episode 10
握られた剣は腹の部分を中心に無数の亀裂が入り、後一撃でもくらったら粉々に砕け散るだろう。一方、ディセルの銃は外面的な破損は見受けられないものの、残り残段数は一とお互いに対等な
「あんたのその剣、あと一発でも私の弾丸を防いだら、終わりよ?その後は何で応戦するの?見たところ、武器はその剣 一本と思うけど?」
「確かに武器はこれだけだが、ディセル、お前の武器も実質的には同じようなもんだろ?」
「何言ってるの?キット、あんたの武器は防御で終わるけど、私の銃は攻撃で散るのよ?」
百発百中、それがディセルの誇る確実な
勝算は限りなく、0に近い。
それでも、負けるわけには行かない。
「その目、覚悟が決まったってことね。私に殺される覚悟が」
「殺すのはルール違反だろ?」
「それぐらいの覚悟で来いってことよ!それも分からないの?」
「死は常に意識してるからな、そんな覚悟はするまでもないんだ」
「言ってくれるわね。いいわ、なら思う存分 後悔しなさい」
俺はディセルをディセルは俺を、ただ一人の敵を見据え、武器を握り直す。観客には俺達の声は聞こえない。故にこの場は擬似的にも戦場そのもの。静止し、何かが始まるのか?という緊張感が観客に浸透した頃、俺は____
________行くぞ。
歓声と熱気が乱れるこの
_____________________________________
時間はディセルとの戦いが始まる少し前に
「ったく。何なんだアイツは・・・これじゃあ全然、落ち着けなかったぞ」
鼻から逃げるつもりでここまで来たのに、ディセルにああ言われると逆に戦って、その態度を一変させたくなる。この時点で俺はあいつ(ディセル)の口車にまんまと乗せられてしまっていた。気づけたことは良かったのだが、俺の気持ちは先程までのモノとは違い、戦う意思がはっきり決まっていた。
「こうなったら、何が何でも勝ってやる」
俺は出口へ向いていた足を修練場へと向けた。
「キットこんな時間になるまで戻って来ないから心配したよ?何かあった?」
「いや別に何も・・・ただ、ディセルにあった」
「ディセルに?それで何か言われた?」
「何も言われてないよ」
「・・・・・・それならいいんだけど」
「心配はいらないよ。少なくとも、今の事にはね」
「わかった」
「さ、行くとするか」
「無理しないでね。傍付き剣士を認められなくても他に方法はあると思うから」
「・・・今言うことではないと思うんだが?」
「え?」
「いや、別に何でもない」
意気込みと傍付き剣士になるという第一の目標をあっさりと消された気がした。他に方法があるのだとすればその話をもっと早く言ってほしかったと思う俺であった。しかし、もう後戻りは出来ない。
「きっと、倒して見せるさ」
「うん、信じてる」
俺への期待を感じさせるレイスの瞳に俺は勇気づけられた。
「本当はルール違反になるから、敵の不利になることは言ってはいけないんだけど・・・耳貸して」
試合の
「うん?なんだ?」
「ディセルの腕は本物だよ。それに狙ったものへの照準は絶対に
「わかった。ありがとう」
レイスに礼を言った後、剣を見た。
「頼んだぞ」
俺は剣に思いを込めると、その時まで力を貯めておけと言わんばかりに
戦地への足取りは思っていたより軽く、聞こえる歓声も今はそれほど気にならなかった。事前のレイスとの会話が俺の心に落ち着きを付加させたのか、それとも心の何かなのかは分からないが、
_____________________________________
試合のルールが伝えられる
・相手に致命傷を負わせてはいけない
・負けを認める様な言葉を発した場合はその時点で試合終了
・
・急所への攻撃は禁止
『以上4つとなります』
