星5ベイビー

violet

へへ。Eカップ。上質なパイパイだぜ

 レイプされて赤ちゃんを孕んだ私。中絶も考えたが、両親の反対を押し切って産むことを決意した。


 そしてお産が始まる。下腹部から肛門にかけて、この世のものとは思えない程の痛みを堪えながら、ようやく赤ちゃんを出産した。


 しかし様子が変だ。鳴き声が聞こえてこない。私は嫌な予感がして、なけなしの体力を振り絞って起き上がろうとした。しかしその前に私の視界を何かが遮った。


 赤ちゃんの顔だ。恐らく、私が産んだ赤ちゃんだ。しかし気味が悪いことに、赤ちゃんは既に開眼していた。


「ハローワールド、マミー。俺は星5ベイビー」


 産まれたばかりの赤ちゃんが喋った。あまりの事態に、分娩室にいたほとんどの者がショックのあまり気を失った。


「期間限定。ベイビーガチャの大当たりだ。おめでとう、マミー」


 私も気を失った。





「おいマミー。乳を吸わせろ」


 ベビーベッドに寝ているそいつは、ふてぶてしく言う。


「はいはい。孝太郎、今行くから」


 私はスマホゲームをやめて、ベビーベッドに近づいた。孝太郎を抱き上げてソファに座ると、服を開けて乳首を孝太郎の口元へ持っていく。


「ほら」


 すると、孝太郎は両手で私の乳房を掴んだ。


「へへ。Eカップ。上質なパイパイだぜ」

「はあ。なんて赤ちゃんだこいつは」


 孝太郎は私の乳首を口に含む。


「ペロペロペロペロペロ」

「ひぃいいいいいい!」


 赤ちゃんに乳首をペロペロされた。私はレイプされたトラウマが蘇って、全身に鳥肌が立つ。


「はっはー! 感じてんのかあ? このおませさんめっ!」


 お前が言うな!


「ちょっと、普通に飲みなさい! おっぱい、あげないよ!」

「ふんっ。照れやがって」


 などと言いながら孝太郎は、今度こそ大人しくおっぱいを吸い始める。はあ、こうしている分には可愛いのに。なんでこの子はこんなにも饒舌に喋れるのだろう。


「ぷはーっ! きくぅううう! やっぱこれだわあ」


 なんだこいつ。飲んだくれみたいなセリフを言い出したぞ。


「おい。そういえばパピーはどうした。まだ一度も会ってねえぞ」


 私は黙ってしまう。どうしたものか。こんなこと、赤ちゃんに言っても良いのだろうか。いや、普通は駄目だ。でも何故だろう。この子にはもう言ってしまっても良い気がするのだ。


