異世界転生管理局は今日も忙しい
九十九 千尋
作中の九十九さんと作者は別人です
ここは、あなたたちの世界とあちらの世界の間に位置する場所。
異世界に転生する人を管理し、異世界転生に適しているかを判断する場所である。
「あー、しんどい」
その管理局の面接官、九十九。
目の下にどぎつい隈のできたこちらの面接官は、今日も仕事に疲れている。
というのも、この九十九という面接官、転生者の願いを聞きすぎるため、管理局の中でかなり異端の目で見られている。「あいつは変な趣味をしている」と……
主に彼が仕事に疲れているのはそこだと思われる。
今日も、九十九が居る異世界転生管理局の小さな一室にて、異世界転生者の面接が行われている。
「はい……次の方、お入りください」
九十九のその言葉に呼応するように、禿げ頭の男が九十九の前に放り出されるように入ってくる。
男は誰ともなしに言う。
「ど、どこだここは!?」
九十九はため息交じりに、マニュアルに沿って言葉を発する。
「おめでとうございます。えー……
男は怒鳴りつける。
「なにが、おめでとう、だ! なにがめでたいんだ!! ふざけるな!!」
「はいシューリョー。不合格です、次ぃっ!!」
「は?」
突如、部屋に赤いパトランプが回り始め、どこからともなく現れた黒服たちが男を引きずっていなくなっていく。
「どうぞ地獄でしごかれた後に現世で次の畜生としての生を頑張ってね、っと」
異世界転生管理局とは、増え過ぎた異世界転生者を絞るための場所である。つまり、不適格な異世界転生者を落とす役割があるのだ。
面接官ごとに転生先の世界は決まっているため、面接官ごとに取り決めたルールがある。
例えば、この九十九の場合は「おめでとう」と言われたときに「ありがとう」と返したら、そいつは異世界転生させる、という奴である。
「はい、次の方……」
しかし、ここ最近どいつもこいつも異世界転生しまくりで、休みがない。九十九はそう思っていた。
「ぶっちゃけさっさと帰りたい」と思えば思うほど、 ――決まりを取り決めた時はそんなことを考えていなかったが、今にして思えば―― さっさと帰れるように落としやすいこんなルールにしたのかもしれないと、九十九自身思っている。
次に現れたのは黒髪に眼鏡の冴えない感じの青年だ。
「おめでとうございます。えー……」
「あ、ありがとうございます」
「いやまだ何も言ってないよ」
「あ、あ、すみません」
咳ばらいをして、九十九は続ける。
「おめでとうございます。
「あ、ありがとうございます」
「いやまぁ、ほぼ、異世界転生させるために殺しましたけどね」
「あ、そうなんですね。……でも、ありがとうございます。異世界転生できるわけですし」
九十九は頭を抱えた。異世界転生管理局が殺しましたと言っても御礼を述べるケースは稀だ。
「あ、あの、何か?」
「いえ……こちらの話です。お気になさらず」
「はぁ……」
つまり、コイツは転生させなきゃならんと。まぁ、決まりだし仕方がない。自分で決めた奴だし。
「さて、では、異世界転生するにあたって、チートスキルが四つまで与えられます。その内容をお選びください。自分で設定を一から考えるのもありです」
「四つ……」
「ちなみに、人気どころは『無双』『ハーレム形成』『
「美少年化でお願いします」
麹は食い気味に言った。
「は?」
「美少年に、してください!」
「え、あ、いや、基本的に、異世界転生したら美形になりますよ」
「いえ、チート級の美形でお願いします!」
「お、おお、はい。じゃあ、一つ目は『超美形』と……異世界で無双するレベルの美形? どんなレベルだよおい」
「いえ、『超美少年』でお願いします」
「少年にこだわるのね」
九十九は咳払いをした。
「では、二つ目は、そうですね。麗しい外見ならやはり『ハーレム形せ……」
「魅了でお願いします!」
「は?」
「魅了で、お願いします!」
九十九は何度目かの咳払いをして向き直る。
