おめでとうございます。当選しました

達見ゆう

一本の電話

「おめでとうございます!あなたが当選しました」


 俺の仕事は詐欺師。今やっているのは当選商法というやつだ。こうして偽の当選を知らせて教材をぼったくり値段で売り付ける。

 まあ、大半はガチャ切りされるが、たまに引っかかるカモがいるのでそれなりに利益はある。


「えっとぉ、何が当たったの?」


 今回のカモは手応えがありそうだ。声からして若いと言うか幼さがある、とろい喋り方の女だ。まあ、とろい喋りの奴は大抵は頭も緩い。いけそうだ。


「ヨーロッパ一周旅行十日間の旅でございます」


「懸賞には出した覚えがないのだけど?」


「はい! 顧客データベースからランダムに抽選してお客様が選ばれました」


「ふうん、どうすればいいのかしら?」


 よしよし、良い感じだ。ここで教材をセールすると。


「はい、まずはですね。海外旅行には英語ができた方がいいですよね」


「ええ」


「英語がわからないと、せっかく旅行に行っても観光やお買い物の楽しさが半減します。そこで当英会話教室のご優待と教材を半額でご提供の案内を……」


「あっはっはっは!」


 突如、相手の女が笑いだした。詐欺と見破られたのだろうか?まあ、そうしたら次へかければいいだけだ。


「無理無理、英会話教室なんて無理」


「お金のことでしたら、分割もお受けしておりま……」


「そうじゃないの。親にバイト代を全部取られているの。一円も自由にならないの」


「は?」


 予想外の答えに俺は思わず聞き返してしまった。


「ほら、あれよ。毒親ってやつ? 女に学は要らないって言ってさ。高校に入れて貰えず働かされてるの。だから英会話なんて無理」


「は、はあ、そうですか」


 態度が急変したのに付いていけずに、俺は間抜けな返事をする。


「ひどい親よ。おこづかいなんてもちろんないし、スマホどころかガラケーすら持たせてくれないの。パソコンなんてもちろん無いわ。お昼のお金なんてもちろんないから、家からお弁当だけど冷蔵庫の物を使うと怒られるから、いつも塩むすび! 十代の育ち盛りで塩むすびよ。悲惨よね」


 ヤバいスイッチを踏んでしまったようだ。さっきとは打って変わって身の上を饒舌に語る。早いところ切り上げないと。


「で、では、今回のお話はなかっ……」


「でもね、バイト先の人が同情していろいろ差し入れしてくれるから辛うじて栄養補給できてる状態。唐揚げってバイトしてから初めて食べたけど、あんなに美味しいものなんだね」


 それは確かに不憫だ。十代で唐揚げを知らなかったとは相当なものだ。


「そ、そんなことを話して親御さんに聞かれてはまずいのでは?」


「あー、大丈夫! 今は二人ともパチンコ行ってるから当分帰ってこないよ! あたしの稼ぎでパチンコよ。笑っちゃうよね」


 うわ、本当にろくでもない親だ。声からして若いとは思ったが未成年か。虐待ではなかろうか。


「そ、相談はしたの? 警察とか児童相談所とか」


「まあ、したけど、うちのバカ親はそういう時だけしおらしく『気をつけます』とその場しのぎの答え言ってさ、のらりくらりかわすのよ。だからね、この家から脱出するためにこっそり準備してるんだ」


「はあ……」


「でもね、お金が足りないの。こっそり貯めていたのを親に見つかってさ。はは、殴られてしまったよ」


「だ、大丈夫?」


「うん、ちょっとあざになったくらい。で、それを持ってパチンコ行っちゃったわけ。でも、それがあれば今のうちに逃げ出すのにさ」


「あ、あといくらなのさ」


「一万円。バイト先の店長の計らいで遠いところに住み込みで働くことにしてさ。新幹線を使うくらい遠いとこ。うちのバカ親が追いかけてこれないようにさ。ね、ちょっと貸してくれない?」


「ど、どうすればいい?」


「コンビニでママゾンギフト買って番号教えて」


 すっかり同情した俺はその通りにした。

 それっきり電話は通じなくなったが、彼女、元気にしているといいな。


 ※


「お前、それ騙されたのじゃないか?」


 この顛末を話した詐欺師仲間にいきなり言われた。


「なんでだよ」


「ガラケーすら使えない奴がなんでママゾンギフト使ってるんだよ」


「あっ」

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おめでとうございます。当選しました 達見ゆう @tatsumi-12

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