「実はね。孝太郎のお父さんはいないんだ」

「そうか。それは残念だ」


 珍しいことに、孝太郎はしおらしくなった。しおらしくなるなんて全く赤ちゃんらしくはないけれど、中々可愛いところもあるじゃないか。


「よく考えたら、もう既に話せる孝太郎って凄いよね。父親の遺伝子が良かったのかしら」


 父親の遺伝子が良かったなんて、本当は言いたくなかった。でもこの子の為と思えば、すんなりと言葉が出てきたから不思議だ。これが親というものだろうか。


「何を言ってやがる、マミー。てめえの遺伝子だって含まれているだろうが」


 私は少し驚いて孝太郎を見た。紛れもなく、生後数ヶ月の赤ちゃんだ。


「はは。含まれていないよ、多分」


 私は自嘲気味に言った。


「学校も不登校で中退しちゃったし、仕事にもつけなかったんだ。人見知りだから友達もいないし、恋人もいなくてね」


 私は孝太郎の頭を優しく、傷つけないように撫でた。


「君は産まれたときから自信に満ち溢れていて、凄いね。私とは全く似ていないよ」


 私はそして情けなく笑う。赤ちゃんに何を言っているのだろう、私。


「はっ! しゃらくせえ!」


 孝太郎はそう言って一蹴した。君の語彙力はどこから湧き出てくるの。


「俺は間違いなくマミーを血を引いているぜ。見ろよこれ」


 孝太郎はそう言って立ち上がる。えぇ。君、立てたの。


 そして赤ちゃんの服を脱いで、私にお尻を見せつけてきた。そのお尻の片割れの真ん中に、大きな黒子が出来ていた。


「ほら。このでっかい黒子! マミーと全く同じところに、全く同じものが出来ているんだぜ! 間違いなくマミーの子だろ。がはは!」


 私は目を見開いた。確かに。ちょっと恥ずかしいけど、私も同じところに黒子がある。


「あはは。何よそれー!」


 私はなんだか可笑しくて、盛大に笑う。


「はっはっは! 笑え笑え! あっ……」


 あんなに調子が良かった孝太郎は、一瞬フリーズする。そしてすぐに泣きそうな顔になる。


「どうしたの、孝太郎」


 私は思わず心配になる。


「おい、マミー」

「うん?」

「おむつ、取り替えろ」

「あー、はいはい」


 この子はこんな調子だから、あまり手が掛からない。でもだからこそ、こういうときに母親を実感するのだ。





 乳母車をかたかたと押して、並木道を歩いていた。


「今日は良い天気だね」


 うららかな空の下。木漏れ日が私達に縞模様を作る。爽やかな風がひゅうと吹いて、目の前を歩いている女性の長い髪がゆらめく。


「おい、マミー」


 いつになく真剣な声で、孝太郎は言った。


「感じるぜ。これは、パピーの気配だ」

「えっ」


 私は歩みを止めた。


「うん。どうした、マミー」


 孝太郎は不思議そうに言う。どうしよう。孝太郎のパパって。それは私を犯したレイプ犯ってことじゃないか。


「へへ。俺のパピーか。楽しみだぜ」


 嬉しそうな孝太郎。孝太郎には父さんがいないとしか言っていないから仕方がない。


「どうした、マミー」


 私の様子が可笑しいことに気がついた孝太郎は、心配そうに言う。


「ごめん、孝太郎。ちょっとお父さんには会えない」

「……そうか」


 孝太郎は残念そうだった。


「なあ、マミー。何があったか知らないが、向き合ってみないか。一度」

「えっ」


 何を言っているの、孝太郎。


「今は昼だし。人通りも多いだろう? なあ。会ってみようぜ」

「無理だよ! 無理無理!」


 私は駄々をこねるように拒否した。どっちが子供かわからないな。


「なんで。会う必要なんかないじゃん」

「でもよ。ずっとトラウマなんだろう?」

「そう、だけど」


 私は俯く。無理だよ。レイプ犯に直接会うなんて、出来るわけがない。孝太郎は知らないからそんなことを言えるんだ。


「なあマミー。母親が逃げてちゃ、息子の俺だって向き合えねえよ」


 その言葉は、私の心を揺さぶった。思えば、いつも逃げていたような気がする。不登校も、今現在も無職なのも、友達が一人もいないのも、恋愛経験が全く無いのも、全部私が逃げた結果じゃないのか。それは母親になっても治らないのか。守るべきものが出来たというのに、私は怖いものから逃げてしまうのか。


「星5の、超レアな俺がいるんだぜ。なあ、頑張ってみようぜ」

「孝太郎……」


 そうだ。孝太郎がいる。守ってもらうんじゃない。これから私が守るためにも、私が成長しなければならないのだ。





「来たぞ」


 そうこうしている内にこの子の父親が歩いてきた。そうだ。憶えている。この顔だ。何人かいた内の一人。私を犯したのはこの男だ。


「おい! そこのお前!」


 孝太郎が怒声を挙げた。子供とは思えない程の迫力だ。


「ああ?」


 男が顔を上げる。気だるそうな表情。耳にピアス。金髪。


「ずっと前に私を犯したこと、憶えていますか」


 震えた声を、なんとか絞り出す私。


「あれ、この前の女じゃん。ああ、憶えているよ。何、癖になっちゃった? またやって欲しい訳?」


 いけしゃあしゃあと言う男は、ちらりと孝太郎を見た。


「あれ、子供いたんだ。うける。子供いたのに犯されてやんの」


 その言葉は、私を狂わせた。


「あなたの、子供でしょうが!」


 私は発狂して男の胸ぐらを掴む。何故こんなにも憎たらしいのだろう。怒りが収まらない。これは親としての怒りだろうか。女としての怒りだろうか。私にはどうしても判断がつかないのだ。


「離せ!」


 男の力に適うはずもなく、私は振りほどかれて尻もちをついてしまう。


 そして男はいらついたのか、孝太郎が乗る乳母車を蹴り飛ばそうとした。


「駄目!」


 私はとっさに身を呈して乳母車を庇った。男の蹴りが腹部に直撃し、鈍痛が襲いかかる。


「ちょっと、いい加減にしなさい!」


 近くにいたおばさんが止めにかかった。男は周囲を見渡すと、大勢に注目されていることに気がついて、そそくさと立ち去ってしまう。


「大丈夫かい?」


 とおばさん。


「ええ。ありがとうございます」


 私はおばさんと手を取って立ち上がる。


「それにしても、頑張ったわね。おい、そこのお前って。女の子があんな迫力、出せるとは思わなかったわ」

「え?」


 違うよ。それは孝太郎のセリフだ。


 私は乳母車に乗る孝太郎を見つめた。


「えへへ。孝太郎。お母さん、頑張ったよ」


 孝太郎は喋らなかった。オヤジ臭い口調で、てっきり褒めてくれると思っていたのに。


「孝太郎?」


 やはり喋らない。その代り孝太郎はきゃっきゃと嬉しそうに笑う。それは誰がどう見ても赤ちゃんらしい仕草だった。


「そっか。赤ちゃんが喋るはず、ないよね」


 私は孝太郎の頬をぷにぷにと触る。


「ちゃんと、守るからね」


 私の言葉に、花笑みを浮かべる孝太郎。成長した私を、きっと祝福してくれているのだろう。

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星5ベイビー violet @violet_kk

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