第??話 「再巡」
その人物は天井の抜け落ちた廃ビルの最上階から町を見下ろしていた。
性別も国籍も分からない顔つきに、男性や女性、子供や老人にも聞こえる声をしている。
かつては銀、と呼ばれた者は何かするわけでもなくただ町を見ていた。
夜に包まれた町には灯りが溢れ、町ゆく人々には笑顔が見て取れた。
ふと、背後から足音が聞こえる。その方向を見た銀は微笑みながら声をかける。
「久しぶり、だね。うん、その様子だと記憶は戻ったみたいだ。最初見た時はとても驚いたけど、今となっては理解しているよ」
町に溢れる光を背に銀と呼ばれた者は笑う。
風でなびく髪が光を透過する。
「どこまで予想できてたか、だって?そうだなぁ……最後の契約の内容は想定外だったけど、その結果はある程度予想通りかな」
嬉しそうにその場でクルクルと踊りながら、銀と呼ばれた者は歌うように語る。
「彼は彼女の想定を超え、一つの物語は終わりを迎えた」
銀と呼ばれた者は声高らかに宣言する。
「そしてここからは誰も想像のつかない未知の領域。僕らですら知らない世界だ。さてさて、これから人類がたどる道は繁栄か絶滅か。その命運はまさしく彼らに預けられた、ということだね」
ピタリ、とその場で踊るのをやめると、不思議そうに首を傾ける。
「正気じゃない、と言われても困るんだよね。なにより、同類である君には言われたくないかな」
そうして愉快そうに笑う。
「全く、君も随分変わったね。以前の君ならそんなこと言わなかっただろうに」
ゆっくりと、告げる。
「ねぇ、黒斗?」
英雄 @shino991
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