「いやあの、ね。『ハーレム形成』の能力の醍醐味は、二番目の嫁と三番目の嫁が争わないことに意義があるの。嫁同士の抗争が勃発しないことに意義があるんだよ。それだと、どろどろの恋愛物様になるよ? というか、一つ目のスキルで十分魅了できると思うよ?」
「いえ、嫌われることのないレベルまで美少年であるためには、魅了スキルが良いと思いまして」
「ははーん、さては君、実はバカだな?」
ため息をついて九十九は続ける。
「では、『超美少年』『魅了』と来ますと……やはり膂力が無いと身の安全を守れませんね。ここは『超魔力』とか『剣聖』とか……」
「不老でお願いします」
「おっと?」
「不老で、お願いします」
もはや九十九は咳払いもしない。眉間にしわが刻まれている。
「話聞かない系だな? 君は。まぁ、『不老不死』もあるけど、それ大丈夫? なかなかメンタルに来るタイプだよ」
「ええ。覚悟はしております。でも、美少年ならせっかくなら永久に美少年でありたい! あ、でも不死もセットなんですね。いいですね」
「君にとって美少年って何? 拷問に耐えながらでもあり続けようってするそれは何?」
「憧れであり、至るべき頂点ですね」
「ははーん、さては君、やはり馬鹿だな?」
九十九の顔にしっかりと疲れの色がついたころ、九十九は四つ目のスキルに関して聞く。
「で、最後ですけど……『超美形』『魅了』『不老不死』と来まして……最後は……なんか自衛を持つんですよね? 美しい外見なら魔力系とか良いんじゃないですか?」
「……」
おや? 何も言わない。こりゃ本当に魔力でも良さそうだな。よし終わりそうだ。
「いえ、四つ目も自分で設定します」
oh……嫌なYO KA N
「流石に、自衛だよね? なんでこんなニッチな案件を扱ってるのかこっちもわけらないんだけども、何? 四つ目は何?」
こいつは、次になんて言うんだ? もはやもう一個魅了スキルとか言われても驚かんぞ……と構える九十九の前で、麹はカッと目を見開いて言う。
「財力です!」
「なぜいきなり定番で世俗的なのが来るのか。むしろ今まで来なかったのか。これがわからない」
「分からんのか、この戯けが」
少々の沈黙。その後、九十九が口を開いた。
「いやあのさ、四つしかないんだよ? 自衛能力は? 美形で財力があるとかどう考えても狙われるやん? 魅了スキルでも愛は時折バイオレンスやで!? せやから自衛手段をやな?」
「外見がどれだけ美しくても、心に余裕が無ければ……心の余裕は財力です。お金を他者に恵めるだけの財が必要です」
「つまり賄賂で身を守るのか、貴様」
「あと、奇麗な体なら奇麗な服が着たいです」
「そこか。うん。君は見事に馬鹿だった」
ま、まぁ、ともかく、これでコイツに関わることはもうないのだ。そう思いながら九十九は言う。
「えー、では、麹 家光さん、あなたは、異世界転生した世界で『超美少年』『魅了』『不老不死』『財力』の四つのチートスキルを得て転生します。その後はそれぞれの世界で好きにされると良いと思います。なお、スキルの今後のクーリングオフはできませんのでそのつもりで」
「はい! ありがとうございます!!」
もう、いいや、はい。
「ところで、麹さん。一つ聞いても良い?」
「はい?」
「なんで、美少女じゃないの? こういう時、だいたい美少女じゃないの?」
麹はまた目をカッと見開いて言う。
「美少女も良いですが、美少年だからこその良さがあるんです! 男なのに可愛い、ついてるのに可愛い、そこに意義があるんです!! 意味が、大義が!!」
「あ、そうですか……」
「おい、この間、九十九が送った転生者、その後の世界でハーレムを形成したらしいぞ」
「ああ、聞いた。しかも、絶対に逆らえないレベルの魅了スキルであらゆる愛を受け止める聖母にして魔王じみた存在になったらしいな」
「しかも、美少年で……」
「ホモでな……」
かくして、九十九を数奇な目で見る度合いは、今回も増した。
異世界転生管理局は今日も忙しい 九十九 千尋 @tsukuhi
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