______________________________________
重くなる足取りを無理やり動かし、戦地への一歩一歩を刻む。今の俺にはどんな声も届きはしなかった。自らの足音のみが響く。それだけが耳の正常を教えてくれる。
「逃げずに来るとはね、そこだけは褒めてあげる」
「その気だったけど。さっきの言われ様でその気も失せたよ」
乾いた声で返答する。
「言うじゃない。ま、いいわ さっさと始めましょう?私はこんなことに時間を割く程、暇じゃないの」
まるで、相手にされていない。
「団長命令だろ?それなら、これも任務扱いになるはずだ」
「それも、そうね。なら、任務としてやらせてもらうわ」
ディセルの目の色が変わった。勝つためには手段を選ばないと言った目だ。
「拡声器で聞いたはずだが、一応聞いておく ルールは分かってるよな?」
「拡声器?もしかして、あれのこと?」
ディセルは修練場の各場所に建てられている、柱の一つを指さした。頂点には青く光り輝く、クリスタルが取り付けられており、俺は最初、オブジェか何かなのかと思っていた。
「柱がどうしたんだ?」
「まさか、知らないの?さっきのルール説明の声の発生源はあそこからなのよ」
「そうなのか?」
「あれを通して話し手は自らの声を拡大しているのよ。拡声石と言われる
「・・・そうなのか」
「知らない・・・・・・か」
もうほとんど、
『両者ともに準備が良ければ始めてください』
アナウンスが入る。
準備何てとっくに終わらせている。今更、確認する事でもなかった。
ディセルの方を見ると、得意げに
「遠慮はしない、だから、ディセルも本気できてくれ」
「当たり前じゃない、この前のお返しがまだなんだもん」
「お返し?」
「・・・私を・・・私を押し倒そうとしたことよっ!」
何故かこの声だけは修練場に鮮明に反響した。一瞬にして静まり変える、
「な、何を言ってるんだ!お、俺はただ壁に追いやっただけだろ!?」
逆効果だった。
「そ、そうだったわね・・・私の逃げ場を無くして・・それで・・・・・・あんなこと____」
ディセルは俺の言った事実を
「脚色をするな!」
「・・・だって____私、あなたに____」
あえてつづきを言わないことで聞き手の想像力を膨らますと言った巧妙な
完全アウェイな状況がさらに悪化する。男性陣はともかく、少女たちの視線に怒りを感じる。
「はっ____」
俺は脳裏によぎった少女の方を見た。
「・・・・・・」
下を向いたままの
「精神面から追い詰める・・・か。銃使いはそんな戦闘スタイルを取るのか?」
「何のことかしら?」
「あくまでしらを切るつもりか____
「えぇ」
周りのどよめきをものともせず俺は初撃を繰り出すため、足に力を入れた。この地を駆け抜けるための力を。
バンッ!
走り出すタイミングと呼吸が整うタイミングが完全に合わさった瞬間、俺の行動は地面に空いた、数センチ程の穴と銃声に止められる。
「遠距離攻撃はその場から動かなくていいから楽でいいわ」
あざ笑うディセル。
「逆に言えば近接戦闘は苦手なんだろ?」
淡々と言い返す俺。
「っく!」
「図星のようだな・・・・・・なら!」
俺は次の攻撃を気にすることなく、地面に弧を描くように剣を走らせた。右曲がりの曲線を描く。
バンッ!バンッ!
俺は放たれる弾丸を紙一重ですり抜け、走り去る。後を追うように聞こえる銃声は次第に近くなって____。それでも、動きは止めない。もし、止まったら確実に撃たれる。
「逃げることしかできないの?ま、仕方ないわよね、今日まで治療してたんだから」
「関係ないだろ」
「だったら、その地面を削っている剣をちゃんと持ったら?」
「そうだな、剣の持ち方 間違えてたよ。・・・でも、その前に____」
バサッ!
俺は握っていた剣を標準な向きに持ち帰るその瞬間、地面を
バンッ!
