第4話 出会いは魔王の居酒屋で
ゴールデンウィークも後半戦。
元勇者である安藤勇は社長とは思えない安居酒屋で呑んだくれていた。
「お客さん、飲み過ぎでは?」
安藤はグラスをまわし、
「うるへぇなぁ! おりゃ元勇者だぞ?」
「ほぉ、それで?」
「そえで、この世界でしゃちょーにらったんだよ。らけどなぁ、おれみたいなすげぇやつはつまはじきにされたんらよね。」
「無様だな。勇者ともあろう者が・・・。」
「な、なにぃ? 客に向かって、、」
安藤は店員の方を向き、胸倉をつかんだ。
胸倉を掴まれた店員はあろうことか客の腕をつかみ、抵抗して
「ほう、この元魔王でここの支店長を任された俺に楯つくとは、いい度胸だな。同じくして異郷の者、、うわ。」
元魔王と豪語した男は下を向くとさっきまで威勢よく楯ついていた勇者は吐しゃ物を吐いて寝込んでいた。
「こいつ、寝ゲロしてやがる。仕方あるまい。 君、ちょいと店を頼めるか? 私はこの客人を介抱してくる。」
と言って肩を貸し、店を出ていった。元魔王の男は元勇者に肩を貸し、しばらく道なりに歩いていった。彼の酔いがさめるような場所を求めていた。辺りをうろついていると小さな公園があり、そこのベンチに横たわらせた。
さすがに公園で無防備に一人で寝させるのも可哀想だと思い、自分の店の制服を彼にかぶせて一つ離れたベンチに座り込んだ。
「・・・はぁ、なんで魔王たる私がこんな落ちぶれ勇者の介抱などせねばならんのだ。」
ベンチの背もたれに肘をかけ、上を見上げ深くため息をついた。勇者の男は少しえずきながら起き上った。
「う、ゲホッ、ゲホッ・・・。うえぇ、な、どこここ・・・。」
「起きたか、勇者よ・・・。」
安藤は頭を押さえながら起きあがり、ハッとして
「そう言えば、酔って吐いたんだっけ。でなんでこんな公園に・・・」
ふと横を見ると星を見ながらたそがれている長髪を束ねた人がいた。勇者はまだ酔いがさめていないのか暗がりで見えなかったのか
「きれいな人~。」
「お前、馬鹿か? 私は男だぞ。というか、もう立てるなら私は帰るぞ。ちゃんと自分のケツくらい拭いて帰るんだな。」
「ん~、この声、、あっさっきの店員! 」
「やっと目が覚めたか。愚か者め。私は元魔王アビス。それに私は店員じゃない。店長だ。」
「・・・! 魔王がなんでここにいるんだ。もしや、この世界をも侵略する気か?」
「お前とは違って私はすでに転生してきたチート勇者にワンパンで殺されたわ。それで目が覚めたらこの世界にいたんだ。お前は使命も果たせんただの怠け者だ。私はここまで慢心などせずバイトとやらをし、信頼を得、ここまで上り詰めた。お前もそうだったのだろう? では、同じように同じことをすればよい。ここは向こうと全く変わらん。人生の経験はレベルと同じようにつみあがる。失敗しても死に繋がらないことが一番の利点だ。」
魔王の言葉を聞いて勇者は目を覚ました。目の前がはっきりとするようにもなったのだった。そして立ち上がり、
「俺はまた、旅に出るよ。そして今度こそは伝説になってやる。」
といってお礼も言わずそそくさと立ち去って行った。魔王は呆然としながら見送っていた。
「・・・あいつ、財布置きっぱじゃん。」
魔王は、立ちあがりベンチ横たわった財布をポケットにしまい、店へと戻っていった。
異世界モンスター(?)は物申したい。 小鳥 遊(ことり ゆう) @youarekotori
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