盗賊退治

 地方にある中規模都市、そこの冒険者ギルドに所属する若い魔法剣士は緊急だという依頼を受けたところだった。なんでも依頼者の住む村の近くに盗賊が居ついてしまい、いつ襲われるとも知れないとのことだ。

 魔法剣士は若い上にソロ、集団を組まずに単独で行動する冒険者であったが、その上でこのような緊急依頼を任されるほどの実力者だった。


 準備を整えた魔法剣士は大急ぎで出発し、話に聞いた村まで辿り着いていた。一流冒険者の移動速度についてこれるはずもない依頼者は当然町に置いてきている。

「おお、これほど立派な冒険者様が来てくださるとはっ!」

 村は寂れてはいるが、まだ荒らされてはいなかった。やつれてはいるものの村人が多く行きかい、村長だという老人からもしっかりと盗賊がねぐらとしている場所を聞き出すことができた。


 半日以上かけて移動してきた魔法剣士は少々疲れていたが、しかし状況は予断を許さぬということで、休息もそこそこにして盗賊退治へと赴くことにした。

 日が暮れる頃に着いたその場所は、廃村のようであった。先ほどの村と同じようなよくある田舎村が廃墟と化し、そこへ盗賊が居ついてしまったのだろう。


「ファイアボール!」

 廃村ならば遠慮はいらぬ、とばかりに魔法剣士は得意とする強力な火の玉を放つ魔法で先制攻撃をした。それはてき面に功を奏して、突然の炎と轟音に盗賊たちは浮足立って統率を乱していた。

「なんだ、一体どうなっている!?」

 がなる盗賊が火の手のあがる場所を見に来る中、魔法剣士は大きく回り込んで影の濃くなった場所へと身を潜めた。

「ぐぁぁ!」

「なんだ、どうした?」

 そして影から影へと身を躍らせながら次々と盗賊たちに斬りかかっていった。


 あっというまに、盗賊の頭らしき男を残すのみとなっており、火の手が消えぬ場所へと追い詰めていた。

「た、頼む、見逃してくれぇ! もう盗賊からは足を洗うからぁ!」

 みっともなく泣きじゃくりながら命乞いをする盗賊の姿に、魔法剣士は一瞬ためらいを覚えた。強くとも若い彼はこれほど言うのであれば改心することもありうるのかも、と考えたのだった。

 しかしその瞬間、燃えていた木材が爆ぜ、炎が揺れて何かを示すように照らし出した。そこには廃墟の中、腐敗した死体が積まれていた。それらは皆ボロボロであっても素朴な服装の面影を残しており、明らかに盗賊のものではないように思えた。

 廃村に盗賊が居ついたのではなく、人が住んでいた村を虐殺して盗賊は奪ったのだ。そう気づいた瞬間、魔法剣士の中にあったためらいは消え失せ、命乞いを続ける盗賊を無慈悲に斬り捨てた。


 その後、念のため廃村内を見て回った魔法剣士は、盗賊にも村人にも生き残りはいないことを確認して、帰途についた。しかし夜明けに辿り着いたのはまた廃村であった。

「暗くて疲れていたとはいえ、こうまで道を間違えるとは。動揺していたのか?」

 言いながら廃村に入った魔法剣士は、しかしここで異変に気付いた。盗賊の死体や廃墟内に積まれた腐敗死体は見当たらず、代わりというように白骨化した死体が点在していたのだった。

 訳も分からず、しかしこの事が気になった魔法剣士はすぐに来た道を引き返すと、一部が燃え尽きた廃村へと戻ってきていた。

「やはり戦ったのはここだ、こちらには確かに盗賊どもの死体が残っている・・・!」

 戦いの痕跡が確かに残るこの廃村内で、一つ二つではなく存在していたはずの腐敗死体が無くなっていることに気づいた瞬間、魔法剣士は背後に気配を感じて驚き、振り返った。

「ありがとう、ございます」

 確かに声が聞こえ、一瞬だけ見えたように感じた村人風の男、置いてきたはずの依頼者の姿はすぐに霞のように消え失せ、後には数十枚の硬貨が入った革袋が落ちていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る