第3話 昼過ぎの決闘

優男と独眼、杖に刀と手にする得物は違えども剣呑な雰囲気は優劣をつけ難い。

じりりじりりと音も無く詰めよる二人の間はすでに一足一刀、一息どころか瞬き一つ隙を見せればそこで終わりの剣客勝負。

目配せ、息遣い、指先から体の機先一つ舐める様に感じあい張り詰める一泊、時刻は刹那か久遠の果てか両者は笑う、奥歯を噛み締めれば自然口元が笑う様に歪むのだ。


一合、刃と杖が風を切り打ち合い互いに空を切る。

「乱波、まだ名を聞いていなかったな」

「名乗る程の者じゃございやせん、しのぶ事こそ草の花って事で一つ」


二合、独眼が刀を打ち下ろす、優男が杖を振るい刀の鎬に当てる様にして刃を逃がして間合いを半歩詰めてから額目掛けて打ち出す。

「そうか、なら首が繋がってる内にもう一つ、俺の首は幾らだ」

「まぁ、10両くらいですかね。手下も使えなくなって大赤字ですわ」


三合、打ち下ろした刀を反転し逆刃に構え切り返し独眼は優男の杖を峰で受け流す。

「この首安売りした覚えは無いが、俺もまだまだと言う事か」

「戦が終わってからこの所働き口も無く、あっしらの手間賃も下がる一方でして」


独眼の受け流しからの下段薙ぎ払いを優男は後ろに飛び跳ねて避けた。

「難儀よな、仕事の安売りは良くないぞ」

「まったくでさ、口利きに聞かせてやりたいですぜ」


傍から見れば組み稽古の様な流れで骨を断ち頭蓋を砕く剣戟を交わす二人は、おおよその腕の程を感じ取り相手の動きを取り入れて打ち込みに修正を加える。


「そろそろ終いにするか、町に行き今日の宿を取らねばならんのだ」

「いいですね、一仕事終えた後の飯は格別ってもんでさ」


戯言は終わり残るのは静寂、一歩、二歩、半歩。

独眼は上段の構え、優男は左前半身になり杖を正眼に向ける。

示し合わせたわけでも無く二人は同時に猿叫を上げて一撃を放つ、

優男は杖を腰溜めに正眼から水月に向けて突進からの突き、独眼は遅れたのか、優男が動いてから一泊置いて動き打ち下ろされた刀はしかし、優男を捉えるにはあまりに遅すぎた。

鈍く響く破砕音、砕かれたのは骨か、臓腑か。


「御見事」


どさりと倒れる肉の音、そこに立つのは独眼の男が一人。

如何にしてこの様な結末に至ったか、見よ砕かれた優男の杖を。

独眼の狙いは最初から優男の杖であった、杖を砕いた後に返す刀で胴薙ぎに振るい、また刀を振り上げから打ち下ろし優男を十文字に切り倒した。

しかし、その代償は刃こぼれに峰からの反りと、とてもではないが使える物では無くなってしまった。


「まったくもって厄日よ、褒められてもうれしか無いね」


十兵衛は天を見上げて嘆息一つ流れ雲を眺めた。

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剣客の野獣 粋杉候 @ikisugisoro

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