第7話「可能性」と言う名の拠り所

 天野(使者)は、俺に伝えることだけを伝えると、変なことだけはしないようにとだけ言い残してサッサと帰ってしまった。その後、タイミングを見計らったのように天野(使者)と入れ違いに母が帰ってきた。天野(使者)は、まるで俺の母が、帰って来る時間がわかっていたかのようだった。あいつ、ホント超能力者か何なのか、、、


 夕飯を食って、風呂に入り、寝る支度をしてベッドの上に寝転ぶ。



 天野(使者)にやるしかねぇと言ったものの正直どうしていいかなんて全くわからない。


 なんせ、まだこっち(過去)に来て一日なのだから。


 けれど確実に一日目を終えてしまったのだ。俺がこの世界に何日いれるのかはわかってはいない。しかし、システムを始める上で天野(使者)は、「このシステムは、死んだ人の未練を晴らすためにある。」と言っていた。だから、その未練を晴らすまでが期限なのだろう。


 何日分の一日を過ごしてしまったかはわからないけれど、どんなものにも始まりがあれば終わりがあるもので、今こうして、考えているうちにも終わりへと着々と進んでいる。

 

 終わりがあると分かっていても、終わりが着々と進んでいると分かっていても、不思議と落ち着いている。


 それは、明確な終わりが見えていないからだろう。


 人生と同じだ。人は誰しも明日死ぬかもしれない可能性を少なからずとも持っている。けれど、誰しも明日、自分の命がついえるなんて思っちゃいない。


 それは、あくまで可能性であって、さらにごくごく小さな可能性だからだ。多くの人が「明日自分は生きている」という他の大きな割合を占める可能性を心の拠り所にすることで、死というものを非日常的なものと捉え、あまり考えずに生きている。人間の心は時に繊細で、時に鈍感なのである。


 だからなんだと言う話ではあるが、要は、今の俺は、死ぬ前の俺と同じように生きてしまっているということだ。


 明日になることに危機感を少しも抱かずに生きている。


 結局、未練を晴らす方法も今のままでいいのかも分からず、安定の後回しで、ちょうどいいところにやって来た睡魔を歓迎して夢の中へと誘われていった。





 

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