1‐6
「承知した。姫君の仰せのままに。」
灰色の龍はう頷くと中に取り込まれた平一を外へ出した。ザーザーと降り続く雨の音と、ゴーゴーという不気味な風の音がまだ洞窟の外側から聴こえている。
「おはよ。と言ってももう夕方だけどね。」
平一は目を覚ますと、うつらうつらと目を瞬かせな上がら半身を上げた。すると何かに目が留まったらしく目を見開いて固まる。
「あぁ、この子?洞窟の奥で見つけたらついてきたの。」
私が頭を撫でると気持ちよさそうにのどをゴロゴロ鳴らすそれは、犬の姿をした先程の龍。色は龍の姿と同じように灰色で毛並みがふわふわとしている。
「はっペンダント…ペンダントは?」
いきなり何に慌てだしたと思えば盗もうとしていた青い雫のペンダントのことだった。私はペンダントを出して見せる。すると平一は悔しそうに顔を歪めた。
「くそっ失敗した。」
言い捨てると体育座りのまま両腕に顔を埋め、平一を呼んでも顔をあげなくなってしまった。
「もしかして、私が病院にいたときに平一が私の横にいた理由はこれを手に入れるため?」
平一は頷いた。
「そっか。」
正直な感想。子供みたいな人だなと思った。そして感情豊かだ。よく笑うし、悔やむし、萎れし、面白い人だ。沈黙の中ボーッと、雨を眺めていると今度は平一が少しだけこちらに目線を向けて訊いた。
「憎んだり、怒ったりしないの?」
私はその問いの意味が分からず首を傾げてきょとんとした。
「なんで?」
「あ、いや。その…。」
平一は私の反応に困ってしまったのか目をキョロキョロ泳がせて今言うべき言葉を探している。
「ごめん俺…。最初からマリノを利用するために近づいたんだ。だからマリノが目を覚ますのをずっと待ってて。だから、怒ってくれないと気が済まないていうか、なんというか…。」
目を泳がせて、溜息をついて、頭を掻いて、忙しいやつだ。必死さは十分伝わるけど。
「怒んないよ。」
平一は「え?」と、驚いた顔をする。どんなけ怒ってほしいのだろうか。
「だって、いつも見せる笑顔は演技じゃないことぐらい分ってたし、それに、そんなに必死に謝るてことは仲直りしたいんでしょ?」
すると、今度は平一の方がきょとんとしてしまった。
「違う?」
「ううん。違わない。」
「そう。でも、その代わり、私達のこと手伝ってくれる?」
またしてもよく分からないと首を傾げてきょとんとする平一。すると、次の瞬間に脳に直接信号が送られてきて二人してビビった。
『マリアについて真実を調べてほしいんだ。我はこの地球に来てから何年たったかも分からない。生きているのか、死んでいるのか、将又生まれ変わっているのさえも分からん。』
平一は困惑した顔でジッとこちらを向いてビクビク肩を震わせながら訊く。
「この犬が喋ったのか?なんなんだ!?」
「これはテレパシーらしいよ。脳に直接届くから頭がガンガンする。」
『すぐに慣れるさ。それよりも平一にも我の声が届くのか。君はただの地球人じゃないな。何者なんだ?』
平一は「分からない。」と首を横に振る。
『そうか。まあ、よい。いづれ分かる。と言う訳でよろしくお願いする。姫君の行へをどうかお導きください。』
春休みは記憶喪失から始まり、浦上平一、蓮華と絵里奈に出会い、そして謎の洞窟へ入り、現実離れした体験をした。盛り沢山の春休みであったが、これらはまだほんの序の口だと犬の姿をした龍は言った。明日は始業式。小学校5年生になります。
【おまけ】
『我のような高貴な神の一部を見て悲鳴をあげるなど何事だ。』
「水神の3分の1さん。怒らないでよ…。」
ぷんすか怒る家に連れて帰ってきた犬の姿をした灰色の龍。今は洗面器にお湯を入れて体を洗っています。
「お母さんはあなたを見て驚いたんじゃなくて泥だらけの犬を連れてきたことに驚いたんだよ。」
数十分前。
「お母さんただいま。」
「お帰りマリノ。雨凄かったけど、意外とずぶ濡れになってないね。」
お母さんはリビングから顔を出して安堵したようでホッと胸をなでおろした。私の足元で尻尾を振り振りしているわんこを見るまでは…。
「お母さん。この子飼おう。」
「ギャーーーーーー!!!!!!ちょっと暴れないで、家じゅうが泥まみれになる!」
「まあ、確かにあの驚きようは尋常ではなかったね。」
そして今に至る。
「ごめんね。うちのお母さんが。」
『フン。それはいいとして、先ほどの水神の3分の1さんという呼び名はなんなんだ。』
「だって、3分の1なんでしょ?」
雨が上がった後、私たちは家に帰りながらこの龍の姿をした犬に訊いた話。この龍は水神の一欠けらなんだそうで。後二人水神の象徴がこの地球にいるのだという。それを探してほしいというのだが、海外だった場合どうすればいいのやら…。
『確かに水の神の象徴の3人のうちの1人とは言ったが失礼にも程がある!』
「えー、じゃあ何て呼べばいいの?」
神様という存在はこんなにもめんどくさいものなのだろうか。心底呆れてしまう。
『マリノが名前を付けてくれたまえ。』
「私が考えていいの?」
私は顎に手を当てて考えた後、ぴったりだと思った名前を披露した。
「ポチ。」
『・・・。』
この後水神の3分の1は私の決めた名前が気に入らなかったらしく可愛く犬らしく激怒してきちんと自己紹介してもらった。この犬の名前はペルらしい。それなら最初からそう言えばいいのに・・・。
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