冴えない修羅場の潜りかた

羽海野渉

冴えない修羅場の潜りかた

「か、霞ヶ丘詩羽あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

「何よ、澤村さん。そんな大声を深夜に出すとご近所さんに迷惑よ?」

「近所も何も、あんたたちの家じゃないからここ……」


 現在の時刻は午前一時過ぎ。春の同人誌即売会の印刷所〆切まで数時間を残すのみ。

 現在、俺たちはいつものblessing softwareの第二部室的な場所でその即売会で出す同人誌の原稿作業に追われていた。


 blessing softwareは同人ゲームが中心のサークルであり冬コミが目標ではあるが、俺の幼なじみで今や『フィールズクロニクルⅩⅢ』で名声を馳せている天才イラストレーター・柏木エリこと澤村・スペンサー・英梨々が主宰するegoistic-lilyはそうもいかず。

 ただでさえ、『chelly blessing 〜巡る恵みの物語〜』と『フィールズクロニクルⅩⅢ』で長いこと出ていなかったのだから、このタイミングで出ないとファンに申し訳ないという英梨々の考えによりサークル参加することが決まっていた。


 ちなみにジャンルは『フィールズクロニクルⅩⅢ』の外伝的お疲れ様本。キャラクターたちが制作の実情だったりスタッフでしか知り得ない裏情報や制作の実情を(明かせる範囲で)喋っていく形式のショートストーリーや、外伝コミックが収められるマニアなら喜ぶ一冊だ。

 その一冊を作るために、『フィールズクロニクルⅩⅢ』でメインライターを務めた天才ライトノベル作家・霞詩子こと霞ヶ丘詩羽先輩と、俺こと安芸倫也は英梨々とともに原稿作業を進めていた。


 詩羽先輩はショートストーリーの執筆と外伝コミックのネーム監修が主な仕事だ。最初こそ、「なんで仕事が終わったのに書かなくちゃいけないのよ。ただでさえ『純情ヘクトパスカル』の仕事が遅れていて、イラストレーターさんにも申し訳ないっていうのに」と難色を示していたが、どうにかこうにかお願いしてなんとかここまで連れて来た。

 俺はといえば外伝コミックのベタやスクリーントーンを貼る作業とともに、印刷所との交渉も任されている。それに、一応は『フィールズクロニクルⅩⅢ』のメインスタッフが半公式的な同人誌を出すのだから仁義を通す必要がある、とプロデューサーである紅坂朱音さんにも連絡を入れていた。もちろん回答は「私が読みたいから、マルズの奴らが難色示そうとも握りつぶすさ」だった……何それ怖い。


 そんなこんなで、お疲れ様本の作業は進んでいた。あと数時間さえあれば確実に入稿できる、それくらいのスケジュール感。もちろん、一睡もできないけれどここにいるのは高卒イラストレーターと、明日が全休の大学生と、大学は落ちたけれどなんとか不死川ファンタスティック文庫さんからお仕事をいただいて食いつないでいるダメなオタクなので入稿後潰れても問題はないはずだ。

 さて、そんな俺たちがなんで騒いでいるのかというと……


「ここのネームの指定! なんでいきなり胸が大きすぎるからまな板にすることって書いてあるのよ! 主人公の幼なじみの健気なヒロインが冒険に旅立つ主人公に対して想いを馳せる感動的なシーンでナンセンスよ! それにこのキャラクターだってスリーサイズの決定権はキャラクターデザイナーでメイン原画のあたしにあるはずじゃない!」

「スリーサイズの上から79.9・56・86でこの描写は大きすぎというものよ澤村さん。いくらあなたがキャラクターデザイナーでスリーサイズの設定を決めていたとしても、それがシナリオ的にどうかを判断するのはメインライターの私だし、もっといえばキャラクターの決定権、生殺与奪権は紅坂朱音にあるわ。それに主人公の幼なじみなんてちょっとしか出ないキャラクターじゃない、私でさえそこまで綿密な設定を作った覚えはないのだけれど」

「あんたはあの健気なヒロインをきちんと書いてないのよ! 健気に待っていたのに、冒険中に出会った魔法使いや騎士たちとキャッキャウフフなハーレムを築いて魔王を倒して平定したかと思えば、自分の村に戻るとまだいたの? みたいに幼なじみのことをさらっと流して!」

