田村はフューチャー

西藤有染

4月1日、朝、教室。

「おい、ミラクルキラッガールズの新しいMV見たか?」


 教室に入るなり、友人の竹中が鼻息を荒くして話しかけてきた。


 ミラクルキラッガールズ。


 今若者の間で人気急上昇中の8人組アイドルグループだ。個々の歌唱力の高さ、息のあった一糸乱れぬダンス、トーク番組で垣間見えるメンバー間の仲の良さ、そしてバラエティで発揮するアイドルらしからぬ芸人じみた面白さが、俺たち高校生のハートをガッチリと捕まえるのだ。アイドルというものにそこまで興味が無い俺も、ミラクルキラッガールズだけは新曲や出演番組の情報を逐一チェックするようにしている。だからこそ、彼女たちの新曲MVが公開されていた事を知らなかった事にショックを受けた。周りに耳を傾けると、クラスメイトの話題はその事で持ち切りだった。自分だけが置いてけぼりを食らっている様だった。


「その様子だと知らなかったみたいだな。今回もキラキラ節が全開で面白いぞー」


 そう、ミラクルキラッガールズのMVは毎回面白いのだ。曲自体は正統派アイドルらしく、とてもキャッチーな曲である筈なのだが、映像が曲に集中させてくれない程にネタに溢れているのだ。前回はメンバーが1度も歌わずにマラソンをし、給水所で不味い飲み物を飲まされたり激辛のラーメンを食べさせられたりするという、まるでもってアイドルらしからぬMVだった。そんな彼女らの芸人じみた独特のセンスを、ミラクルキラッガールズのキラッからもじって、キラキラ節と呼んでいるのだ。


「今回もミラキラはぶっ飛んでるぞ。なんせ、『フューチャリング田村』だからな。MVに見知らぬおっさんが出てくるとは思わなかったよ」


 フューチャリング田村? 一瞬何の事だか分からなかったが、次の瞬間に思い当たる物があった。恐らく、「feat.フィーチャリング田村」の事だろう。正しくはfeaturingフィーチャリングなのだが、これをフューチャリングと誤読してしまう人は非常に多い。


「いや、ホントにフューチャリングなんだって。いいから見てみ」


 竹中の言葉を半分疑いつつも、動画サイトのミラクルキラッガールズ公式チャンネルを開いてみる。新曲の動画は1番上に上がっていたので、すぐに見つけられた。タイトルは「切り拓けfuture.田村」。確かに、フューチャリングだった。


「な? 言った通りだろ?」


 してやったり顔で言う竹中が気に食わなかったので、無視してイヤホンを差し込み、MVを視聴し始めた。電子音の激しいアップテンポなイントロと共に、画面にメンバーが1人ずつ登場していく。そして、最後に、見知らぬおっさんが現れた。このおっさんが「田村」さんなのだろう。激しい曲調に合わせて歌いながら踊るミラクルキラッガールズのメンバーよりもさらに激しく動き回る田村さん。見た目は冴えないただのおっさんなのに、バク宙やらバク転、ヘッドスピンなど、アクロバティックな動きを次々と決めていくので、どうしても可愛らしいメンバーよりも田村さんに目がいってしまう。結局、MVの終盤まで、メンバーの踊りや歌よりも田村さんの行動に注目し続けてしまった。今度はメンバーの動きに注目すべく、もう一度始めから再生しようとすると、何故か竹中に止められた。


「おい、まだ続きがあるから最後まで見ろって」


 いや、もう曲は終わっただろう。そう思いながらも、続きを見てみると、最後に田村さんが何処からか巻物を取り出し、広げてこちらに見せつけてきた。そこに書いてあったのは「令和」の2文字。


『次の元号は、これだっ!!!』


 そう田村が叫んで、映像は終了した。フューチャリングってそういうことか。まさか、新元号を予想するとは思わなかった。だが、まあ、当たる事は無いだろう。


 放課後、学校から帰宅すると、既に新元号が発表されていた。新元号は「令和」。予言は的中していた。 

 田村、一体あのおっさんは何者なんだ……。


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田村はフューチャー 西藤有染 @Argentina_saito

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