第3話 あり得ぬ刺客』 1
白を全速力で追っていたら息が上がってしまった。これでも一応、高校三年間は陸上部に所属していたのだが、白の逃げる時の速さはそれ以上か、、
「お前そんなに遅かったか?」
「俺が遅いんじゃなくて白が速いんだよ。」
えへへと、嬉しそうに白は笑う。昔と何も変わらない。
「ったく、本当によくそんなボロいチャリで速く走れるよな。」
そう言うと白は、さっきの嬉しそうな顔から一変して 、頰を赤く膨らまして俺の方に近寄る。
「お前、それ貶してんのか?褒めてんのか?」
俺はそれに笑いながら「褒めてるに決まってるじゃん。」と言い返す。
こんなたわいもない話が、ギャンブルに溺れ、酒に呑まれ、家族をも捨て、冷え切った俺の心には暑すぎるくらいの温もりを与える。これだけでも、人生の最後?に過去に来た甲斐があるというものだ。
「なぁ、黎、聞いてんのか?」
「あぁ、ごめん、全然聞いてなかった。で、何の話だっけ?」
「お前、今日おかしいぞ。朝の自転車は遅かったし、さっきから俺が何話しても上の空ていうか、聞いてるかどうかもわからない感じでさ、、」
「自転車は関係ないだろ。んで何の話だっけ?」
「だから、今日からうちのクラスに入ってくる転校生のことだって、」
「え、転校生????」
俺が驚きのあまり大声を出すと、白が鬱陶しそうに、
「先週の金曜日、先生が言ってたじゃねえか?お前、話聞いてなさすぎだろ」
さっき日付を確認したところ俺は、高校三年生で残すところの学校生活もあと一ヶ月弱となっていた。そんな時期に転校生など来た覚えがない。でも、白が知っているということはそういうことなのだろう。
「こんな時期によく入ってくるな。もう卒業だっていうのに。」
「だから、変だよなって、黎、全然俺の話聞いてねぇし。」
「だから、悪かったって。」
そうこうしているうちに、教室にたどり着く。教室のドアを開けるとそこには結構人が集まっていてみんな各々友達と話したり、ゲームをしたりして始業までの時間を潰していた。高校生活最後の席だったからか何となく席は覚えている。俺の席は窓際の一番後ろの席で白はその一つ前だった。けれど俺の席の一つ後ろには転校生用のものと思しき机と椅子が置かれていた。
「やっぱり、来るみたいだね、転校生。」
「ああ、こっちの列ってことは男子みたいだな。」
「そうだね。」
先に来ていた懐かしの友達も交えて話をしているうちに始業のベルが鳴り、皆席に着く。
担任が入ってくるなり号令がかかり点呼を取り始めた。多くの生徒が進路を決めたり、大学の試験結果待ちだったせいか、ほとんどの生徒が出席しており、先生が呼ぶ名前と俺が知る限りの未来を照らし合わせていると、当時、ただの点呼だと作業的に捉えていたものも、ああ、あいつは〇〇に就職した、あいつは〇〇と結婚したと考えているとどこか楽しく、でもそれを話すことができないことにもどかしさを感じた。
「えっと、先週も話したが、今日からうちのクラスに転入する生徒を紹介する、入れ。」
教室のドアが開くと同時にクラスがどっとざわめく。この感覚も学生ならではだ。入ってきた転入生の身長は見たところ俺より少し高めで、顔も男の俺から見ても決して悪くなく、でも、高校生には思えない大人っぽさ感じられた。この顔どこかで、、、
「今日から卒業の時までお世話になります、天野 天(あまの そら)と言います。短い間ですが仲良くしてください。」
この声どこかで、、、
「じゃあ、天野は、斎藤の後ろに座れ。」
先生の言われた通りに転入生が俺の横を通り過ぎ、席に着く。やはりどこかで、、
「“過去”には慣れましたか?」
その一言で俺の記憶は蘇った。
「お、お前、ど、どうし・・・」
「おい、斎藤、まだHR終わってないぞ」
「す、すみません。」
大人しく静かにすると、後ろの転校生はいたずらっぽく笑う。
どうやら、俺の過去の生活も一筋縄ではいかないみたいだ。
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