咄嗟の出来事に思わず、銃を撃つディセル。これは計算外だったが相手の残り弾丸数を減らせたことには好都合だった。しかし、土煙で見えずらい視界は吹き抜けた風によりすぐにかき消された。再び、お互いの姿が鮮明に見える。
「あんたも遠距離攻撃をするのね」
「あいにくこっちは剣の使い方に慣れてないんでね」
「なら____」
____バンッ!
____キィンッ________
最初は何が起こったのか分からなかった。耳を突くような高い音。そして、細かく振動している右腕。確実に放たれた弾丸の行方を目で追った。だが、地面のどこを見ても、真新しい穴は開いていなかった。
「気づかない?」
「何がだ?」
「右手」
俺はディセルに言われた右手に目を向ける。すると、そこには軽くヒビの入った剣があった。
「なっ____!」
「剣の刃を狙ったのよ」
ディセルの攻撃は間違いなく正しかった。対人戦において、もっとも大切なのは相手の武力をそぐこと。殺すという手段は簡単で一番手っ取り早い、しかし、それを簡単にしないのが武器だ。いくら、剣の名人でも鼻からそれが無ければ実力のほとんどが出せない_無に等しいと言った方が最適だろう。だから、ディセルは致命傷を負わせず、相手に敗北を確信させる的確な方法を取ったのだろう。
「なるほど。そうきたか」
「傷を負わされるのは嫌だから、武器を落とさせてもらうわ」
このまま同じ攻撃を受け続ければ剣は亀裂から粉々に砕ける。そうなれば俺に残されたのは_敗北の未来だけだ。つまりは、レイスとの約束が果たされなくなる。
(どうする?このままだと・・・・・・)
____ディセルの腕は本物だよ。それに狙ったものへの照準は絶対に
不意に思い出される、レイスの
(____これだ)
俺は何も語らずただ、この戦地を円を描くように走り抜ける。
「何今度は、錯乱?」
ディセルの問いかけには応じない。
「だんまり?なら、いやでも喋らせてあげる」
バンッ!
放たれた弾丸が左腕を
「____」
緋色の液体が裂けた服から流れ出す。痛みはある。それでも歩みは止めない。
(何、この感じは!?まるでさっきまでのアイツとは違う。この嫌な感じ、私____殺されるの?)
ディセルは先程までの俺と違った雰囲気に感情がどよめいていた。今の俺はイラスト作業に入った時の様な尋常じゃない集中力を発動させていた。握っているの物はペンではなく剣、そして描いている場所は紙の上ではなく地面。全く違った場所だというのに感覚が似ているせいか、俺はどこか落ち着きを取り戻していた。
「____ここだ」
バンッ!
撃たれた弾丸は確実に剣の刃の部分に命中した。右手が揺れる。
「後、二発でも当たったらその剣は砕けるわね?」
「二発もあるのかよ」
「えぇ、残念なことに。後三発は
(____勝った)
その瞬間、俺は勝利への道が見えた。
ディセルの目を見た。俺から見て斜め左下を見つめるその目に俺はある仮説を立てる。今度は剣ではなく俺の左足を狙っている____と。
バンッ!
「嘘っ____」
予想は外れなかった。弾丸は俺の左足を確実に狙っていた。しかし、先にそれに気づいた俺は
「____」
(何で?私の動きが分かったの!?アイツの行動は確かに読めていた。だから、手っ取り早く動きを止めるために足を狙ったのに)
ディセルは目の前で起こったことを理解できなかった。
「命拾いしたわね?それで、その今にも壊れそうな剣で何ができるの?」
「____」
「何か言いなさいよ!・・・それとも気づいたの?剣じゃ銃には勝てないって」
俺は言葉を発しない。次に俺は行動のリズムを変えた。今までディセルの周りを円を描くように駆け回っていたが今度は一気に攻めに入る。
キッ!
