第15話 勇者 〜〜魔王の告白〜〜

 駅前のチープなイルミネーションの下で待ち合わせて、わたしたちは特に行くあてもなくそぞろ歩いた。


「聞いて欲しいことって、こんな道端で聞いてもいいのかな?」


「たぶん、大丈夫」


 そう言って笑うアスナが小悪魔みたいに見えるのは、なんだかとても久しぶりな感じがして。


「まさかアスナが魔王でした、なんて言うんじゃないよね?」


「そのまさか、よ。私が魔王なの。そして伊藤は、私があまりにも働かないものだから作動してしまった予備の魔王だったってわけ」


 アスナはステップを踏むようにくるりと回りながら言った。


「もちろん、あの晩、伊藤のすべてを封印したわ。記憶も含めてね。タイミングを見計らっていただけ。16年も魔王をやってきた私と、たったひと月かそこらの伊藤じゃ相手にもならないわ。地力が違うもの」


 そしてピタリと着地を決めると、アスナはわたしの額を指さして……


「この我のものとなれ、勇者よ」


 その声はまるで呪文の詠唱のように響いた。


「よろこんで。俺はお前を守る剣と盾になろう」


 糸のようだったふたりの絆が、この瞬間にもっと力強いものに変わったのを感じた。


「ありがとう。お礼に世界の半分はあげられないけれど、私のすべてをあげるわ」



fin.



【蛇足な自己批判】

https://kakuyomu.jp/users/kuronekoya/news/1177354054889274455

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現代日本に勇者が転生してきたけれど、魔王なんてググってもみつからないし、それじゃあ今どきの勇者って何をすればいいのだ? @kuronekoya

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