第12話 魔王 〜〜屈辱〜〜

 学校には、白石と工藤、そして池田くらいしか私たちの味方といえる人間はいなかった。

 逆にまだ経験値の低い伊藤では、その三人は堕とすことができなかったとも言える。


 私たちは教室の空気に逆らい、ふたり寄り添うようにして過ごした。

 放課後はいつも通りに図書館に向かうふりをして、私の家に行って抱き合った。


 使令の鳥や犬猫を使い、ふたりの家族の様子は24時間監視して伊藤の攻撃に備えた。

 放課後や始業前、机や靴箱にいたずらしようとする者もいたけれど、私の気配を強く残しておいたから、実際に手を出せた者はいなかった。

 魔王の力をもってすれば何ということもなかったけれど、逆にそんな些事にかかずらわされることに腹が立って仕方がなかった。


 晩夏、もしくは初秋。

 いつものようにベッドで抱き合いながら私は言った。


「もうすぐキリトの誕生日でしょう? プレゼントはどうしよう? 私、手料理も振る舞ったし、貞操も捧げちゃったし、何をあげれば喜んでもらえるのかわからないの」


 敷島は私を強く抱きしめると、そのままの姿勢で絞り出すように言った。


「アスナの時間を少しだけもらえないか? 聞いて欲しいことがあるんだ」


 別れ話か?

 敷島まで伊藤に籠絡されてしまったか?!


 私は動揺した。

 生まれて初めて動揺した。

 伊藤がふざけたことを始めてからというもの、私は「生まれて初めて」の経験を更新しっぱなしだ。


 敷島に死なれるよりは、このただれてはいるけれど安穏とした日々を失う方がまだマシか?

 返事をする私の声は震えていたかもしれない。


「いつがいいの? 今? それとも誕生日まで待てばいい?」


「今から聞いてもらえるか?」


「いつお母さんが帰ってくるかわからないけど……」


 私たちは衣服を身に着けて、ベッドに腰掛けて話し始めた。



【次話】 魔王 〜〜勇者の告白〜〜

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