エピローグ
エピローグ
「はぁっ、はぁっ…」
吐く息が荒い。時々痰がからみ、ベッと吐き出そうとするのだが、唾液が枯れていて思いどおりにならない。
「なんだってあたしがこんな目に…」
そう自問するのは何度目だろうか。
背の高いヒマワリをかきわけ足を早めようとするが、柔らかな畑の土に足を取られて転びそうになる。
それでもユニは闇雲に走った。
その時、轟音とともにさっきまで走っていた畑が、土と黄色いヒマワリの花を巻き上げて派手に爆発した。
背の低いユニが二メートル近くに伸びたヒマワリが密生した中を走っているのである。
相手に彼女の居場所がわかるはずがない。
それなのに敵は当てずっぽうなのか、時々至近距離に恐ろしい威力の魔法を撃ち込んでくる。
『ユニっ、無事か!』
黒っぽい大きな影が突然ユニの傍らに飛び込んできた。
「ライガっ!
あんたこそ生きてたの?
てっきりさっきの爆発で吹っ飛んだと思ったわ」
『馬鹿っ、俺がお前を残して死ぬはずがないだろう!
それよりヨミが呼んでいる。
マリウスの小僧と一緒らしい。
乗れっ!』
ユニは慣れた動作でライガの毛並みを掴むと背中によじ登り、姿勢を低くしてしがみつく。
巨大なオオカミは速度を一気にあげ、矢のようにヒマワリ畑の中を飛んでいく。
しばらくすると前方に魔法攻撃が開けた大穴が見えてきた。
ライガは躊躇なくその中に飛び込む。
穴の底にはマリウスとヨミ、そして群れの仲間たちが集まっている。
身体をぶつけるようにしてマリウスの横に転がり込むと、彼が怒鳴った。
また近くで魔法が炸裂し、凄まじい轟音が鳴り響いたのだ。
「今、障壁魔法を張りました。
この穴から決して出ないでください。
魔法の直撃がない限り、でかい岩が飛んでこようと平気です」
「魔法が直撃したら?」
ユニが耳を塞ぎながら怒鳴り返す。
「それは運がなかったと諦めてください」
「何なのよ? あのヒス女!
爆裂魔法って一日に一度しか撃てないんじゃなかったの?
それをこうもボカスカと――。
大体、ここは帝国の領地じゃない、自分の国の畑をめちゃくちゃにして、お百姓さんに呪われるわよ!」
その声をかき消すように、さっきの爆発で巻き上げられた岩や石、土砂、それにヒマワリの残骸がバラバラと頭上から降ってくる。
ただ、それらはユニたちの頭上数メートルのところでマリウスが張った防御障壁に阻まれ、彼女たちには危害を及ぼさない。
「これは爆裂魔法じゃないですよ。
いや、原理は同じなんでしょうが効果範囲が狭すぎます。
マグス大佐はピンポイントで爆撃できて、しかも連発が効く新魔法を開発したみたいですね」
「感心してる場合かっ!
どうにかしてあのヒス女の尻を蹴飛ばしに行くわよ!」
ユニの喚き声を、再び爆裂音がかき消し、大量の土砂の雨が降り注いだ。
イゾルデル帝国中央部の穀倉地帯に拡がる広大なヒマワリ畑には、身を隠す場所などない。
ユニの呪いの言葉を嘲笑うように、マグス大佐の魔法が絨毯爆撃のように次々と炸裂していった。
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あとがき
八十万字を超す長編にも関わらず、最後までお読みいただきありがとうございました。
この『幻獣召喚士』は、書籍で言えば三巻構成の第一巻に当たります。
『幻獣召喚士2』が『幻獣召喚士』の第二巻ということになります。
この小説を読んでみて「面白かった」「もっと読んでみたい」と思った方は、どうか『幻獣召喚士2』もよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054902247720
さらに物語は『幻獣召喚士3』(2022年完結)にまで続きます。
もしよかったら、気に入った話にはハートマークを、作品に対しては☆の評価ポイントを付けていただけると嬉しいです!
幻獣召喚士 湖南 恵 @onami_k
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