足にグリップをかけ、ディセルの方へ駆ける。銃に向かって行く。自殺行為とも取れるその行為にディセルは「何を!?」と言った表情をした。視界に映るのは脳天にしっかりと照準が向いた銃口と黒い蝶。引き金を引かれれば確実に終わるこの状況でも依然として走る。視界の横を風の流れの様に景色が過ぎていく。
(この距離ならまだ____当たる)
ディセルは照準を剣を持つ右腕に変えた。剣を壊せば、何の心配もないのだが今のキットは剣を壊したところで他の何かで応戦してくるのではないかという、強迫観念がディセルを覆っていた。土煙を起こし、視界を
(これなら、絶対に________)
その時、ディセルはあることに気づいた。
(何でアイツはあんなに速いんだろう。動きが追えないわけではないそれでも____)
この疑問はディセルの先天的な何か故の疑問だった。銃を使うきっかけを作ったのもそれで、武器を十分に扱る様にしているのも《それ》だった。本来なら一瞬で勝負がついてもおかしくないはずの戦い。それなのに今もこうやって、弾丸数を減らされている。トリッキーな戦闘をする、相手に自らのリズムが崩されたせいなのかもしれないと、ディセルは思った。例え、そうだったとしても今まで
恐らく、それはあることが原因なのだろう。
それは____
____何で、私は
ディセルは瞳に宿した、先天性の特徴に意識を向ける。しかし、それは発動どころか存在自体が確認できなかった。
「嘘・・・でしょ・・・・・・?」
手足が付いているように当たり前の事が無くなった喪失感に
(このままだと、距離を詰められるっ・・・!確かに私の魔眼はさっきまで発動していた。それも、アイツの雰囲気が変わるまで____)
「まさか・・・」
ディセルは今にも崩れそうになっている剣を握り、駆けよってくる
「その色は・・・!?____もしかして【蒼眼の瞳】だと言うの?あり得ない・・・!」
驚いている場合では無いことぐらい、ディセルは分かっていた。それでも、目の前で淡く揺らめくように輝く蒼に完全に気を取られていた。
この一瞬の
「えっ____」
意識を銃に向け、照準を合わし直した瞬間____
パリィンッ!
バンッ
何かが砕けた音が鳴り響く。その衝撃で引き金が引かれる。
ディセルの左手に持っていた銃が宙に舞う。それに伴い、彼女の体も大きく
(その瞳・・・やっぱり・・・・・・。あんたのその力は私やレイスの《天使権限》_いや、
地面に尻もちをついた衝撃でディセルは「あうっ」と一瞬息が止まる。そして、次に目を開けた時、空を見た。銀色に光る、破片が
「これでお前の武器はない。負けを認めてくれないか?」
完全ではない蒼い瞳を宿した少年が少女に声をかける。しかし、少女はそれに応じる素振りを見せない。
「何を言ってるの?あんたも、武器が無いんだから、ここから格闘勝負にでもする?そうしたら、キット あんたにも勝ち目はあるかもしれないわよ?」
精神面、そして技術面で負けたディセルは「もうどうなったていい」と言いたげな表情でそう言った。
「それもいいかもな」
「・・・でしょ?散々、あんたを馬鹿にしてきた女を痛めつけることのできるチャンスよ?もっと、喜びなさいよ。腹部を殴って、もだえ苦しむ姿とかみたいでしょ?」
「確かにそれは《R指定》のイラストとしてはぴったりだ。だが____」
俺はそれよりも、ディセルに完璧な敗北を味合わせようとある行動に出ようとした。だが、その行動はディセルの想定外の攻撃で阻止される。戦意喪失と言ったわけではないがディセルは確実に負けを自覚している顔だった。だが、「これで駄目ならね」と言った言葉が聞こえそうな程に繰り出された切り札は俺とディセルとの間合いを数メートル空けた。
サッ!
