第14話 勇者 〜〜魔王の裁き〜〜

 Trick or Treat!

 アスナはそう言って、伊藤さんの家のドアをノックした。


「とにかく一回だけ、何も訊かずに言うことを聞いて」

 そう言われて、わたしはくるみと英二、そして池田さんを呼び出して、アスナに言われた通りに魔法陣の刻まれた丸い石を持ち、4人で大きな正方形を描くようにして伊藤さんの家を囲んでいる。

 3人ともありがたいことに本当に何も訊かずにそうしてくれた。


「どちら様? まだハロウィンには早すぎるわ」


 そう言って出てきた伊藤さんのお母さんであろう女性の額をアスナが指差すと、その女性は気を失ったみたいに崩れ落ちた。


「ちょっと待ってて」


 背後に立つわたしに言いおいて、アスナはズカズカと家の中に入っていった。


 中で何があったかはわからない。

 けれど、一度手の中の石が熱くなった。

 そしてここしばらくずっと、しこりのように感じていた胸のつかえが消えたのがわかった。


「もう大丈夫」


 さっぱりしたような、疲れ果てたような表情かおでアスナは出てきた。

 LINEで3人に連絡を取り、駅近くのファミレスに向かった。


「今日はキリトの奢りね」


 アスナにそう決めつけられたけれど、否やはない。


「何があったか説明してくれるんだろう?」


「ううん、それは秘密。でも、もう明日からはあんなイジメまがいのことはもう起こらない。それだけは断言できる」


「なんだかわからねぇけど、それでいいならいいや」


 英二が雑にまとめる。

 そしてアスナはチャイムを鳴らして、和風きのこパスタを注文した。

 あとはそれぞれに好きなものを頼んで、みんなニヤニヤしながらわたしに「ごちそうさま」と言った。


「伊藤さんに何かしたの?」


 池田さんがそう訊いたけれど、アスナの答えは「元に戻しただけ」のひと言だけだった。

 けれど、池田さんはそれで何かを察したようだった。


 会計を済ませて店を出る時に、アスナがみんなに向かって「空気が悪かったときも変わらずにいてくれてありがとう」と言った。


「幼稚園の頃からの付き合いだけど、山崎の素直な言葉って初めて聞いた気がするわ」


 池田さんがびっくりした顔で言った。


「今のアスナちゃん、いつもより『可愛い』気がする」


 くるみが言う。


「じゃあ、邪魔者は先に帰るか」


 英二の言葉で、わたしたちは店の前を離れた。

 もちろん、わたしはアスナを家に送っていく。


「ねえ、まだ早いけど、クリスマスのプレゼント、リクエストしてもいいかな」


 帰り道、聞こえるか聞こえないかギリギリの小さな声でアスナが尋ねた。


「私からも聞いて欲しいことがあるんだ」



【次話】 最終回 〜〜魔王の告白〜〜

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