第2話 切った張ったが商売なんで

人気の無い旧街道、一人の男を旅装束の集団がくるりと囲む。

右手に打刀をだらりと下げて片目で睨み口元ニヤリ、嗤い止まぬ剣客の名は十兵衛。

相対するは一見普通の若者が数人、どこにでもいそうな顔の者達は特徴が無いのが特徴と言えるがただ一つ皆それぞれ死んだ様な目で懐から短刀を取り出し十兵衛を囲む所は共通していると言える。

その中にあって只一人頭目と思しき優男だけが十兵衛と同じく口元の嗤いが止まぬ、

手にする得物は他の若者と違い腰ほどの四尺足らずの杖が一つ、手に取る部分だけ鮫革を巻いた白木の杖の端をそれぞれ手で持ち構える。


「多勢に無勢と言わないんですね、旦那」

「言った所で何か変わるのか?」

「いえ何も、ただ多少は驚いてくれないと、つまらないじゃないですか」

「すまんな、三下を喜ばせる程芸達者じゃないんだ俺は」

「そんなんじゃあ、モテないですぜ」


優男が言い終わる前に十兵衛を取り囲む若者が四人同時に動く、四方から短刀を腰だめに構えての突撃、差し違えるのも構わず死んだ目をした男達が無言で駆けた。


四死完殺の陣、それこそが乱波達の必殺技。一度放たれた乱波の刃は確実に目標の命を取るまさに鉄砲玉の奥義。


乱波の動きを見るや十兵衛は左手だけで小刀を乱波の一人に抜き打ち投げ放つ、その動作は閃光の如し、小刀を額に受けた乱波は衝撃を受けた瞬間意識を絶たれた。

残りの三人は一人倒された事に何も感じない、生きながらすでに死人である彼らはただ刃を目の前の侍に突き立てる以外思考を捨てているのだ。


十兵衛はもう一方の乱波に半身で向き直り突っ込んだ、気が狂ったかと思われた動きに乱波は思わず腰だめから短刀を突き出した、しかし十兵衛は突き出された短刀の手首を片手で掴み組手秘伝のツボを着き捻り上げた。

思わぬ激痛に気がそれた乱波を十兵衛は引っ張り勢いをつけて背に迫る乱波へ当てた、ぶちかます形となった乱波どうしが衝突し互いに短刀が刺さる。

残り一人迫る乱波、しかし十兵衛は鼻で笑いやや崩した逆脇構えからの胴打ちを乱波と交差するように切り抜けた。


「ヒュー、やるじゃねぇですか旦那」

「お前らは俺の首で金が手に入るが俺には一切入らん、疲れるし切るだけ損だな」

「そう言いなさんな、その首に値が付くだけの事をしたんでしょ旦那も」

「さてな、覚えが無いしどの事だかも知らん」

「こりゃ大変な仕事受けちゃったな、人狩りじゃなくて虎狩だよこれ」


優男が杖を握り直し腰を落とし、十兵衛も刀を正眼に構えて対峙する。

ピーヒョロロロロ、トンビか鷹か、空高く鳥の声が鳴いた。

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