「あら、ちゃんと書いてないなんて今回が商業デビューだった新進気鋭の天才絵師様に言われるとは思ってもみなかったわ。私はいつも最初に出て来たヒロインがゴールインするなんていう安直なハッピーエンドは認めないという作風で書いているつもりだけれど。例えば、あの三十禁ライターが書いていた白い……」

「はいはいそこまでそこまで! 脱線しちゃうからね? きちんと今入っている修正について話し合おうね!?」


 別にあのゲームはルートごとにヒロインが違うし、最終的な大団円は仮面をかぶっていた学園のアイドルなんだから大丈夫だろ!?


「じゃああなたはどうすればいいと思うのよ、倫理君!」

「そうよ倫也! あなたはこの主人公のことを健気に思い続ける幼なじみの女の子がこれくらいあっても良いわよね!」

「いいや違うわよね、倫理君。世界を救う一大事に旅立った主人公のことをいつまでも思い続けていて、帰って来たときには主人公にもライターにも『あ、こんなキャラクター作ってたからまた登場させようかな』みたいな感じで登場させられたぽっと出のキャラクターなんてまな板でいいわよね!」

「その件についてはコメントを差し控えさせていただきますぅ!?」

 正直、胸の大きさは作者の好み、ってことでいいんじゃないかな……? だめですかそうですか。


     ※ ※ ※


「先輩! 加勢に来ましたよ!」

「おぅ! よろしくな、出海ちゃん」


 深夜も二時が過ぎた頃、blessing softwareの二代目イラストレーターである後輩の波島出海ちゃんがやって来た。こんな時間に女子高校生が出歩いていいのか否かという問題はさておき、締め切り間際でクリスタが使える人間が増えるのは非常にありがたいものである。


「あ、ちゃんとお兄ちゃんに送ってもらいましたから安心してくださいね!」

 そういえばあいつは免許を取ってるんだよな。それに同人業界で荒稼ぎしたお金で自家用車も持っているとかなんとか。

「……ちなみに伊織は?」

「お兄ちゃんは、『僕がいると誰かの邪魔になりそうだし、柏木先生にはこき使われそうだからね、遠慮しておくよ』と言って新宿にレイトショーを観に行きました」

「さいですか」


 こんなやり取りをしながらも、机の上にはペンタブを用意し、ベタ塗り作業や簡単な背景などの作業を代行してくれた。これだけでも俺としては別の作業に取りかかれるので僥倖である。


「……波島さん。とりあえず感謝だけ言っておくわ」

「いえ、澤村先輩。この貸しはいつか商業の場で返していただければ大丈夫ですので!」

 ……だからっていきなり修羅場を始めないでね、別の意味の。


     ※ ※ ※

 深夜も三時となり、窓の外では新聞配達をするバイクの音が鳴り響き始める。

 そんな中、俺のスマートフォンからメールが届いたことを知らせるバイブ音が鳴り響いた。


「あ……」

「何よ誰から何が届いたのか言いなさいよ」

「そうよ、倫理君。どの女からの着信なの」

「先輩! お兄ちゃん以外のルートに進むのは許されませんよ!」

「違うよね! 今俺にかけるべき言葉はそうじゃないよね、特に出海ちゃん!」


 俺はノートパソコンでメールを開き、誰から何が届いたのかを明かす。


「ほら、詩羽先輩の『純情ヘクトパスカル』を描いてる嵯峨野文雄さんからゲストページのイラストが届いたんだよ。いやー、何回見てもいいイラストだよな、この人! 俺、ウェブで知ったときからいつ商業に出てくるのかな、って思ってたらまさか町田さんがセッティングしてくるなんて! 本当、解ってるよなぁって感じだったよな!」

「……倫也君、そこまでにして」

「あぁ、うん……そんな嵯峨野さんなんだけど、出海ちゃんが偶然イベントで一緒だったみたいでそれから親交があったみたいでさ。英梨々もゲストページを入れることは同意してくれたから、出海ちゃんの他にも交流あるイラストレーターさんにお願いしようかなって」

