死ぬ前に読めばわかるさおじピー(略)

快亭木魚

橋の上からおじさんダイブ

僕の名前はカタリィ・ノベル!カタリって呼んでくれていいよ!世界中の物語を救う使命を帯びた『詠み人』なんだ!


今日も世界中の人々の心を救う『至高の一編』を探して、旅を続けてる!


僕さ、方向オンチなんだよね!今日もさ、フランスのパリに行くつもりだったんだけどさ、たどり着いたのは日本の東京だったんだ!いやあ、参ったよ。


マジ参ったわ。どこ歩いてんだろう、僕?ホント道が分からない、自分の人生の道も分からないよねえ〜。


そんな迷っている僕が名もなき橋に来た!おお?なんと橋から飛び降りようとしているおじさんがいるぞ!


「もう俺の人生は終わりだ!リストラで職失って再就職も出来ず貯金も尽きた!死ぬ!もう飛び降りて死ぬしかねえんだ、俺は!」


めっちゃ悲しい説明台詞吐いてるよ!おじさん、ヤバいね!めっちゃ死へのカウントダウン始まってる!僕が助けるしかないよね〜。


「待って、おじさん!死ぬのはまだ早い!僕に任せて!僕は左目に授かった詠目の力で、人の心の中に封印されている物語を読み通して、一篇の小説にすることが出来るんだ!おじさんの心に秘められた物語を小説化するよ!」


「うわー死神だ!チェックの半ズボンに翼の生えたブーツに白手袋!ハイファッションな死神来たー!俺の心を小説にするだと?何を企んでやがる!」


うわあ、疑われたよねえ。ってか、ここまでポップな死神はなかなかいないと思うんだけどね〜。


「読めばわかるさ!おじさんの心に秘められた小説を必要としている人に届けるんだ!そうすれば、おじさんは必要とされる自覚がでて死にたくなくなるはず!それが僕の仕事!さあ、詠むよ!」


僕は、指で左目を囲って詠目のポーズをとった。こうすることで、おじさんの物語が詠める詠める!


僕は鞄から取り出したペンでノートに小説を書き始めた!物語がどんどん流れて来る!


紙をひたすらめくりながら、瞬く間に僕はおじさんの小説を書き上げたんだ!


「おじさん、おじさんの物語が完成したよ!」


「なにぃ?本当か?胡散臭いボーイ、マジでこの俺の小説が完成したっていうのか?」


疑うなんてヒドイなあ。


「読めばわかるさ!さあ、おじさんの小説を詠むよ!」


僕は書き上げた小説の音読を試みた!


しかし!


しかし、だ!


あまりにも!あまりにも!


罵詈雑言と放送禁止用語が多過ぎる!この世への恨み嫉みとあらゆる事象への文句悪口と救いようのないレベルでの暴力的な表現や絶望展開の数々に、僕は一文目から音読ができない!


だが!せっかく詠みとった小説を音読しないなんて、『詠み人』としてのプライドが許さないんだよね!


「『俺のピーが俺ピーピーで、絶対に俺はピーなんだがピーはピーピーされるべきで、ピーもピーもピーになるべきで全てのピーはピーピーピーなんだ!』」


よし、なんとかピー音でごまかして音読できたぞ!


だが!おじさんは納得いかない顔をしております!


「おいおい、何だよ!俺の物語はピー音でしか表現できねえってのか!全然内容が入ってこねえぞ!そんなに俺の心は荒んでるってのか?」


はい、怒るよねえ。


「読めばわかるさ!」


「いやわからねえって!何もわからねえ!くそが!読ませろ!」


はい、そう言っておじさんは僕の手から『おじさんピー音ストーリー(仮)』を奪っていく!


読む目の泳ぎ方が尋常じゃない!


「うおおおお!なんだこれは!読みにくいし、嫌な思い出が増幅されるし、自分の屑ぶりを自覚させられるし、怒りと悲しみと恨みと絶望の感情しかわいてこねえし!やっぱり俺はダメだ!死んだほうがいいんだー!」


やばい!自身の心の小説を読ませたら傷口にソルト塗りまくりになっちゃったよ!


おじさんは、もう絶望の表情で今にも橋からダイブしそうな見事な体のそりっぷりを披露してて、もう僕はあたふたするしかないよね~!


「読めばわかるさ!」


もう焦りながら決めゼリフを連呼するぐらいしかできないよね!


「ああ、よくわかったよ!自分が死ぬべき人間だということがよくわかった!」


「違うんだ、おじさん!この物語を必要としている人が地図で示されるんだ!ほら、僕の鞄から飛び出てる地図あるだろ?この地図が読み手に導いてくれる!」


僕は地図を手にしながら必死でそう言うんだけどさ!僕、地図読めないんだよね~!やばいよ、やばいよ!


とか思ってたら、風で地図が飛んでいった!飛んでいった地図は橋の向こう側の端にいた女の人の顔に当たりました!


