第6話 沙羅


すげぇ泣くじゃん。


そう思ったと同時に、何故私は泣かないのだろう。


実の父が死んだ。白い布で顔を隠させれていて事故によって少し傷ができている顔だった。


体は母を守ったのかかなりひどい状態だった。ひとの身体はあんなにも凹むのかと思うほど。


別段仲が良かった訳ではないが、それが実の父親だったなのにも関わらず涙は出なかった

悲しくない訳じゃない。多分悲しいっていう感情だと思う。それでも涙は出ない。目が潤うこともない。

隣にいる純恋は泣いている。そんなに泣いていたらこの涙袋にある涙がなくなるのではないかと思っていた。そんなこと考えるくらい悲しいという感情に支配されていなかった。


決して涙が出なかった。


本人確認が終わり待合室の椅子に座る。


純恋は涙を流し叔母さんは悲しそうに眉を下げていた。


「香奈が生きてて良かった」


叔母は私達2人を見つめながら呟く。


母さんは事故後に意識不明になったが集中治療室で一命を取り留めた。

意識は回復していないが命を脅かすほどの外傷はなかった。

親父が守ったんだろうと勝手に思った。親父はそういう人だから。男だから女を守る当然だろとかいう暑苦しい親父だったと思う。


事故後の諸々の手続きは全て叔母さんにやってもらった。正直書類とか色んなこと説明されても全然分からないしこの先の加害者や火葬とかの話は全て任せることにした。


聞いてもよく分からない説明を聞いていたら気づけば外は真っ暗。こんなことがあったのにお腹が空いてきた。


「もう暗いし私の家に泊まった方がいんじゃない?ちょっと狭いけど」


叔母さんは私達を心配して泊まるように言う。

私はどうしようかなと思っていると純恋が答えた。


「いえ、家に戻ります」

「本当に?大丈夫?」

「大丈夫です」


どう考えても大丈夫ではない。顔色悪いし。

ましてや家に帰るといやがおうでも親がいないことを実感する。少なくとも純恋は叔母さんの家に泊まった方がいい。


「沙羅?純恋頼むね」

「え、いやマジで?」

「うん、私はもう少し病院に残るから」


嘘だろ?頼まれても無理。こいつ絶対泣くんだよ。帰って親の部屋に入って大泣きするよ。


「帰ろう、沙羅ちゃん」

「…寂しくなっても知らないよ」

「大丈夫」


大丈夫じゃないから言ってるのに腹が立つ。


結局この後叔母さん残り、私と純恋はバイクに乗って家に帰る。


その間一言喋らなかった。喋らないことが普通だったから特に気にもしなかった。


「…ただいま」

「…」


律儀に挨拶するが当然のように返事は帰ってこない。何がしたいんだこいつは。

自分で言って自分で悲しくなって肩を振るわせる。訳が分からない。



「じゃ私風呂入るから」


私はそういい玄関で立ち尽くす純恋を追い抜き、風呂場に向かう。いつもはシャワーのみだったが今日は湯船に浸かろうと思いお湯を出す。


お湯が貯まるまで暇なので服を脱ぎ下着姿でベットに横たわる。外に着ていった服で寝転がるのがいやだから。




横たわりながらなんで病院行くより早くに学校に連絡したのかその時の自分がアホに思えてくる。

病院行ってから連絡した方がもっと休めたかもしれないのに。




この家は静かだった。私にとってはいつも通りの静かさだ。

あの日、親に見放された時から私は親が嫌いだった。だから親の1人が死んだことにあまり応えてはいないと思う。


いやそんなことないか、事故って聞いてすぐ学校に連絡するって焦りすぎてだろ。


「ハッ」


そんな自分に少し笑ってしまった。


携帯を手に取り画面を見ると何件かメッセージが飛んできていたが返すのがだるくなり携帯をベッドの上に投げた。


私の部屋には「お風呂が沸きました」という自動音声は届かないので、自分で見に行く必要がある。だるい。


はぁ〜


ため息をつきながら下着姿のままお風呂を見に行くともうすでにお風呂が溜まっていた。

タオル持っていっとけばよかったと後悔し、また部屋に戻ろうとした時にお風呂場以外に電気がついていないことに気づいた。


なんでリビングの電気すらつけないのか疑問に思いリビングに入ると、純恋が声には出しながら泣き立ち尽くしていた。



だから寂しくなっても知らないと言ったのに。

こいつバカだなと思い、声をかける。


「ねぇ?何してんの、寝ないの?」


返答はない。自分の泣き声で聞こえないのか知らないが無視され、少し腹が立った。

純恋に近づき肩に手を置き声をかける。


「なぁ聞こえ」


てる、と続けようとした時、ガバッと純恋が私に抱きついてきた。


「いやちょっと」


あまりにも勢いよく抱きついてきたので尻餅をついた。いてー


そんな私を知ろうともしない純恋は抱きつきながらもっと泣き声を上げる。

下着なんですけど、涙冷たいんですけど。

寒いよ。


「あー、お風呂入れたけど入る?」


泣きじゃくる純恋に声をかける。

泣き声は決して止まないが、鼻を啜りながらヒックヒックしながら声を出そうしている。


「い、一緒に入ってくれる?」



なんで?




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