第3話 純恋


「んん、」


 目を少し開けると、視界が横になっている。

 何で、私はソファーで寝てるんだろう。あぁ、きっと泣き疲れて寝たのかな。


 いや、私は床にへばって泣いていたんじゃないのかな?でもじゃあなんでソファーに横になっていたんだろう?


 あぁ、そっか沙羅ちゃんが運んでくれたんだ。ていうかそれしかないよね。どう考えても家に沙羅ちゃんしかいないんだし。


 姿勢を直すが、まだ頭がボケーっとしている。

 多分さっきまであったことをうまく飲み込めていないからなんだと思う。


 ぐうぅぅぅ。


「ふっ」


 あんなに悲しいことがあったのに、そんな事は御構い無しに腹の虫はなる。人は、人間は、生物は、食べていかないと生きていけないから。


 そう生きていけないから。


 体を起こしてキッチンの方に向かう。



「あれ?」


 テーブルの上に紙が置いてある。私はそれを手に取り読み始める。


 肉野菜炒めと味噌汁を作ったから温めて食べていらなかったら残してもいいから


 この書き置きの感じは、沙羅ちゃんだ。


 残してもいいからなんて、残すわけないのにね。大好きな妹の手料理を食べるだけで幸せな気分になれる。


 チッチッチッ


 電気をつけただけのリビングに時計の針の音が響く。

 普段ならお母さんの声が響くこの場所が静かで余計に2人が居なくなったのだと感じる。


 もうお母さんと一緒にお菓子を作ったり、お買い物に行ったり、ちょっとした事で言い合いになったり、どの俳優が好きか言い合ったりもすることが出来ない。


「ぐずっ」


 さっきまで号泣してたのに、まだ涙が出て鼻水も出てくる。


 お父さんも楽器を教えてくれたり、釣りを教えてくれたり、嫌いって言ったらすごい謝ってきたり、そんな会話もすることがなくなる。


 鼻水をすすりながら、肉野菜炒めを電子レンジの中に入れてあったまる。味噌汁は片手鍋に蓋をされて入れたあるので、そのままコンロであっためる。


 沙羅ちゃんはすごいなぁ、両親の死を聞かされて間もないのに、ちゃんと自分のことを考えてご飯を作って私に気にかける余裕もある。いや余裕はないか。


 ガチャ


「えっ?」


 リビングのドアノブが音を鳴らし開く。そこには沙羅ちゃんがいた。


「私、明日学校休むことにしたからあんたも休んだ方がいんじゃない?」


 手にはスマートフォンを持っている。学校や友達に連絡したのかな?


「うん、私も休むことにするつもり」

「そう」


 沙羅ちゃんは短く返すと冷蔵庫からペットボトルを取り出しリビングを出ようとする。


「あ、待って沙羅ちゃん」

「なに?」


 こちらを振り返らずに足を止める。


「晩御飯作ってくれてありがとう」

「別に、アンタが作るより私が作った方がマシだから作っただけだよ」


 呆れるように言い、そのままリビングを出ようとする。


「そ、それと!」

「まだあるの?」

「私が泣いていた時、抱きしめたくれてありがとう。すごく落ち着いたていうか安心した」


 自分で感謝しといて、だんだん恥ずかしくなってきた。でもちゃんと言わないと言葉にしないと。


「そう」


 バタン


 沙羅ちゃんはそう残しそのまま自分の部屋に向かった。

 沙羅ちゃんはいつも通りだね。私にはわかるあれは照れてた。間違いなく。



 さて、これからどうすればいいのだろう。沙羅ちゃんの作ってくれた肉野菜炒めと味噌汁を食べながら考える。

 親が死んでしまった時の対処法なんて聞いてないし、考えるのも嫌だった。


 プルルルル!


 電話の音が鳴り響く。


 沙羅ちゃんは自分の部屋に行ったので、電話を取るのは必然的に私になる。

 さっきあんな内容の電話がかかってきたので、固定電話を取るのを少し躊躇ってしまう。


 でもずっと部屋に響く着信音をほっとくわけにもいかないので、受話器をとる。


「も、もしもし」

「純恋ちゃん?!今どこにいるの?!」


 電話の相手は凄く焦っているような声で、私に問いかけてきた。


「え、今家ですけど、どなたでしょうか?」

「ああ、ごめんね名乗らなくて、私覚えてるかな?あなたのお母さんのお姉さんなんだけど」 

「叔母さん?」

「良かった、覚えていてくれたんだね」


 電話の相手は、お母さんのお姉さんだった。叔母さんには夏休みや冬休みに色んな場所に連れてってくれる優しい人。


「そんな事じゃなくて、今すぐ病院に来てくれる?」

「病院ですか?」

「悲しい事だけど、確認しないと行けないからそれといいニュースもあるから」

「いいニュースですか?」


 正直今のわたしに良いニュースあるなんか思えないし、今は何も考えられない。


「とりあえず、沙羅と一緒に病院に来てね」

「はい」

「それじゃあ、待ってるから」


 ガチャ


「はぁー」


 今の気持ちで外出なんかあんまりしたくないけど、行くしかないから病院に行くので、着替えるしかない。

 その前に沙羅ちゃんに一緒に病院に行くことを教えないといけない。


 私はリビングを出て、沙羅ちゃんの部屋に向かいドアの前まで来る。ドアには「ノック必ず!!」という紙が貼ってある。


 コンコン


「入るね」


 部屋に入るとベッドに寝そべって携帯をいじっている。


「どしたの?」


 携帯をいじったまま視線をこちらに向ける沙羅ちゃん。


「叔母さんから、今すぐ病院に来てって、2人で」

「叔母さんから?」

「うん」

「だる」


 嫌そうに言うが、ちゃんと体を起こして部屋着から着替えようとしている。


「いや、着替えるんだけど」

「?。うん」

「いや、部屋から出てよ。何であんたに着替え見られなきゃなんないの?」

「ご、ごめんね」


 私は、すぐさま沙羅ちゃんの部屋から出る。

 昔は一緒の部屋だったから着替えを恥ずかしがる必要はないと思うけど、お年頃だからしょうがないね。


 沙羅ちゃんの部屋を出て病院に行く準備をする。

 私は叔母さんの良いニュースというのはがあまり気分が乗らないだけれど何故か体は病院に行くように動いていた。






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