「……倫也」

「あぁもちろん町田さんにも仁義を通してるからね!? アンデッドマガジンの締め切りを落とさせるようなことはやってないし、何より本文がまだ上がっていないから作業ができないみたいなんだけど?」

「その件は一旦持ち帰らせていただいてまた追ってご連絡申し上げます」

「松原穂積さんのスケジュールを切迫させたことがあるんだからちゃんとしてよね……」

「……それは倫也君があのとき決断しなかったからじゃない。このオタク、○す○す……」

「えっなんだって聞こえないんだけど?」

「ここで鈍感系主人公に目覚めるとか、キャラのブレ激しすぎよ倫也……」


     ※ ※ ※


「やっほー、トモ! 修羅場やってる?」

「そんな居酒屋のノリで来るのやめろ。あ、トキとエチカとランコはこれから地獄に付き合ってもらう」

「そんな蒸せる文句やめてよね……偶然新宿にある音楽スタジオでライブの練習してたからいいけど……」

「そうそう。アッキーはあたしたちのこと軽視し過ぎだよ?」

「こんなんだからエチカが彼氏と微妙な空気になっちゃうんだよ? 私からは連絡しないとか言いながら、メールを書きためる姿なんかまさに……」

「あ、もうそういうのいいから作業してくださいお願いします」


 午前四時も過ぎた頃、レイトショーに行った伊織をそのまま送迎に向かわせ、icy tailのメンバーを作業要員として召喚することに成功した。伊織、すまない……

 俺のイトコでこのバンドのボーカル・ギターを担当する氷堂美智留こそ作業要員のメンツに含まれてはいないが、某専門学校の声優科に進学したギター担当のトキこと姫川時乃と同じ専門学校のコンピューター科に進学したベース担当のエチカこと水原叡智佳、地元の大学に進学したドラム担当のランコこと森丘藍子については貴重な戦力としてカウントしており。

 以前、『chelly blessing 〜巡る恵みの物語〜』の時にもそのパワーを発揮してくれたように、今回は柏木エリの原稿作業でもその力を遺憾なく発揮してくれることだろう……


「ちょっとアッキー! このページ、お××××とかお×××とか普通に見えちゃってるよ!? 消しが入ってないよ!?」

「おい、英梨々! 消し入れないと明日準備会から頒布停止措置が取られるの知ってるよなぁ!? それに今回は全年齢向けの健全な同人誌だぞ!」

「今の私はそんなことよりこの女の子をメインヒロインに育成するのが重要なのよ……ほら、早くそのスカートの下に隠れているお×××を主人公に見せちゃいなさい……? そしてページも少ないからすぐに行為を始めるわよ、させっくs」

「だから全年齢だから! 載せられないから! ネーム通りに描いてください柏木先生! とにかく、もう上がっているページからスキャンしたり、印刷所のフォーマットに合わせていって! 表紙の背幅もさっき確定したから、それで作ってくれると嬉しい!」

「トモにトキ、エチカ、ランコも頑張ってね〜。じゃああたしは景気付けに何か歌おっかな。じゃあ、とりあえず一曲目は「Little Busters!」から!」

「こんな深夜にアンプ繋いで歌うんじゃありません!」

「ノリ悪いなぁ、トモ」

「それに今その曲を聴いてしまったら、鈴のことを思い出して泣いてしまう気がする……」

「そうよねそうよね、『リトバス』ならやっぱり『エクスタシー』に進んでからの怒涛の展開が素晴らしいのよね! あぁ、思い出してきただけで涙が……」

「あら、それには同意しかねるわね倫理君と澤村さん。お姉さんキャラという圧倒的立場を占める来ヶ谷唯湖こそ『リトバス』における圧倒的メインヒロインに決まってるじゃない」

