは、助けにこそなれ障害でありませんでした。
その上で、お祭りの関連で書くのだから、できればお話として「完結」させたいな。と思っていました。これは書き始めた時点で、これらの話の続きを書くつもりが全くなかったからです。だから、去年も今年も、真ん中を過ぎたあたりから、どうやって終わらせるか、という事しか考えていませんでした。
「枷」といえば、これが連続ものの「枷」でしょうか?
さらに「一話完結」「上限4,000字」というレギュレーションはありますが、これは独立の短編でも同じこと。
これら、さまざまな要素。『縛り』――お題、登場人物と作品世界の一致、情報量の過不足、あるいは配分。一本の作品としての流れ。その決着。完結への意思。
なるほど並べてみると大変そうにみえます。そして大変です。
これをクリアして「やってやった。ザマーミロ」とやるのが、連作の楽しみ。困難を克服する快感……それはある。確かにあります。
間違いなく、ある。自己満足として、ですが。
でも、これはごく一部でしかありません。評価の対象でもないのに、わざわざ連作でやる理由は、もっと別のものです。
少なくとも、私にとっては。
4 「一話完結・短編連作」の破綻
と、思わせぶりに、言い切ってみたものの。
今回のKACの石束の参加作では、完全に単独で成立するのは一話「ぶり大根」か二話「ちらしずし」。あとはかろうじて五話目の「たくあん」くらいかなあと思います。
要するに三話目にして、一話完結する話にならなかったのです。無念。
「Uターンで帰ってくるからには、何で行ったのかの理由も必要になるな」などと、考えなくてもいいことを考えすぎて、下書きの文字数が増えて調節の時間も無くなりました。――それでも制限時間はやってくる。
結果として、新しい食材の登場シーンをバッサリ切りました。結果、冒険に出た少年が「帰りづらいなあ」とため息をつきながら飯盒炊飯して、彼が急遽村に帰る理由になった少女がおむすびを食べる。その様子をそっと見守っていただくお話になっています。
今にしてみれば切る場所が違いましたし、後で一話完結の別の「Uターン」も思いつきましたが、とにかく当時はこの手しか思いつきませんでした。
――あ゛ー ちくしょー。今年もダメだったなあ……
と、敗北感いっぱいで迎えた次のお題の発表。――『拡散する種』。
おや? と凹んでしなびてたやる気がちょっと復活しました。
「これなら、準備してた『米』の変な食材ネタが使えるかもしれない!」
はじめて――四日目にしてはじめて準備が役立つ展開がきました!
『ちらしずし』の時の老人の言葉も、『おむすび』の時に食べてたのが「おむすび」だったのも、なんとなく伏線に見える!(偶然)
かくして、3話目の「おむすび」(お題:『Uターン』)で出てきた『魔王』のところに『異世界なぞ食材:お米』を持ってくる巨大生物が入ることになりました。
四日目は、『塩鮭と豚汁の朝ごはん』(お題:『拡散する種』)
正直最後のオチだけ書ければ、次につなげられると思っていたので、お話の体裁を整えることしか考えてませんでした。そのおかけで初めて何のストレスもなく、書きたい話を書きたいだけ、本当に気持ちよく書けました。
また、このお話の時にいただいた「応援コメント」に返事を書いている時に、米関係ですっかり忘れていたネタを思い出すことになり(須藤二村さん、設定話につきあってくれてありがとうございました)最終話『たくわん』(お題:『どんでん返し』)が作品冒頭のようになりました。
さらに「どんでん返しというには弱いけど、主人公と姫巫女を虐めた(と設定上はなっている)こいつらに、努力が無駄になる結末へ向かって右往左往してもらおうか」と、中盤の会話ができました。
後はもう好みの問題で「真っすぐであったからこそ居場所を失った『彼女』が、逃避行の果てに、ここにいてもいいよ、と言ってもらえる場所にたどり着く」エンディングにしたいなと思い、少年を見送って『田んぼ』を眺めているラストに着地しました。
(最終話を書いていた時のBGM:『君をのせて』)
『お題』がなかったら、このラストには絶対にたどり着きませんでした。
5 石束が、KACで連作短編をやる理由
同じくKACで連作短編をやっている方に、
「水城しほ」様(https://kakuyomu.jp/users/mizukishiho)
がおられます。この方の去年のKACでの作品
『魔法使いの羽ペンは奇跡を綴る(KAC1~10まとめ)』
(https://kakuyomu.jp/works/1177354054889037843)
は、石束がKACでやりたかったことの理想形であり完成形です。
……今年のは今年ので、ある意味とんでもなかったのですが。
(短編連作『ゲットセット!』(KAC2020まとめ)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894569060)
今年のKACの後、応援コメントと近況ノートで「感想戦」をやりました。
「こんなはずじゃなかった」「このはずだった」「こんな準備をして、対応した」
とそんな意見交換をしながら
「この人はこんなことをやってたのか……」とびっくりするやら、呆れるやら、感動するやらでしたが、その中で。
「自分の都合だけで書いていたら、絶対こうはならなかった」
というコメントがありました。まったくその通りです。
短編の連作をやる場合、「一回毎のお題」と「ストーリーの流れ」という二重縛りができる。不自由以外の何物でもないこれが、同時に物語を導く手がかりでもある。
この手掛かりに必死に手を伸ばすからこそ、自分だけで作ってたらこんなことには絶対ならなかった、というラストに「気が付けば」たどり着いてる。
本当なら物語の結末を作者だけは知っているし、そこへ向かって収束させようとする。でも、KACで短編の連作をやる時は、もしかしたら、誰よりも作品世界とキャラクターを知り、これを世界で一番愛おしく思っている作者自身が「こ、この先どうなるんだろ?」と一番ドキドキしているのです。
こんなの、普通の創作ではありえません。
そしてこれあるからこそやめられません。
石束が、KACで連作短編をやる理由です。
「だからって、なんだ?」と一言で済んでしまうような試みをあえてやるのは、これがあるからです。
今は何にも考えられませんが、たぶん来年もやるんだろうなあ(遠い目)
公私ともにいろいろあって、色んなものが止まったままの石束がなぜこの時期だけ出てくるのか、という言い訳も兼ねまして、一文書かせていただきました(平身低頭)
ここまで、お読みくださってありがとうございました。
KAC感想文 石束 @ishizuka-yugo
★で称える
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