輝く宝石を壊してほしい~不老不死はつらいよ~

ぷー太郎

第1話 プロローグ




灰色の厚い雲から見える黒ずんだ空はかつての碧さが消え去り、その背景には砂塵や火花、赤く光る血の様なものが舞っている。足元には真っ赤に染まった血まみれの兵士たちが倒れこんでおり、周りでは銃声が鳴り響く音や人の生々しい叫び声がよく聞こえる。


その様な地獄とも言えるその光景に残念ながら救済を差し伸べる人物はでてこなくに、一人、また一人、と悲痛な叫び声や悔しみの叫び声を上げながら死人が増えていった。


そこに一人の若い少年が血の出る撃たれた腹をさすりながら壊れた外壁を伝にバランスの取れない重い体を操って必死に歩いていた。その少年の意識は朦朧とし、ただ、どうしてこんなにも無残な戦争が起きるのだろうと思っていた。足元にあった何かにすくわれ、力の入らないその体が宙を舞い、何かの上に倒れこんだ。

おかげで地面に倒れ込んだ衝撃を抑えることができた。そして反射的に立ち上がろうとして少年はその何かを押すのだが、あまりにも冷たいのとヌメヌメとした感覚に思わず手を離すと話した自分の手のひらを見ると血がべったりとこべりついている。

下敷きにしていたのは同じ小隊の仲間のエリウスだ。確かこいつは妻子がいた気がする。そして手についたそれは自分の血かもしれないという感覚は回らなくなり、戦争に対して、生に対しての恐怖心を一層に煽られ、呼吸をさらに荒くしていた。


「いたぞ!!エアライヒテルンク帝国の小隊を潰せ!!」


瞬間、少年は飛び起きる。敵国の追っ手がここまで来ていたとは、と唇を噛みながらゆっくりと立ち上がろうとしたが思う様に力が入らずによろけて転んでしまった。後ろから服のこすりあう音や銃を持って走る敵国中隊の者たちが来るのが音でわかった。きっと一番前にいるのは中隊長だろう。何か指示をしている様に聞こえた。


(ここ、で終わりか………。伍長になれただけでもいいとするか……。)


若い少年は覚悟を決め、体を上向きに起こして青い空を見上げることは無く灰色にまみれた空を見上げながら静かに目を閉じた。



そして若い少年は死んだ、と思ったが敵国の中隊の中の一人が少年を少し警戒しながら撃った銃弾が目の前に来たと思った瞬間、怪しく光る銃弾は妖艶に光る光の玉になっていた。目を凝らして見るとそれは光の玉ではなく小さい幼女の様なものが仁王立ちしていた。その小さい幼女の様なものがいきなり少年の前を舞う様に呼び回ると陽気な風にその少年に聞いた。


『あなた、私のこと知ってる?」


リン、となる鈴の様な声色が耳に届くと少年はなにが起きたんだがさっぱりわからない、という顔をしてその小さい幼女を見た。その小さい幼女は呆れた顔でふ、と息を吐くとにんまりと弧を描いて少年に問うた。


『じゃあ……、生は儚いと思う?』


その幼女の言葉に少年は口元をピクリと動かせる。それに幼女が何かいいものを引っ掛けたときの様な表情を写して少年に語りかける。


『死は尊い?』


少年はわざと話さないのか、口を動かすことができないのか、口元をピクピクと動かせているがこの幼女には少年の言いたいことがわかるらしい。


『それでは、永遠の生とはどの様なものかな?』


最後ににんまりと笑う彼女を見て苦笑いをして返す少年は誇らしげに、軍人の様な口ぶりで言い放った。


『永遠の生となるものは、この帝国を永遠に守ることのできる権利を与えられた素晴らしき名誉です!!この帝国の軍人はそれを望むでしょう!!』


誇らしげに言った少年に幼女は口を大きく歪ませる。幼女はこの少年の嘘に気づいたのだろうか、にまにまと笑っているが少年は気づかない。


『ならば、その永遠の生を受けるものが君だったら?』


ピンっと音を鳴らして少年に指をさす幼女に状況を理解できていないのか、何かわからない表情を作っているが、ようやく気づいたらしく冷や汗を垂らしている。


『わ、私がですか?』

『そうだ、君だ。それで?どうだ、永遠の生を受けるものが君だったとするならば。』

『私は……』


少年はそう言って顔を暗くして考え込んでいると幼女が声を出して笑い出した。


『ははは!!皆、私の質問には即答してたぞ。「帝国軍人として、自分は死を選ぶ、」とね。』

『え……?皆、死を選んだのですか?』

『ああ、皆帝国の軍人としてもう疲れた、と言っていたぞ。』

『は、あ!?』


少年が叫び出すと幼女が眉を下げて弧を描く口から言葉を出した。


『それで?君はどうするのか?』


もちろん、とでも言う様に少年は幼女を見ながら言う。


『帝国軍人として、永遠の生を受け入れるものとします!!』


すると少年と幼女の周りを一周するかの様に光が走ると、幼女がこれまでにないほどに妖艶に笑うと呪文の様なものを唱える。


『汝、我が精霊宝石のアンナと契約することをここに誓う。そして今ここに永遠の生なるものを承ること命じる。』


もっと長いものかと思ったがそこまで長くもなく、契約、というものが終わると少年はその幼女、アンナの背中を最後に意識を手放した。


若さ故の浅はかな考えだと、今は思う。当時の年齢は18と戦争に関して無知だった子供はしょうがないのだろう、と思われてしまうが、こっちからしたらたまったもんじゃない。そんなのは死ぬことのできる、逃げることのできる輩だけが思うことだ、と何度も自分にそう言いかけていた。


今年で齢が249となる永遠の生____不老不死を手に入れた少年「ベン・シェーンベルク」は18で成長が止まり、愛してきたそれぞれの女性を戦争で亡くし、300年以上も続くこの戦争で殺したくもない相手を人間兵器として殺してきたベンはアンナと契約してからのことを「永遠に覚めることのない地獄」と呼んだ。不老不死となったベンは政府と自分に憎しみを覚えていた。



そして齢が250となったときに、ベンは住んでいた宮殿を脱走することになる。








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