「あたしは小鞠ちゃんかなー」

「私は、美魚」

「やっぱり、沙耶だと思わない?」

「あーあー、あたしがあんたたちの気を紛らわしたことは謝るから作業して作業! オタトークに花を咲かせないで!」


     ※ ※ ※


「あぁぁ……倫也……終わらないんだけど……っ!」

「正気を保て英梨々! できるさ今のお前ならできるはずだから!」

「……っ! そうやって私も正直に言っておけば今頃倫也君とゴールインできていたのかしら」

「センパイはそのラブチキンな性格を根本から直さないと無理だと思うけどなぁ」

「あら、氷堂さん。あなたは真っ先にこの倫理君争奪誰がメインヒロインになるのか選手権から落っこちているのだから、口を挟まないでほしいわね」

「はいはい! その選手権私も興味があります!」

「波島さん、あなたも原作小説第二部で難なく各ヒロインのルートが書かれている時点で脱落よ」

「そうよそうよ! あたしと霞ヶ丘詩羽はきちんと一巻分も割かれているんだから!」

「はいはいそこまでそこまで! ちゃんと原稿進めような! ほら、また新しいゲストページ来たし!」


 午前五時も周り、朝日が疲れた俺たちの眼を刺激する。

 そんな中、またも俺のスマホは新たなゲストページが来たことを知らせていた。


「倫也? 次は誰よ」

「あぁ、聞いて驚けよ? あの『涼風遥シリーズ』のキャラクターデザインを担当した神アニメーター、鈴城古都子からのイラストだぞ! いやぁ、これは完璧な構図のイラストだなぁ……まさか今期も総作画監督を一本抱えているっていうのに、無理くり請けてくれるなんて……」

「なんであの鈴城古都子が……? あんたどういうコネを使ったのよ」

「違うんだよ? ただ、嵯峨野文雄さんにお願いしたときに偶然聞いていたらしくてね? それで町田さんも中に入って来てさ……」

「……つまりあれよね、不死川書房もP-1 Animationも『フィールズクロニクルⅩⅢ』のメディアミックスには関わりますという体のいいアピール。どうせされるはずのアニメ化の布石を打っておこうっていう姑息な手段よね。これだから大人って」

「詩羽先輩は不死川書房とP-1 Animationのどっちにも縁がある人間だよね!? それはそれと『純情ヘクトパスカル』アニメ化おめでとうございますぅ! 原作・シリーズ構成・脚本とかすごく期待していいんだよね? 霞詩子ワールドが映像でも見られるなんて嬉しいな!」

「……」

「ほら、こういうときに素直に言葉が言えないのがセンパイのラブチキンってとこだよね〜」

「哀れよね、霞ヶ丘詩羽」


     ※ ※ ※


「あははははははははははははははははははははは」

「澤村さんしっかりしなさい!」

「そうだぞ英梨々……あと三時間くらいで入稿〆切だぞ……」

「そういう倫理君だって寝るギリギリじゃない……」


 午前六時になり、俺たちの気力はもう限界だった。なんとか英梨々の作業は終了し、残りはベタやトーン貼りと、デザインを残すのみ。どう転んでも入稿できる、くらいには進歩した。

 とはいえ、ここ数時間の疲労が溜まっている俺たちにはそのわずかな希望が逆効果で……


「もうゴールしていいよね? 頑張ったわよね?」

「澤村さん、まだよあと数時間は起きてなさい作家として!」

「あれ、セルビスが見えて来たわ……? なんでセルビスが? なんで?」

「澤村先輩! 正気を保ってください! これはセルビスじゃなくて倫也先輩です!」

「セルビス……セルビス……」

「倫也先輩、完璧に寝落ちしてますけどどうしましょう……」

「アッキー、人を呼んでおいて寝落ちとかあとでなんか奢ってもらおう」

「……仕方ないわね、劇薬だけどあの女に電話するわ」


     ※ ※ ※


 午前七時を回った頃、スマホに着信が入ったことで俺は目を覚ました。

 ……つまり寝落ち。誰でもいいけど、起こしてくれてありがとう。


「ふぁい、安芸ですけど……」

『〆切前に寝れるとはいい身分だな少年』

「紅坂さん!?」

『そこの霞先生に「起こしてくれ」って言われてな……ほれ、お前さんのメアド宛に送ったからそれも確認してくれ』


 俺は急いでメールサーバを開き、紅坂朱音からのメールを確認する。


「メールってなんの案件すか……って」


 本文なしのメールが一通。しかしそこに添付されていたのは紅坂朱音による『フィールズクロニクルⅩⅢ』のゲストページイラストで……


「紅坂さん! これサークルスペースで売るものじゃないでしょ! マルズの企業スペースで売ってよ!」

『そもそも少年から許諾取られた時点で、柏木先生と霞先生が書いてるんだから私が一枚描くくらい別にいいだろ? それにさっき霞先生から連絡もらってから描いたらくがきだからクオリティは保証しないぜ?』

