第4話 あり得ぬ刺客』 2

「これから卒業式の練習が始まるから、あんまり休むなよー、お前ら。」


担任の先生が出て行くと同時に生徒の会話が始まる。受験の結果待ちの者もいるだろうが、大体の者が試験は終えているからか教室は、比較的穏やかな空気で満たされていた。


けれど、俺には、話を聞かなきゃいけない奴がいる。


「天野、ちょっといいか?」


「転校生に向かっていきなり、何なんですか?」


もっともな意見だが、言っていることと、態度は相反するものでこちらを嘲笑うかのような態度だ。


「いいから、頼む」


「ま、しょうがないですね。」


とりあえずこの転校生と、二人にならねば、、


「黎、どこいくの?」


「あ、うん。ちょっとな。」


と、適当な返事になってしまったことに後ろめたさを感じつつも、今はそれよりもこいつのことが先だと振り払って教室を出る。



学校で二人になるのはかなり難しいことだが、うちの学校ならではのうってつけの場所がある。


屋上だ。


うちの校舎から、屋上に出るには、鍵が必要になる。


だから、他の生徒は基本寄り付かない。


けれど、俺はあまりにも古くなったせいでその鍵が意味をなさなくなり容易に屋上に出れることを知っていた。


屋上に出ると、生温い風が吹き抜ける。


なんとも形容しがたい匂いではあるのだが、その匂いは、確実に春の訪れを感じさせるものだ。


「で、何の用ですか?斎藤 黎君。」


「"何の用”じゃないくて、なんであんたがここにいるんだよ?」


「言いそびれていました。私が過去と、未来に行くにあたっての話をしたのは覚えてますね?」


「もちろん、覚えてるよ。」


「その中で、言った注意点も覚えていますよね?」


「周りの人にこのシステムを話さないとか、人の人生を大きく変えるようなことはしないとかのやつだろ。」


「そうです。でも、そもそも、なんでそんなルールがあると思いますか?」


「いや、そんなの、わかる訳ないだろ。俺は神でも使者でもねぇからな。」


「それはですね、今までにいたんですよ。そのルールを破った者が、、」


「まじか、そいつは何したんだ?」


「その人もあなたと同じように亡くなってこのシステム利用したのですが、彼はあなたとは違って「未来」を選択しました。」


「どうして?」


「彼が亡くなった日が彼の結婚式だったんです。それでどうしても式だけは挙げたいと」


「そりゃ、そうなるわな。」


「そこまでは問題ないのですが、彼は彼の妻にこのシステムの内容を話してしまったのです。」


「それはまずいな、」


「はい、でも、ぶっちゃけると、ある特定の秘密を漏らさない人ならなんとかなるんです。」


「どうして?」


「その人の記憶だけを消せば済みますから」


「お前さらっと怖いこと言うな。それでその夫婦はその後、どうなったんだ?」


「夫は、システムの通り、その男性が未来にいった、1日後に再び亡くなりました。でも問題はその後です。そのシステムのことを聞いてしまった奥さんは、夫を追うように自殺してしまったんです。」


「切ないねぇ」


「そんな呑気なことじゃないですよ、こっちからしてみれば、大事だったんですから。」


「それで、結局どうしたんだ?」


「最初に話した通りそもそも無かったことにしましたよ、随分手間はかかりましたけど。それ以来、このシステムを実行する時には、我々、使者一人が、担当してあなたたちを監視するという役割ができたんですよ。」


「へー、使者も大変だなぁ」


「でも、ご安心下さい。斎藤君が何か血迷うことがない限り私は、関与しませんし、とやかく言うことはありませんので。」


「とは言ってもどうもしっくり来ないんだよな」


「と、いいますと?」


「いや、だってさ、そもそも今の俺って、過去の記憶を持った俺だろ。つまり、今の俺は過去の俺とは違った行動ができる訳だよな」


「そうですね。」


「じゃあさ、例えば俺が白と話す時に、過去の俺と全く違うことを話したら、もう、それで白の人生に影響を与えてるってことになる、そんなこと言ってたら、俺は常に人の人生に影響を与えてることになっちまう。」


「半分正解で、半分不正解です。」


「また、それかよ。」


「じゃあ、三割正解、七割不正解」


「正解から遠ざかっているじゃねえか。」


ふふっと笑いながら、使者は話し始めた。


「斎藤さん、パラレルワールドってご存知ですか?」


「SF漫画とかで、出てくる奴だろ。」


「そうです、パラレルワールドっていうのは、この世界と並行して存在し決して交わらない世界のことです。例えば、斎藤さん最後にギャンブルにはまってらっしゃいましたよね?」


「ああ、そうだよ。」


「でも、これとは逆に斎藤さんがギャンブルにはまらなかった世界(人生)もあるってことです。その仕組みとはまた違うのですがそれと似たようなものを利用してできるのがこのシステムなんです。」


「神業だな。」


「まさにそう、この仕組みは神様によるものですから。」


「神様って本当にいるんがな?」


「はい、私も一度しか会ったことはありませんが存在は確かです。ここで斉藤さんに質問ですが、神様の仕事ってなんだと思いますか?」


「人の寿命を決めるとか?」


「おお、鋭いですね。正確には、この世の生き物すべての「生と死」を決めるのが神様の仕事です。」


「すげぇな。」


「すごいでしょう。でも、このシステムを行うにあたって、システムそのものが神様の仕事に影響を及ぼしかね無いのです。」


「どうして?」


「考えてみればわかることなのですが、例えばあなたがこの世界が嫌になって、未来のあるクラスメイトを殺してしまったとします。」


「そんなこと絶対しないけどな。」


「例えの話です。実際、神様にしてみれば、一生命体が消えてなくなろうと、燃えてチリジリになろうとどうでもいいんです。」


「おうおう、ひどい言い方だな。」


「けど、問題はその先にあるんです。仮にその人が本当は、将来結婚して、子供を産んだとしましょう。するとどうなりますか?」


「その子供は生まれなくなるな。」


「そうです、しかもこれだけではないんです。この殺されたクラスメイトと結婚する相手が結婚するはずもなかった相手結婚して、子供を産んだとしましょう。すると、」


「本来生まれるはずのなかった子が生まれる。」


「その通り。一つの生命体をが消えること自体は正直どうでもいいのですが、その影響がはかりしれないんです。」


「確かに、そう考えると、そもそも神様はよくこんなシステムを作ったよな。神様からしてみればただのリスクでしかねぇじゃねぇか。」


「おっしゃる通りです。ここから私の推測ですが、神様は生死の時を決める手前、申し訳ないと感じいるんだと思います。」


「申し訳ない?」


「ええ、いくら神といっても地上に生きる生命体すべての生きるシナリオまでは決められません。決められるのは、いつ何時生まれ、死ぬかそれだけです。けれど死に直面した生命体の都合を気にして、その都度、それを変えていたらきりがありませんから。ですが、神様にもきっと感情があって、心があって、理不尽に命の終わりを決めてしまったことへのせめてもの償いなんだと私は考えています。」


「償いねぇ」


「ですから、斎藤さんは、精一杯悩んで、もがいて、苦しんで自分の未練を晴らして、成仏して下さい。」


そう言い残して、天野天こと、使者は教室に戻って行った。


あまりにも多くの情報量で、処理できないでいると、学校のチャイムが鳴り響く。教室に戻らねば、、


学校の中に入ろうとドアを開けるとまた、風が吹け抜けた。


けれど、その風は、出てきた時に感じた風とはまた違って、より温かく感じる気がした。











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