第3話 あなたは用務員さんですよね?

 デュポン暦2019年12月


 エミリアは授業終了後の夕方、当番により、実習で使った道具の後片付けをしていた。グラウンドに吹き荒れる冷たい風がエミリアの白い肌を刺激する。


 作業が終わり、渡り廊下へ向かうと、エミリアを待っていたかのように、50代くらいの作業服を着た男性が立っていた。


 用務員だろうか、エミリアは、ペコリと挨拶をした。


「回復魔法と防御魔法に優れているんだって?」


 その男性は、にこにこしながら暖かい雰囲気でエミリアに話しかけた。

 誰だろう、とエミリアは少したじろぎながらも、はい、と頷いた。


「回復魔法と防御魔法、どのくらいのレベルを会得しているの?」


「どちらも一応難易度Aランクの上位魔法を使えます。形態が人と若干異なるので、本当に難易度Aランクと言っていいのか謎ですが……」


 エミリアは自信なさげにおどおどと落ち着きなく答えた。


 きちんとした工程を踏まないので、推薦組の生徒達には、胡散臭い。気持ち悪いと言われていた。


「見せてくれる?」


「? はい……」


 エミリアはその男性を警戒しながらも、自分の唱えられる最上級の防御魔法を唱える事にした。


 右手を空へかざし、青白く透ける光を放出。そして自らの体を強靭な網目状の膜で覆う。


 エミリアは防御魔法を訓練学校で教わったのだが、回復魔法と同じく何故だかストンとエミリアの体に馴染んだ。


 対魔法防御も対物理防御も、障壁だって作れる。


 いくらでも――何度でも――。


 とは言っても、実際に魔物相手に防御魔法を使用した事は無いので、自分の魔法がちゃんと効力があるのかは不安だが。


「僕にも防御魔法をかけれる? 」


「あ、はい。できます」


 エミリアは自分と同じように、防御魔法を唱え、男性を光の膜で包んだ。


「凄いねぇ」


 訓練学校に入ってからは叱られる事の方が多かったので、エミリアは嬉しくも恥ずかしい気持ちになった。


「回復魔法は怪我をしている対象者がいないので、とりあえず花にかけましょうか」


「そんなこともできるの?」


「はい。成長を勝手に早めてしまうのは可愛そうかなと思って、最近はやらないのですが」


 子どもの頃は遊びでよくやっていた。


 エミリアが回復魔法を唱えると、渡り廊下傍にある、土のみの花壇の中から、若葉が生まれ、ぐんぐんと植物が成長し花をつけ、草が生い茂る。花壇は緑で溢れ、葉先は渡り廊下まで侵食した。


「雑草だらけで花が埋もれちゃいましたね」


 仕事が増えてしまった。早く食堂へ行かなきゃいけないのに。鎌はあるだろうか、とエミリアは焦った。


「凄いねぇ……。うん、ありがとう」


 男性は、機嫌良く笑った。


「雑草はこちらで処理しておくから戻っていいよ」


「そ、そうですか? すみません……」


 エミリアは夕食の時間が迫っていたため、申し訳ないと思いながらも、足早にその場を後にした。時間に遅れると夕ご飯がなくなるのだ。


 あの男性は、誰だったのだろうか。


 エミリアは首を傾げた。

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