「そういう神絵師のらくがきっていつもらくがきっていうクオリティじゃないよね!? ねぇ!?」


 なんで仕事じゃないらくがきなのにこんなにクオリティ高いのか、絵描きじゃない俺たちには分からないよ……


『ゲストページに空きがあるって聞いたからさ、やるしかないだろ? じゃあ、私の仕事は終わったから。当日、献本渡してくれればいいからさ。あ、また私の下で働いてもいいからな?』

「ではまたイベント当日にお会いできればと思いますので!」


 通話終了とともに、俺は詩羽先輩の方を向いて。


「トキさんたちから、空きページどうしようかって聞いていたから丁度いいかしらって」

「だからってメディアミックスの女王呼んじゃいますか」

「ここで貸しを返してもらおうと思って」

「あっはい、さいですか」

「まぁともかく、これで原稿は集まったわよ、倫理君。入稿まで頑張るわよ? ……サークル主は寝ているけど」

 見ると、俺のテーブルに突っ伏して寝ている金髪ツインテール幼なじみの姿があった……


     ※ ※ ※


「アップロード……っと。これで入稿だ! お疲れ様でした!」

「お疲れ様ぁ〜」

「お疲れ様」

「あーぁ、ようやく終わったかー」

「帰りの支度始めよ」

「……俺が言うのもなんだけどみんな順応しすぎじゃない? 慣れすぎじゃない?」


 午前八時過ぎ。印刷所の入稿〆切まであと一時間を切った頃、ファイルをアップロードして俺たちの原稿作業は終わりを告げた。ちなみに早割なんてもう適用外で、普通に極道入稿ですお疲れ様でした。


「みんな、お疲れ様〜。朝ごはんできてるよ〜」

「恵ぃ……」


 入稿終わりの声を聞いたと同時に、扉を開けて入ってきたのはblessing softwareの副代表で、俺の彼女でもある加藤恵。このタイミングまで出てこなかったのは仕様です。


「加藤さん、いくら名実ともに倫理君の彼女になったからって前以上に本妻感出してくるのはどうなのかしら」

「いやぁ、別に普通のことしてるだけだと思うんですけど」

「その普通が私だったり澤村さんみたいな捨てられた女にはすごい仕打ちだって言うことを自覚しているのかしら」

「いや、だって先輩にも英梨々にもチャンスはあったはずですよね。それにこの人、そんな優良物件じゃないですよ?」

「優良物件じゃないとか言っておきながら、その彼女は私ですアピールを欠かさないってやっぱり好きなんじゃない……このっこのっ」

「か、霞ヶ丘詩羽ぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「……英梨々、寝言でもそれかよ」


 そうたわいもないやり取りをしながらも、原稿終わりの俺たちは恵の作った朝ごはんを食べるため、一階へ降りていく……


「じゃあこれで次のblessing softwareのゲーム企画に取りかかれるってことで……」

「あら、私は『純情ヘクトパスカル』のアニメで、脚本が終わってもBlu-ray&DVDの特典小説だったり、各種イベントの影ナレ脚本、オーディオコメンタリーにヒロインの抱き枕カバー用に脚本書き下ろしまであるのだけれど?」

「あたしも某レーベルからライトノベルのイラストだったり、アニメのエンドカード依頼されてるわ」

「あたしたちも波島兄ちゃんがなんかナイツレコードとかいうレコード会社とメジャーデビューの話が動いているとかで……」

「先輩! 私は先輩とだったらなんでも作りますからね! もちろん、子d」

「させないわよ波島出海!」

「そうよ、一年前ならまだしも今はその冗談でさえも加藤さんを怒らせる要因よ? ほら」

「……出海ちゃん?」

「はひぃぃぃぃぃぃ! すいません恵さん!」

 ……ほら、たわいもないからね?


   お し ま い

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