ディストピアな投稿サイト
達見ゆう
ディストピアな投稿サイト
『そこで勇者は剣を振りかざし、モンスターの首をはねた。モンスターは血しぶきを上げて……』
『ホッホー』
俺がここまでパソコンに打ったとき、フクロウの鳴き声を模したエラー音が響いた。
『『首をはねる』と『血しぶき』という言葉は残虐ワードだホー』
またか。俺は文章を少し戻し、消去した。
度重なる不正行為が横行したことや、言語規制が進み、投稿サイト『カクヨム』にはそれらの対策としてAIが導入された。NGワードを感知して警告を出すフクロウ、通称「トリ」だ。こうして保存しようとすると自動的にNGワードを検出して警告してくる。
他にもマスコットであるAI「カタリ」と「バーグ」が実装されたというが、ほとんど見たことがない。
この二人は不正監視用らしいからフクロウに比べて出番は少ないのだろうが、滅多に姿を現さないことから、その存在は半ば都市伝説と化していた。
「じゃ、文言を変えるか」
俺は再び文章を打ち始めた。
『勇者はモンスターに致命傷を与え……』
『ホッホー。『致命傷』はエラーだホ』
「なんでだよ?!」
このトリはとにかく厳しい。この間なんか「ハーフサイズのピザ」と打っただけで『ハーフは人種差別ワードだホー』とダメ出ししてきやがった。
ピザに人種差別もへったくれもないだろうと抗議しようにもAIだから言いようがない。おかげで異世界モノにあるハーフエルフや勇者が実は幻獣とのハーフだったという設定が使えなくなって、運営に苦情が殺到しているらしい。しかし、一度厳しくなった規制はなかなか戻らないようだ。退会するものも増えているが、どこの投稿サイトも似たり寄ったりなのもあり、俺は踏ん切りがつかず執筆を続けていた。
「ええい、別の話にするか」
俺は異世界モノを消し、現代ドラマに切り替えた。
『葬儀の場で未亡人となった千夏が目を真っ赤にして泣きはらし……』
『ホッホー。未亡人は差別だホー』
「はあ?!」
慌てて調べたが、差別用語の恐れがあるとして一部メディアで自主規制しているらしい。
「自主規制ワードってなんだよ、がんじがらめだな。じゃ、また別の話にするか」
『俺は居酒屋にてビールと焼き鳥を頼んだ』
『ホッホー』
「今度はなんだよ!?」
『『焼き鳥』はトリへの虐待ワードだホ』
「くわぁ~!! むちゃくちゃだ!」
俺は机を叩いた。もうがんじがらめの自主規制だらけのカクヨムにはうんざりだ。退会してやる。でも、最後にこのトリをいたぶらないと気が済まない。BANされても構わない。どうせ辞めるんだ。
「こうなったら禁断のネタだ! トリを擬人化して羽根っ娘にして十八禁にしてやる!」
『いや! やめて』
『へっへっへ、無駄な抵抗はやめるんだな
。ここは誰もいないぜ』
『俺は組伏せてトリの服を破いた。豊満なおっぱいが見えた』
『ホッホー! 『おっぱい』は性的ワードだホ』
うるさい、どうにでもなれ。警告は出るが更新は可能だから次々とあげていく。
『へっ、やらしい身体してるじゃねえか』
『う……ああ……』
『ホッホー!『やらしい』はNGだホ!』
『ホッホー!『濡れてる』はNGだホ!』
警告は次々と出てくるが、構うもんか。こうなったらトリっ娘をめちゃくちゃにして、きわどいことをしてやる。
そう思ってタイピングをしていた時だった。
突如、画面が光った。
「な?!」
光が収まると、目の前には二人の少年少女が立っていた。いや、正確にはパソコンからホログラフィーが浮かび上がっていた。
『俺の名はカタリ』
『私の名はバーグ』
あの監視用AIの二人だ。そうか、最終警告の時に出てくるのか。
『あなたは度重なる警告を無視し、規約に違反して禁断ワードをアップし続けた』
カタリが冷淡に語り出す。おっとだじゃれを言っている場合ではない。
『そして、よりによってトリを虐待する内容をあげた。この違反行為は極めて悪質です』
バーグが後を続けるように語り出す。こっちは垢BANされるのは想定の上だ。最後にこうしてレアなAIが見られたから、あとで掲示板にでも自慢して書き込んでやろう。
『『よって、あなたを抹消します』』
え? アカウント停止ではなく、抹消? 疑問に思う間もなく、二人の目が光り、俺の存在が消えていく。なんだよ、物理的に抹消かよ! ありえ……。
『助かったホー。二人ともありがとうホ』
『やり過ぎちゃったかな。原子レベルに分解しちゃった』
『大丈夫よ、カタリ。危険人物は抹消していいと法律変わったから』
『あ、良かった。始末書になったらヤバいもんな』
『さ、引き上げましょう』
ここは21××年、ありとあらゆるAIが人間を監視し、管理する社会。
ディストピアな投稿サイト 達見ゆう @tatsumi-12
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