第2章 それぞれの使い手

2‐7

 ピピピピ…ピピピピ…ピピピピ…

朝7時。

ガチャンッ

目覚ましを壊した。

「あ、ヤバい。怒られる。」

騒がしい朝でした。


 「ポチもくるの?」

『ポチじゃない。我はペルだ。』

「どっちでもいいよ。」

学校まで歩いて15分。お母さんに「行ってきます。」といって玄関から出ると犬の姿をしたポチ…ペルも付いてきた。

「それよりなんで乾かないの?白くはなったけどずっと湿ってる。」

ペルは元々灰色だった。でも、お風呂で洗うと真っ白な可愛い耳の垂れた愛らしいワンちゃんになった。のはいいのだが…。

『やはりアルノーの火じゃないと乾かなかったな。水は日本の水道水でも綺麗になったのは良かった。』

「アルノーて、地球じゃない別の惑星だよね?なんか違うの?」

『アルノーの火は浄化するための火と何もかも焼き尽くす火、二種類ある。浄化するための火は人の心の闇、濁った水、普通の水などを主に浄化する。何もかも焼き尽くすための火は水から発生する。だから焼く火はアルノーでは火ではなく水と呼ぶんだ。』

「なんか言ってることが難しくて分かんない。でも、その特別な火を使わなきゃペルの体は乾かないということが分かったよ。」

しばらく歩くと信号が赤になったのが見えたので立ち止まる。ペルも暖かい太陽が当たる場所で日向ぼっこしてくつろいでいる。あ、欠伸した。

「おはよう。マリノちゃん。犬なんて飼ってたっけ?連れてきたの?」

朝から元気な蓮華がこちらに近づいてきた。家の方向が同じらしい。

「はよ。連れてきたっていうか着いてきたんだよ。」

多分ペルは逃げないとは思うけど見た目の問題でリードはちゃんとしてある。

「名前はなんていうの?」

「ポチ…じゃなかったペル。」

言い間違えると一瞬ガルルル…と、犬特有の怒った声を出す。しまいには嚙みつきそうな勢いもあったため私は内心涙目だった。

「ごめんなざい。ぺるざま…。」

「この子学校にまでついてこないよね?」

「分かんない。」

「分かんないかぁ。」

「ワンワン!」

ポチ…じゃないペルは本当に昨日のでっかい灰色の龍なのだろうか。何処をどう見ても普通の犬だ。

『今度ポチ、て言ったら姫君でも容赦しませんよ。』

前言撤回。凶暴な犬だ。テレパシーで低い声を直接脳へ送られると流石にビビり「ヒッ」と思わず声を出してしまった。というか私は姫君じゃない。

「どうしたの?」

「なんでもない。」


 学校へ到着するともう既に沢山の学校の生徒が校庭で遊んでいるか立ち話をしているかしていた。絵里奈も自分たちの昇降口の前で私達を待っていた。

「おはよう。絵里奈。」

「はよ。」

「おはよう。知ってる?転校生来るんだって!」

「本当!?女子かな?男子かな?」

蓮華は絵里奈の言う転校生に興味津々でその話題に食いついている。私はというと、学年の子みんな転校生というか自分が転校生のようなので何も感じなかった。正直なところ蓮華と絵里奈のこともよく知らない。そんなことを考えていると同級生と思しき華やかな女子が私に話しかけてきた。

「大丈夫?マリノさん。春休み中ずっと寝込んでたんでしょう?可哀そうに。」

なんていうんだろう。すごいこの子見下した態度。全然私を心配している気がしない。

「ごめん、誰?」

というと、後ろから蓮華と絵里奈がサポートしてくれた。

上田うえだ真矢まや。家が金持ちで自分がお姫様だと勘違いしているのよ。」

「マリノちゃん、あんまりかかわらない方がいいよ。」

「ふーん、て言うことは中二病か。」

私がきっぱり本心を言ってしまうと真矢は顔を赤くして激怒してしまった。

「私を誰だと思っているの?私は上田グループの社長の娘よ。今度バカにしたらただじゃ置かないから。」

言い捨てると「フン。」と背中を向けてどっか行ってしまった。なんか私誰かを怒らせてばっかだな。

「ごめんなさい。」

「そんな悲しい顔しないでいいよ。マリノよく言った!」

「うんうん。あの真矢に対抗するなんて!」

ションボリする私を慰めてくれる蓮華と絵里奈。

「もうそろそろ時間だから並ぼ。」

絵里奈は校庭の中心を指さして私を連れて行ってくれた。それからと言うもの、長い長いお約束の校長先生の話だったり、生活指導主任の話だったり、担任の先生の紹介だったり、退屈な話をボケッと聞き終えた後に、クラスで集まって担任の先生の話を聴いた。このときに例の転校生が現れてクラス全体がザワついた。

「転校生を紹介します。広島から来た浦上平一君です。これから二年、仲良くしてください。」

※5・6年生クラス替えなし。

「よろしくお願いします。」

またもやクラス全体はどよめいた。転校生の容姿、大人びた口調に、特に女子が黄色い声を浦上平一に浴びさせている。それを私は平一の周りに集まる大群から10歩ぐらい離れて冷静に見守っていた。

「平一は転校生だったんだ。」

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