第5話 未練
学校の授業は、受験に合わせて進んでおり、受験が終わった今となってはもう、授業という授業はなく、卒業式の練習が終わると、すぐに解散になった。卒業式はどうやら3週間後に行われるらしく、過去に戻った俺が学生だったといううことは、タイムリミットはそこまでだろう。
「黎、一緒に帰ろう!」
「ああ。」
後ろの席を見ると、すでにそこには天野(使者)の姿はなかった。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。」
「そういえば、さっき転校生くんと何話してたの?」
「ただの世間話だよ。どこから来たの?とか、趣味はとか?」
「それなら、教室ですればいいじゃん。なんか、怪しいな。」
「まあまあ、それより、どう思う?あの転校生。」
「どうも何もほとんど話してないし、ちゃんと話したの黎くらいだよ。」
「そうか、ならいいんだ」
「ホント、なんか変だね、今日の黎は。」
笑って受け流したが、白の疑いの目はそのままだ。相変わらず察しがいいというか、なんというか。
「卒業式の練習が、始まるとさ、いよいよ高校生活も終わりって感じだな。」
また話そらしたなこいつ、と口では言わずとも顔がそう言っているが、諦めがついたのか仕方なさそうに俺の話に応じた。その後は、卒業式の練習の話に始まり、高校生活の思い出話に花が咲いた。そして道が別々隣ところで、「じゃあ、また明日」と言って、別れた。
思い出話でところどころ俺の記憶の欠落で白に再び疑いの目を向けられそうになったが、なんとか誤魔化すことができた。
「卒業」のワードがミスだったか。でも流行りのバンドや、ゲームの話よりかは、俺の記憶がかすかに残っているところで話せたからまだマシか。
なんとか一日のメインイベントとも言える学校が終わり一安心だと、安堵していると真後ろから、わっっっと背中を押して来る。
振り向くと、驚く俺のことをニヤニヤと笑う天野(使者)がいた。
「お前、どこにいたんだよ。卒業式の練習が終わった時にはもう、、」
「もしかして、探してくれてたんですか?」
「ち、違うけど。」
「斎藤さん意外とツンデレなんですね。」
「うるさい。それよりなんでお前ここにいるんだよ。」
「そりゃ、あなたを監視するためですよ。」
「もしかして、ずっとついてくるつもりなのか?」
「もちろん。」
「ストーカーかよ。」
「これも仕事ですから。でも、ご安心ください。家まで一緒ってわけではありませんから。」
「当然だ。」
「別にやろうと思えばできるんですけどね。あなたの家族の記憶を改ざんして私が斎藤さんの従兄弟だって言う設定にするとか。」
「お前、さらっとえげつねぇこと言うな。」
「でも、そこまではさすがにやりすぎだろうってことで、厳正なる審査で留めておこうということになってます。」
こいつから逃げるのは無理なんだろうと察して、自転車から降りて押して一緒に並んで帰ることにする。
「意外と素直なんですね。逃げ出すかと思いました。」
こいつ俺の心を読めるのか、、
「どうせ、逃げ出したところで家の位置まで知られてたら結局監視されるんだから、意味ないだろ。」
「もっと、プライバシーがどうとか喚くかと思いました。」
「いや、あくまでも俺はシステムを使わしてもらってる立場だからな。それに、、、」
「それに?」
「もし、俺が変なことでもしようものなら消すんだろ、どうせ」
「分かってますね、斎藤さん」
こいつの手の平で踊らせている感じがするのがどうも許せないが、従わざるえないのが現状だ。
「それにしても、久しぶりの下界はいいですね。」
「久しぶりって、あんたも前は人だったのか?」
「さっきから、「あんた」とか、「お前」とかやめましょうよ。私にも「天野」て言う名前があるんですから。」
「どうせ、適当だろ。」
「いえ、本名って言うかはわかりませんが、昔はそう呼ばれていました。」
「ってことは、やっぱり人だったのか。」
「そういうことになりますね」
「んで、なんで今、その「使者」やってるんだ?」
「それは、、、」
「それは???」
「秘密です。」
「なんだよ、それ」
「私にも秘密の一つや二つあってもいいでしょう。」
「ふうん。。」
「私のことなんてどうでもいいんです。それよりも斎藤さんわかりましたか?あなたの「未練」。」
「さっぱり、、」
「そんなのんびりしてたら、あっという間に死んじゃいますよ」
「笑えないジョークだな。あんたっじゃなくて、天野(使者)知ってるんだろう、俺の「未練」。」
「それは、まぁ一応。」
「じゃあ、教えてくれよ」
「それはできません。」
「どうして?天野(使者)の目的は、俺の未練を晴らすことだろ」
「そうですよ。」
「それじゃあ、」
「それでもダメですよ。」
「だから、なんで?」
「最初から答えがわかってたらつまらないでしょう。」
「お前、そうやって俺が苦しむのを楽しんでるだろ」
「そんなことないですよ。未練を晴らすのは自分自身の力あってこそなんです。」
こいつは、ふとした拍子に的を射たことを言う。
「そうかもしれないけど、いくらなんでも数十年前の「未練」を呼びおこせって言うのも酷じゃねえか?」
「呼び起こすものでもないんですけどね。でも、まあいいでしょう、特別にヒントをあげましょう。このままでは、「未練」を果たすどころか見つける前に死んじゃいそうですから。」
「なんだ、そのヒントは?」
「そのヒントは、斎藤さんの机の中にある一枚の写真にあります。」
「写真?」
「それでは、健闘を祈ります。」
「ちょっと、お前」と引き止めようとした時には遅く、天野は消えていた。
家に帰ると、どうやら母は出かけているらしく、俺一人だった。天野(使者)の言われた通り自分の部屋に行き、机の引き出しを開けてみると、やはり、そこには天野(使者)の言う通り一枚の写真が入っていた。
それは、京都に修学旅行に行った時の班の集合写真だった。
もしかして、
「未練」ってそのことなのか、
でもその「未練」は、、、
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