「ぐわー!なんか地図が顔面をおおった!もうやめてよー!私はもう死ぬんだー!」


地図を顔面からはぎとったお姉さんは号泣していた!お姉さん、泣きながら橋の端からダイブしようとしてるんだよ!


ええー!こっちも自殺志願者?


でも地図が示した人だ!地図を信じろ!


「おじさん!このお姉さんがおじさんの物語を必要としている人なんだよ!」


「嘘つけよハイセンス半ズボン少年!そんな綺麗なお姉さんが俺のくそ小説を欲してるわけねえだろ!」


ですよねー。でも、僕はもう無我夢中でお姉さんに『おじさんピー音ストーリー(仮)』を差し出していたよね!


「活発ファッショナブル半ズボン少年、私を引き止めないで!私は飛び降りて死ぬんだー!」


え、なんでみんな半ズボン指摘してくんの?そんな変?とか思う余裕もないほど僕は慌ててたから!


「お姉さんが欲している物語がここにあるんだよ!これ読んでよ!読めばわかるさ!」


もう強引にお姉さんの顔面に『おじピー(略)』を押し付けることしかできなかったよ、僕は!


「少年、私に何を読ませようってのよ?私はもう死ぬのよ!何これ?小説?」


お姉さんがしぶしぶ読み始めた!あの放送禁止用語だらけで暗く絶望的で救いがなくこの世への恨みにまみれた小説を読んでお姉さんはどう反応する?


お姉さんは無言でページをめくっていく!


そして!


なんと!


読みながらお姉さんはケタケタ笑い出したんだ!


「ケタケタケタ!あっはっはっは!うひひひひ!がはははは!ぐはーうへへへへへへー!」


やばい、笑い方がやば過ぎる、お姉さん頭おかしくなっちまったのか?


「ひどい!ひど過ぎる!なんだこの小説!放送禁止用語だらけで読みにくくて登場人物全員屑で絶望的過ぎて主人公屑過ぎて救いがなさ過ぎて一周まわって爆笑できる~!うひひひひ」


ええー!お姉さん、なんかむっちゃ楽しそう!


「うっはー!もう一年ぶりくらいに久しぶりに爆笑したし!え、おじさんがこのくそ小説を書いたの?」


お姉さんはキラキラした笑顔でおじさんにこう尋ねたんだ!


「俺の心の中から生まれた物語をこのハイセンス半ズボン君が小説にしてくれたんだ」


「いやマジで屑だね!おじさん、こんなこと考えながら生きてんの?屑過ぎるんじゃない?死んだほうがよくない?」


うわーお姉さん、キラキラした笑顔でなんてこと言うの!


「何だと!いざ面と向かって死んだほうがいいとか言われるとムカついてきた!あんたみたいな頭悪そうな小娘には俺の悩みは分からんのだよ!」


「ええー!初対面の女性に向かってそんなひどいこと言う?私、めっちゃ悩みまくりだから!好きな人にフラれて絶望して死のうとしてたところだから!いやでもフラれた自分はもうどうしようもない屑だと思ってたけど、世の中はるかに屑の人がいたのね!私、超まともじゃん!なんか元気出てきた~」


お姉さん、なんかスキップしはじめたよ!よし、なんかわからないけど元気出たみたいだぞ!よし!


「めっちゃ笑って元気出た~。ありがと、キモおじさんとハイセンス半ズボンくん!あ、感謝はしてるけど!綺麗なお姉さんである私と付き合えるとか勘違いしないでね?私はキモおじさんや半ズボンくんは好みじゃないんだ~」


「うるせえわ!てめえみてえな失礼な女、こっちから願い下げだ、くそが!」


おじさん、言うねえ。


「じゃあね!」


はい、そう言って軽やかにお姉さんは去って行きました!もう晴れやか過ぎて、取り残されたおじさんと僕は顔を見合せることしかできなかったよね!


「半ズボンくんよ」


「え、もう半ズボンいじりやめてもらえます?ちょっと悲しいなあ僕」


「あ、ごめん。羽ブーツくん。今のお姉さん可愛かったね!笑った顔、結構可愛くて、口では文句言ってたけど内心実はキュンとしちゃってたんだ。いやあ、なんか俺の心から出た絶望小説があんなにウケると複雑な気持ちだけどなんか嬉しいわー。すごく元気出た!」


よし!羽ブーツはひっかかるが、おじさんが元気出てきて、よし!


「ありがとう、ハイセンスくんよ!生きる活力がわいてきたよ!なんだかんだどんな人間も悩んでるんだな!それがわかっただけでも十分だ!まさしく、読めばわかる!君が言うとおりだった!じゃあな!」


そう言っておじさんはめっちゃ満面の笑みで去っていったよ。


いやあ、なんかよくわからんがなんとなく二人とも元気になったからよし!


さすが!


僕の詠み人っぷりは冴えてるよね!


僕は散らばった紙や本をかき集めて鞄に詰め込み、歩き出した。さらば東京!


よし!この調子で『至高の一篇』を探し続けるぞ!


(終)




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死ぬ前に読めばわかるさおじピー(略) 快亭木魚 @kaitei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