「レイスから聞いてない?私は銃を剣士____つまり《剣銃》使いなのよ」
「____っ!」
____確認なんだけど、ディセルは《ケンジュウ》使いだから____
脳裏に蘇る、レイスの一文。
「まっ、懐に隠せる大きさだから剣とは言いにくいわね?短剣と言ったところかしら」
(どうする?俺には武器はない。それに唯一の勝利への道筋が断絶した。なら____)
俺は砕け地面に刺さった剣の欠片を出来るだけ集め、後ろに数回ステップした。
「後はこれをどう使うかだな」
ディセルの視点が俺だではなく短剣に向いている間に土の上に横たわる無機質を拾い、懐に忍ばせた。
「それで、その剣の残骸で何が出来ると言うの?」
「出来るさ、こうゆうことがな!」
俺は手に持っていた銀の欠片を手首のスナップを効かせ、投げた。
シュッ
静かに風を切る刃。
ディセルは投げられることを
(このままアイツの攻撃を全て回避すれば勝てるの?それにしても、何かおかしい)
キィンッ
初撃はあっさりと弾き返される。
「そんな攻撃が通用すると思うの?そういえば、キット あなた遠距離攻撃になってるわね?使われている剣が泣いてるわよ」
「それはどうかな?」
シュッ シュッ
今度は二連続で投げた。しかし、攻撃は単調なせいか二回の腕の振りで意図も簡単に交わされる。残された欠片は後、
(あれ?少しだけど魔眼が使えてる・・・?)
ディセルは自分の身に
(今までの攻撃を弾き返せたのも、きっとこのおかげなの?でも、何で急に____)
答えに検討もつかないディセルは目の前の敵を見た。そこには先程までの輝く様な蒼はなく、黒色と蒼色が淡く揺らめいていた。
(まさか、アイツの瞳が関係しているの・・・?だったら、今ならまだ勝ち目はある!)
俺の方へ一気に間合いを縮めながら走ってくるレイスに俺は残りの全てを投げた。
「当たらない!そんな攻撃今の私には____」
完全に自身を取り戻していたディセル。無数に降り注ぐ、銀の雨をもろともせず、刃が弾く。だが、ディセルが見たのはそんな人工的な自然現象ではなく、黒い髪の下にはっきりと見えた《蒼》だった。
気づけば、ディセルの魔眼は完全に封殺され、動体視力は剣士並みにまで下がっていた。そんな、状況でこの戦況に自ら入るというのは自殺行為と取れた。
サッ!
「痛ッ____」
ディセルの左腕を剣の鋭利が掠める。
俺はその一瞬を見過ごさなかった。
シュッ
最後に残っていた、欠片を投げた。
「うっ!」
今度は右腕を掠めた。
そして________
遠距離からの____
地面を蹴った。
数秒も満たない速さでディセルの間合い内に入る。
懐に隠した無機質_銃を持つ。
____近距離攻撃。
カチャッ
銃口はディセルの額に向いていた。あの時、ディセルは残りの弾丸を三発といい、俺との戦闘で二発使った。そして、今ここに最後の一発が装填されている。無論、撃たないのだが、もし、ここが本当の戦場だったら確実にディセルは死んでいる。
「ディセル、君の負けだ」
「えぇ、そして私の・・・・・・負け・・・よ」
完全なる敗北を味わったディセルは今までの意思はどこへやら、あの武器庫の時の様に少女らしい表情を見せていた。顔は涙で濡れ、負けたことへの悔しさからか唇を噛んでいた。
「今日のはまぐれだよ。ディセルが本気を出せば、俺には一瞬で勝てると思うぞ?」
「何それ、それで慰めのつもり?言っとくけど、私は負けたなんて思ってないんだからね!今度戦う時は、もっと強い武器を使ってやるんだから」
「次回がない事を祈るよ・・・・・・」
「それに責任取ってもらうんだからね!」
「えっ!?」
「私に・・・私にその・・一生消えない傷をつけたことよ!」
「ちょっと・・・!人聞きが悪い子を言わないでくれ!俺は別に・・・回復魔法で治るんじゃないのか?」
「治るけど・・・やっぱり治らない!」
「どっちなんだよ・・・・・・」
_____________________________________
こうして、俺とディセルの戦いは幕を閉じた。修練場は思いもよらない結末にしばらくどよめきが続いていた。それに勝敗を告げるはずのアナウンスが自らの仕事を忘れていたことからも分かる様にこの結果は本当にあり得ない事だったのだと思った。
