第13話 魔王 〜〜勇者の告白〜〜
敷島は、「呆れるかもしれないけれど、一応最後まで聞いて欲しい。その上で別れると言われるなら俺も諦める。でも、アスナにはこの話を聞いて欲しいんだ」
そう言って話し始めた。
――俺が、「魔王」を倒すために異世界から転生してきた「勇者」だと言ったら笑うか? でも本当のことなんだ。
俺の前世での名前はパスコ――それなりに優秀な魔法使いだった。
至高神様に見出されてこの世界に転生してきたけれど、この世界の
魔法がなくても、科学の力でたいていのことは誰でもできるようになっていた。
世界中に人類が未踏の地などなくて、魔王のテリトリーなんて存在しなかった。
たぶん魔王は政治とか経済とかを裏側から操って、普段は俺みたいに一般人として振る舞っているんだろう。だとしたら、この広い世界中から、どうやってそんな魔王を探せばいいんだ? 俺は途方に暮れたよ。
とにかく一歩目を踏み出さなくちゃと思って勉強した。
たぶん、魔王と戦うためには、政治とか経済とかの権力を握らなくちゃいけないと思ったから。
でも万が一、一対一で対峙した時のために、剣道や柔道で体を鍛えてもいた。
思いがけない告白だった。
まさか勇者の方から正体を明かしてくるなんて。
――でも、高校に入ってアスナに出会った。
ひとめぼれだったよ。
俺には普通の人生なんて歩めないと思っていたから、こんな素敵な恋人ができるなんて想像したこともなかったんだ。
あの大雨の日……初めて抱き合って思ったんだ。
もう魔王なんていてもいなくてもいいんじゃないか? って。
アスナとこうしていられるなら、もう普通の人生を歩んでもいいんじゃないか? って。
ああ、せっかく勇者の籠絡は上手くいっていたのに……。
――最近、クラスの空気悪いよね。
俺たちのせいだよね。
こんな美人と俺みたいなのがイチャついているから。
!
――ん……。まだ。まだ黙って話を聞いて。
伊藤さんが言うんだ、俺たち別れるべきじゃないか? って。
アスナに悪い評判がついたらどう責任取るつもりだ? って。
たしかに英二や池田さんからもあっちのクラスでも噂になってるって言われたけど、俺たちそんな悪いことしてるかな?
少なくとも学校の中じゃ普通の恋人同士以上のことはしてないし、こうして毎日のように抱き合ってはいるけど、それってそんなに咎められるようなことなのかな?
俺は勇者の責任から逃げるべきじゃなかったのかな?
アスナの将来のためには別れた方がいいのかもしれないけど、俺アスナが好きなんだ。
でも、アスナのことが好きすぎて、アスナに溺れてるみたいで、本当にアスナのことが好きなのか、体目当てなのか、自分でもわからなくなってるんだ。
わからないまま抱き合って、アスナが受け入れてくれるたびに安心する。
でも、不安から逃げるためにアスナの体を利用してるだけなんじゃないか? って自分が嫌になるんだ……。
私はもう耐えきれなくて、敷島を抱きしめ、その唇を私の唇で塞いだ。
「キリト……。安心して。私は今の話を信じる。あなたは私を好きでいていいの。伊藤なんかの言うことに迷わされないで。私もキリトのことが好きだから」
口に出して、初めて自覚した。
私は敷島のことが好きだったのだ、と。
勇者だから、私に手出しできないように押さえつけておかなくちゃいけないから……そんなことでは全然なかった。
一番最初はそうだったかもしれない。
いや、そもそも最初から自分の気持を偽っていたのかもしれない……あの黒猫を使令として下したのを見られたときから、ずっと。
【次話】 勇者 〜〜魔王の裁き〜〜
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます