人間神経衰弱のシティトライアル

ちびまるフォイ

同じ顔を集めるなら動かないでほしい

人間神経衰弱がはじまると、参加者はみな散り散りに探しに向かった。


「同じ顔……同じ顔……」


人間衰弱のために用意された区画の街では、

同じ顔の人間が2人1ペアで配置されている。


「あ! いた!!」


スタート地点近くにいた人をキープしつつ探していたところ、

偶然にもスタート地点付近のレストランに同じ顔の人がいた。


「これで1ペアだ。絶対に優勝してやる!」


ますますやる気になって街を巡回する。

けれど、幸先良かったのは最初だけで後はなかなか見つからない。


「本当に同じ顔の人間なんているのかよ……」


行き交う人すべての顔をチェックしているわけではないので、

もしかしたらすれ違っているかもしれない。


かといって、多くの人間をぞろぞろ引き連れながら

大名行列のように同じ顔の人間を探すのは移動速度が落ちる。


友達を探すのとはわけが違うほどに難しい。


「ああ、もう動くなよ! 顔がわからなくなる!」


街にいる人達はそれぞれ好き勝手に行動している。

買い物していたり自転車に乗っていたり寝ていたり。


角度的には顔が見えない場合もある。

わざわざのぞきに行くのも時間がかかる。


「え、もうこんな時間!?」


もたもたしているうちに半分以上の時間が過ぎていた。

未だにペアは最初の1つのみで、この先見つけられる自信はない。


他の参加者はいったいどうしているのだろうか。

顔認識ソフトでも使って効率的に探しているのだろうか。


だとしても、街単位で行われる人間衰弱で同じ顔の人物を探すのは至難の業のはず。


自分はあくまでも運がよく1ペア見つけられたのは幸いだったが……。


「待てよ。きっと他の参加者も見つけられてないに決まってる。

 この1ペアは大きなリードにちがいない!」


しだいに考えは人間を探すことよりも、他の参加者を妨害したほうがいいのではと思い始めた。

俺は神経衰弱の街で凶器を大量に買うと通行人をかたっぱしから襲い始めた。


「おらおらおらーー! とことんやってやるーー!」


ばたばたと人間神経衰弱のペア候補達は死んでいく。


まさか他の参加者は考えもしないだろう。


今、必死に探している同じ顔の人間がすでに死んでしまっていることなど。

この街をいくら探してたところでもうペアは見つからないということを。


ペア候補となりうる人間たちを減らせば、奇跡のペア発見は少なくなる。


そうなれば1ペアの俺が優勝できるにちがいない。

優勝への渇望は人を襲うことの罪悪感を薄れさせた。



最初こそ、他の参加者に俺が"ペア狩り"をしているのをバレないように

死体をこっそり隠そうと思っていたが、血を掃除するのも面倒になってやめてしまった。


「やめてくれーー! 私がいったい何をしたっていうんだ!」


「お前がペア候補というだけで問題なんだよ!」


おでこにホクロのおじさんを殺した。


その後は制限時間終了まで街を巡回したが、もう残りの人は見当たらなかった。

大量に放置された死体の山を見て、さすがにこの状況でペアを作れる人はいないだろうと革新した。



『 人間衰弱参加者の方はスタート地点に集合してください 』



アナウンスがかかりスタート地点に戻る。


俺ひとりだけ血まみれなのを見て他の参加者はぎょっとした。


「みなさん、人間神経衰弱お疲れ様でした。では結果発表を行います」


他の人間を見ても顔をうつむかせたままだった。

この反応から見てペアはできなかったのだろう。


必死に手を汚したかいがあった。


「優勝は――こちらの方です!!」


スポットライトに照らされたのは俺ではなかった。


「今回の参加者で最多の10ペアを達成しました。

 とくに、最後の追い上げはすごかったですね。おめでとうございます!」


「いやぁ嬉しいです」


優勝者は照れながらも勝ち誇ったように笑った。


「10ペア!? そんなの嘘だ! だってあんなに殺したんだぞ!?

 街には誰も人が残っていなかった! なのに10ペアなんておかしい!!」


「君が人間神経衰弱の人を殺し回ったのか」


「そうとも。そうすればペア候補が減るし、

 他の参加者もすでに死んだペアの片割れを探して時間ロスすると思ったからな」


作戦は見事に的中していたはず。

現に、優勝者以外の参加者は誰もペアを見つけられていない。


「君は人の命をなんだと思っている。それは人間への冒涜だ。

 命の重みを考えない人間なんて最低だ!」


「うるさい! お前、ぜったいインチキしてるだろ!

 10ペア……つまり20人も探せるわけがない!」


「だったら確かめればいい」


優勝者は10ペア、のべ20人の人間を並べた。

その顔は血の気や肌の色こそ少し違うが、まったく同じ人の顔をしていた。


「どうだ。見ての通りだ。私はちゃんと同じ顔の人間を集めたんだ」


「バカな……」


「君が殺し回ったところでそれは街の全員じゃない。

 私は残った人たちを集めてペアを作ったんだ。

 人の命を踏みにじって優勝しようとする君とは違うんだ!!」


「か、完敗だ……」


俺はがっくりとひざを崩した。

正攻法で負けてしまえばもう言い返す言葉がない。


目の前にはたしかに20人もの同じ顔のペアが並んでいるのだから。


「それでは優勝の賞品をどうぞ」

「ありがとうございます」


優勝者は賞品を受け取り、やたらデカいカバンに詰め込んだ。

ふと、優勝者の集めた人間を見ていると見覚えのある顔に目が留まる。


「あれ? あのほくろって……」


顔に7つものほくろがある、同じ顔のおじさんが立っていた。

さっきから立っているだけで身動き一つしていない。


「最後までちゃんと戦ったからこうして優勝できました!

 命を係止する卑怯者を負かすことができて本当に嬉しいです!」


嬉しそうにコメントする優勝者の声をききながら、

突っ立ったままのホクロおじさんを指で少し押した。




すると、首のない体に据えられていただけの頭部がズリ落ちた。

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