1‐5

 水が石の表面からポツンッと落ちる音、タン・タン・タンと私達の足音が狭い洞窟の中で響く。するとそのとき、外から豪風が洞窟の中で木霊して怒号のように響いた。

「きゃー!」

「へ...平一。」

16時、雨が吹き荒れる中洞窟探検をするマリノは平一に...

「苦しいよ。窒息する。」

抱きつかれていた。


 「暗いところ苦手なの?」

自分より怖がっている平一にびっくりして怖さも吹き飛んでしまった。

「暗所恐怖症で結構苦手。マリノは大丈夫なんだ。」

「平一が驚きすぎて怖くなくなっちゃたよ。よくあるでしょこういうの。それにしてもここは暗すぎだね。これより先に進んだところで危険にさらされるだけだろうからもう戻ろう。平一も怖いでしょ。」

平一は声を出さない。ただ引っ付いている質量だけ感じるのでいなくなった訳ではないらしい。声が出ないだけで頷いたのかもしれない。

「じゃあ戻ろうか。」

その時だった。どこかから眩い青い光がどこかからでてきて眩しさで視界を妨げたのだ。

「眩しっっっ」

光が和らぎゆっくりと目を開けるとここは昼間のように明るくなり、平一の姿が消えていた。そしてもう一つ気づいたこと。

「ペンダントがなくなってる。」

手で胸元を探してもあのペンダントがみあたらない。平一が持って行った?いや、持っていくにしても触られた感触が全くない。ならばどうして?洞窟はまだ奥に続いている。これだけ明るければ探索もしやすい。平一は暗さに耐えられず家に帰ったのかもしれない。逆に先に奥に行ったのかもしれない。

「とりやえず行ってみるか。平一が奥で泣いてるかもしれないし。」

あの大人びた印象から泣き顔を想像するとなんだか自然と笑えて来た。

「ははっ。似合わないなー。暗くて怯えた表情も見えなかったし。ま、仕方ないか。」

マリノは洞窟の奥へ歩いて行った。


———・・・


 『水神すいじんの御加護があらんことを』


これはマリン王国の別れ際に交わされる挨拶。水神とは字のとおり水の神様。水神は今でも水の使い手を今でも探している。


———・・・


 どこまで続いているかも分からない洞窟を歩いていくと下に降りるための階段があった。なんだか遺跡みたいだ。下に降りるとひときわ目立つように青い強い光を放つあるものが置かれていた。

「これ片手剣だ。かっこいい。触っちゃお。」

持ってみるとやや重く振り回せない程ではない。この剣には病院で寝ているときに紙芝居の夢で見たマリン王国の文様がかたどられている。あの紙芝居の内容と何やら関係がありそうだ。片手剣を持ったまま奥へ進んでみると広い部屋みたいになっていた。ここには本が沢山並ぶ本棚や道具が机の上に散らかっていたりしてファンタジー好きにはたまらなそうな興味深いものが沢山あった。

「行き止まり。平一はいなかったし、家に戻るか。」

すると、スッと手元が暗くなったので不思議に思い振り返ってみる。するといたのがでっかい灰色の龍だった。

「・・・!?」

その龍の中心部にはいなくなっていた平一が取り込まれていた。

「我らの姫君。どうして我を置いて行きそなただけ逃げた。どうしてこの少年に水石すいせきを触れさせようとした。」

「話が見えないんだけど。そんなことより平一返して。」

「フン。」

龍は何も答えずしてこちらをずっと見つめる。

「何よ。」

「どうしてその剣をこちらに向けない?そなたの大切な人を人質にしているというのに我が憎くないのか?我は少年の息の根を止めることだってできるんだぞ。」

そういう龍はなんとも興味深そうにこちらを眺めている。なんというか、変な龍だ。

「人質にするってことは取引がしたいんでしょ?何してほしいの?」

「我は質問に答えてほしいんだ。水石はマリアの大切な代物のはずだ。それなのに我を捨てて逃げ去った。我は姫君にずっと会いたかった。」

龍は悲し気にそう言って目を細めた。もちろん、そんな話をされても答えを私が知っている訳がない。そこで私はある提案をした。

「私は姫君じゃないし、姫君が誰なのかも知らない。でも、あなたの言うその答えを探す手伝いはできると思う。平一を解放してくれたら一緒に探してもいいよ。」

私がそう提案しても龍は納得がいくまいと顔を横に振った。

「いいや。その必要はない。何故ならあなたが我らの姫君だからだ。その魂を我が見間違えるはずがない。」

なんともしぶとい龍だ。私は思わず龍から目を外して溜息を零す。

「ううん。違うよ。と、言いたいところだけど記憶がないんだよね。」

「それは本当か!?」

記憶がないと言った瞬間に食いついてきた。これはチャンスだ。

「うん。だからこそ、一緒に探さない?私の記憶が戻ればあなたの質問にも答えられるかもしれない。記憶にあなたの質問の答えがなかったとしても一緒に探せば見つかるかも。」

龍は少し考えた後に深く頷いた。

「承知した。姫君の仰せのままに。」

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