2‐8

青い雫のペンダントが地球に転がりこんで来たのはおよそ200年前。それともう一つ、赤色のペンダントというものもこの地球に存在する。場所はマリン王国の南西に位置する火の国、ルナーツ王国。それはたった50年前のこと。ルナーツ王国の火の使い手であるプリンスは、王になる前に亡くなった。それを悲しむ父である王は、火の力を宿る赤い雫のペンダントをブレスレットに埋め込み、地球へ送った。どうしてだかこの王は青い雫のペンダントの行へを知っていたのだ。これからどんなことが起こるのかも、アルノーのごく一部では問題視している。その一人であるルナーツ王国の王は誰にも明かさずこっそりと国宝を地球へ送った。これがどんなに一大事であるかは、皆様には分からないであろう。


———・・・


 大勢に囲まれる平一はものすっごいしかめっ面をしている。それが面白くて思わずクスクスと笑ってしまう。もちろん、平一には私が笑っていることなど確認する余裕などない。みんなは分かってない。大人っぽい素振りをしているが、実は子供っぽい性格をしていることを。暗闇には弱いし、笑うと幼く見えるし。

「マリノちゃんは知ってるの?」

「私が入院した病院の医者の子だからね。」

「え!?親、医者なの!?でも納得!顔いいもんね!」

蓮華は横できゃっきゃと騒いでる。あれって、かっこいいんだ。なんでもいいけど。

「ん?」

騒ぐ生徒と嫌がる平一の中央に、小さく赤く光る何かが見えた。

「んー?」

それを目をすぼめて見ているとさらにその光が大きくなる。心なしかその淡い赤の中に焦げたような黒い煙もモワモワと出ているような...。なんとなく嫌な予感がする。

「みんな、平一から離れて...。」

言いかけた瞬間に、平一がドスの効いた低い声が辺り一面に響いた。

「離れろ。」

一瞬にしてピリッと空気が強張り、平一の周りの人も目を丸くした。

「あら、どうしたの?浦上平一君。」

声をかけたのは先程まで一番ネコナデ声で話しかけていた真矢だった。

「うるせぇ。ドブネズミが。」

「どぶねずみ...。」

私も明らかにキャラが変わっている平一に驚いていて固まる。更に驚いたことに平一の口から黒い煙が吐かれていた。そういうものだっけ?いや、自分の記憶がないだけかもしれない。

「やだ。私何かしちゃったかな?」

真矢も慌てて話しかけている。その時だ。強い熱風が校庭に多くの小さな渦を巻いた。そして露になった平一の左腕の赤い雫のペンダントが埋め込まれたブレスレット。それは忌々しく赤く点滅している。明らかにこの強い熱風はあれが原因だ。

『聞こえるか?マリノ。』

「ペル!これどうなってるの?」

四方八方からの悲鳴が耳を傷める。生徒が混乱している中、先生は落ち着くように指令を出し、体育館に入るように誘導している。

『落ち着いて聞け。この騒動は平一の負の感情によるものだ。細かい説明は省く。とにかく平一の闇の力を浄化しろ。』

「そんなこと言われてもどうすればいいのさ...。」

「マリノちゃん、誰と喋ってるの?危ないから早く非難しよ。」

「マリノちゃん早く!」

テレパシーでペルと会話しているので蓮華と絵里奈には独りで喋っているように見えるのだろう。でもそんなこと気にしている場合ではない。

『いいか。マリン・マイ・オリーと唱えて平一のペンダントに触れろ。』

「それだけでいいの?」

『早く!』

ペルからの声が大きくて頭がゴーンと鳴った。

「オウェ。頭の中で怒鳴るな。優しくないなー。」

と言われてもどうすればいいのやら。平一の周りには誰かれもを妨げる風の壁のようなものが立ちはだかっていて近づくことができない。

「おーい。平一!!!大変なことになってるよ!」

大声を出してみても本人には届かない。我を失っているのか。そういや平一とはテレパシーを使って話せないのだろうか。そうすれば我を失っていたとしても直接脳に響いて目を覚ますかもしれない。でもかなり現実離れしてるしな。夢物語かも。私は考えながら平一を見てみる。かなり険しい顔をしいて、辛そうに見えなくもない。

「まあ、やってみるか。」

まずはペルと喋る時を思い出してみる。確か声が届くのは決まって心臓のペースに合わせて脳に響く。呼吸を整え、自分の心臓の音を胸に手を当ててリズムを聴き、感じる。そして、次は平一にリズムに合わせて意識を向ける。するとどうだろうか。ラジオの雑音のような音が脳に響いた。これはヤバい。酔う。

『平一、この風を沈めて!』

平一は何かに気づいたような素振りを見せ、風が弱まっていくのが目で見て確認できた。これはチャンスだ。私は目眩がしたままよろよろと平一のそばへ歩いて行った。

「マリノ...。」

私に気づいたようで名前を呟くがどこか上の空だという事が伺える。えっと、なんていうんだっけ。私は平一のブレスレットの赤いペンダントに触れて唱えた。

「マリン・マイ・オリー。」

するとスッと風はやみ、シーンと静かになって沈黙が流れた。

「オウェ...。」

「マリノ!?大丈夫か!」

頭痛と吐き気が一気に小林真理乃を襲い、意識を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

浄化するのは君の闇-Let's go 過去と未来へ- 衣草薫創KunsouKoromogusa @kurukururibon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