働け、魔女モンスター!
烏川 ハル
フィリア頑張る
魔王に率いられたモンスターが跋扈する、レナトゥス・ワールド。
いつの頃からか、チキュウという名の別世界より、テンセイシャと呼ばれる勇者たちが続々と来訪するようになっていた。
岩だらけの僻地に佇む魔王城では、ヒト型の――女性型の――モンスターであるフィリアが、偉大なる魔王様のしもべとして、今日もせっせと働いている。
「やってられないわ、まったく……」
誰もいない薄暗い小部屋で愚痴をこぼしながら、朝から晩まで――魔力が尽きて眠りに落ちるまで――、フィリアは、得意の転移魔法を使い続けていた。
どうやら、テンセイシャたちは、神々によって送り込まれてくるらしい。
ならば、そのテンセイシャという存在を、神々よりも早く見つけて、先に抹殺してしまえば良いではないか!
それが偉大なる魔王様の立てた
彼女の転移魔法は、時間と空間を越えて、別世界に物質を送り届けることが出来る。だからこれで、過去に遡ってテンセイシャ候補を抹殺してしまおう!
残念ながらフィリアの魔法では、命あるものを転移させることは出来ない。刺客を直接、送りつけることは出来ない。だが、兵器ならば大丈夫だ。少し昔の時間の、テンセイシャ候補がいる地点をピンポイントに狙って、兵器をぶつけてやればいいのだ!
なお、確実にチキュウの人間を殺せるように、この計画では、チキュウ製の兵器を使うことになっていた。いつのまにかこの世界に紛れ込んでいたチキュウの兵器を、偉大なる魔王様は、ちゃんと確保してくれていたのだ。
「毎日、毎日、私は……」
文句の一つも言いたくなるが、そこはグッと我慢して。
大切なチキュウの兵器を、まずフィリアは、魔法で
続いて、監視魔法で
「アッド・ミッテ!」
転移魔法の呪文を唱えて、その『少し過去』のチキュウへ、複製された兵器を送り込む。
こうして。
今また、一人のチキュウの人間が――テンセイシャと成り得る者が――、その人生を終わらせた。
「ふう……」
監視魔法の対象を切り替えて、フィリアは、また同じ工程を繰り返す……。
魔王様の忠実な配下であるフィリアが、いくら頑張っても、レナトゥス・ワールドにはテンセイシャが続々とやってくる。
どうして私の努力は報われないのだろう、とフィリアは疑問に思う時もあるのだが……。
残念ながら、彼女は知らないのだった。
テンセイシャ――転生者――という言葉の、地球での意味を。
彼女の使っている兵器が『トラック』と呼ばれる
この『トラック』で殺されたテンセイシャ候補たちが死後どうなるのか、ということを。
(「働け、魔女モンスター!」完)
働け、魔女モンスター! 烏川 ハル @haru_karasugawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
カクヨムを使い始めて思うこと ――六年目の手習い――/烏川 ハル
★209 エッセイ・ノンフィクション 連載中 298話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます