第6話 淡い恋
俺は、高校生の頃、ある女の子を一途に恋をしていた。
長い黒髪で、瞳は大きく、手足がすぐに折れてしまうのではないかと思わせるほど細く、華奢な女の子だった。
その子とは、高1の時から、クラスが一緒だった。
けど、これっといった好きになった理由があったわけでもない。
ただただ一目惚れだった。
俺みたいな凡人とは縁のない人だと思ってた。
でも、席替えの時に、たまたまとなりの席になった。
初めのうちは、やっぱり、見てることしかできなかった。
彼女のノートにペンを走らせる姿に、髪をかきあげる姿に、彼女の一挙一動に、
俺は胸をドキドキさせた。
なんとか話してみようとしたがなかなか話し出すことができなかった。
でも、どうしても話がしてみたいと思って、高校生の俺はなけなしの勇気を振り絞って話した。
「塚原さんの名前ってなんて読むの?」
「…」
急に名前の読み方を聞くなんて変だったか。。。
「ああ、ごめん。急に変だよね、俺。気にしないで、忘れて。」
せっかくなけなしの勇気を振り絞ったのに、逆に嫌われてしまったかもしれない、やっちまった、、、
「しおん」
「え、???」
「つかはら しおん」
国語の教材として使われる「詩」に、音楽の「音」、それが彼女の名前だった。
そこからは、いろいろな話をした。趣味の話、昨日のテレビの話、部活の話、テストの話、とにかく話した。
その後席替えをしてからも、話の中で塚原さんは、どうやら家が遠いらしく、電車の関係で学校には割と早く着いてしまうということを聞いていたから、露骨だが、それに合わせて俺も学校に早く行くようにして、なるべく二人で話せるようにした。
俺の彼女への好意がバレバレでも、彼女と話したかった。
期待など一ミリもしてなかった高校生活が、毎日、楽しくて、学校から帰った後は、明日が楽しみで仕方無くなっていた。
最初は、話せるだけで幸せだった。
でも、悲しいかな。
人間というものは、一つの願いが叶うと、次へ、次へと欲望をむき出しにしていってしまう生き物だ。
話せただけで十分だったのに、俺の中では、次第に彼女を、塚原詩音を彼女にしたい、自分のものにしたいという気持ちが高まっていった。
高2になってもクラスが同じで、ますますその気持ちは高ぶり、いつ告白しようかと、必死に悩んで、白にも何回も相談した。
けれど、やはり勇気が出ず、高3になっても同じクラスになったらと、結局、神頼みのような意気地なしの決断してしまった。
俺はきっと怖かったんだと思う。
告白して、うまくいかなかったら、今のように話せなくなってしまったことが、、
そうやって後回しにしていた。
高3になり、教室に入ると彼女はいた。俺が教室に入ったことに気づいた彼女は「また同じクラスだね」と微笑んで言った。
俺はもう、運命なんじゃないか、と思った。三年間同じクラスになるなんて、白もそうだったが、そう何人もいるもんじゃない。
いくら臆病者の俺とは言えど、これで告白しなかったら男じゃない、と決心して修学旅行で告白することを決め、実際に実行した。
けれど結果は、あっけなく振られてしまった。
人生初の失恋で精神的ショックが大きくその場で泣きそうになったが、なんとかこらえて「聞いてくれてありがとう」とお礼だけ言って、その場を後にした。
その日の夜はこれでもかというくらい泣いた。振られてしまったことよりもこれから、朝早く学校に行っても気まずくて、今までのようには話せないことが何よりも悲しかった。
修学旅行の後は、気まずくて、朝早く学校に行くことも、教室の中で話すことも少なく、いや、ほぼ皆無と言っていいくらい無くなってしまった。
同じ教室にいるのに一番遠い存在となってしまった。
そんなどこにでもあるような失恋に「未練」があると言うのか、、
「そんな訳ないでしょうが!!!」
後ろから、人の心を見透かしたように叫んだのは、もちろん使者こと、天野だ。
「うわぁ、また、お前、どっから」
「普通にチャイム鳴らしても出なくて、でも、ドアは開いてたんで。」
「お前なぁ、ドアが開いてても俺の親とかいたらどうするんだよ。」
「それは確認済みですので、お構いなく。」
「お構いなくって、お前なぁ…」
「そんなことより、今、失恋をどうこうしようとするのが「未練」だとか思ってましたよね、、」
「お前、やっぱ、人の心読めんのか。」
「いや、顔に出てたんでそう思っただけです。それにしても、馬鹿ですね。」
「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは。」
「だってそうでしょ、ヒントで挙げたはずなのに、いつの間にか、それで記憶を呼び起こして未練を見つけて解決するだけってなってるじゃないですか?そんな答えに直接関わるようなことがヒントになる思いますか?」
「確かに、それだとヒントというより答えだな。」
「でしょう。一応言っておきますが、失恋をどうにかしただけではあなたの未練は果たされません。写真から言えるのはそこにヒントがあるというだけです。」
「そんなに教えてくれいいのかよ」
「あなたが馬鹿すぎるので仕方ありません。」
「あんたも意外とツンデレだな。」
「それ以上言うならあなたごと消しますよ。」
「失恋をどうにかすれば何か掴めるんだよな。」
「聞いてます??そうですよ、さっきから言ってるじゃないですか。」
「天野、ありがとな」
「そう素直に礼を言われると気持ち悪いですね。」
「どうしてだよ。」
「いや、ずっとネチネチしていたものですから。」
「うるせえなぁ、だってやるしかねぇんだろ。」
「まぁ、そうですが、」
こうもやる気が出ているのは、自分のやるべきことが見つかったからか、それが好きな人が関わっているかどうかは分からない、でも今はなんとかしてみたいと心の底から思う。
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