ディセルに銃を返した後、俺はレイスの待つ剣士の控室へと足を運んだ。時折、すれ違う、人々の視線が俺の心をじわじわと精神攻撃してくる。こっちの方が痛みよりも辛いと俺は心で思った。後に分かった事なのだが、今日の人の多さは剣士の少女たちから情報が漏れたせいらしい。もともと、誰でも許可さえ取れば使用が認められているこの修練場だけあって、人が多いのは当たり前の様だった。それに、普段は夜の仕事をこなす、影の支配者と言われていた元 《ローゼン・ミッドナイト》のディセルが表向きに姿を出すこと自体が
「キット、大丈夫?」
聞きなれた安心感のある声が心に響く。
「少し、傷を負ったけど大丈夫」
「見てたけど。まさかあんな戦い方をするなんてね」
「ディセルは本当に強いんだな」
「キットもだよ?だって、ディセルの
「
「序盤は危なかったけど、最後の方のキットは何か【別人】みたいだったよ」
「別人?レイスはおかしなことを言うな・・・」
「おかしくないよ・・・でも、本当に良かった」
「そうだな」
「これからも、よろしくね傍付き剣士さん」
「うん、こちらこそよろしく」
俺はレイスに渡された、水を飲み少し休憩した後、回復魔法で傷をいやしてもらった。暖かな感触が肌に伝わる。疲れのせいか元から眠かった俺の体はいつの間にか意識の海へと落ちていた。
「今日は良く頑張ったね、お休みキット」
_____________________________________
修練場の湿っぽい通路をツインテールの少女は歩いていた。敗北を初めて味わったことと、今までに感じたことのない言葉にできない恐怖、そして、全てが事実だということを忘れるなと言うように刻まれた両腕の傷。右手に持った銃を見るだけで先程の戦いが鮮明に蘇る。あまりの気持ち悪さに発狂し、銃を投げようとした右手を左手が止める。そうして、再び歩き出した。
彼女に語りかける者はある一人を除いて誰一人としていなかった。
「対戦ご苦労だった ディセル」
「セリカ団長・・・」
「まさか、あのような結末を迎えるとは私も思っていなかったのでな
壁に背を預け、淡々と語る白い髪の剣士。
「キットにあんな力があるとは思いませんでした・・・。もしかして、団長は知っていたのですか?」
「知っていたら、このような場を設けずともすぐに入団させていたさ」
「そうですか」
「今後はキット_キット=レイターをレシウル=ロイの傍付き剣士として扱うことにする」
「異論はありません。では、私は傷の手当てがありますのでそろそろ行きます」
羽が千切れ、地面を這っている蝶の様にその場からいなくなるディセルをセリカは何も言わずただ見つめていた。
「最後に一つ聞いてもいいですか?」
数歩進んだところでディセルは立ち止まり、セリカに質問をする。
「傍付き剣士の資格試験は最低でも上級階級並みの剣士でしか受けられないはずでは?戦ってみてキットという剣士は剣を持って、まだ数日と思えたのですが。それに、副団長の傍付きとなればもっと高い階級が必要になるはずでは?」
「あぁ、それのことか。確かにキットは剣を持って数日でまず間違いないだろう。それに、階級はこの国の民と変わらないはずだ」
「なら、何故?もしかして、どこかの王のご子息なのですか?」
「話が飛躍し過ぎているぞ、ディセル?」
「では何故!?」
「・・・・・・」
「本当の事は教えてくれないのですね・・・・・・」
「すまない。私もまだ、全てを掴めているわけではないんだ」
「分かりました」
「改めて、今日はご苦労だった。ゆっくりと体を休めるといい」
「気遣い感謝します」
ディセルは
もし、今の私にこの疑問を解く術が既に備わっているのだとしたらそれは____。
____いつか、話せる時が来たらその時は教えてください。
____グランシストさん。
去り際に放った言葉にセリカは一瞬動揺した。
「何が言いたい」
少し苛立ちを感じさせる声色でセリカは去り行く
Last Rator -Resurrected as Kitー キット @Kitaciel
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。Last Rator -Resurrected as Kitーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます