第四章 正義の味方ってわけじゃありません! 謎の美少女から始まる国際救助隊生活
第72話 魔法の矢
謎の美少女『ユーフォリア』にもらったカードはこの戦艦の性能をかなり底上げしてくれるものだった。
とはいえ、彼女自身が何者であるかは今のところ不明である。
ユーフォリアの言葉を借りるのなら神に近い存在、いや、神を殺して神に成り上がった勇者の仲間なのだろう。それが本当のことなのかは、これからの冒険で明らかになっていくはずだ。
最悪の場合、彼女を敵に回すことも考えておかなければならない。
現在、集めたペンは四本。本来なら戦艦の最大速度は三十ノット(約時速五十五キロメートル)しかでない。
が、新たに獲得した機能『
十分ほどと稼働時間は短いが重宝するだろう。戦闘を避けて行動するという意味ではありがたい機能であった。逃走、もしくは強行突破に特化した能力ともいえる。
「
「はい。言われたとおりのプロトコルでセッションを確立しました。たぶん、これでユーフォリアさんのところの魔導装置とリンクしたはずです」
「
「わっかりました。えっと……あ、これすごいですね。生体サーチを国内に絞って人間に限定すると人口が出ます。……約千二百万人の人が住んでますね」
「そんなことまでわかるんか。すげーなぁ」
ここまでくると、ネットがない時代にウィキペディアを調べてるようである。
「リンクのおかげで、ほぼ全世界での探知魔法及び解析魔法が使用可能です。まあ、ちょっとアバウトな探知と解析にはなりますけどね。けど、これって、この戦艦の増幅機能なんかよりよっぽどチートですよ」
水上を九十ノットで走ることよりもチートと言い切るか。まあ、これで進路上の敵は余裕で躱せるわけだから、そりゃそうか。ある意味“
「例の飛行機をサーチできるか? この前飛んで来た奴だ」
「ああ、あの
「円盤じゃないからUFOと呼ぶのは気が引けるが……まあ、未確認の飛行体であることに間違いはないか」
「材質は不明なので、形状だけでサーチすると、インフレキシブル帝国内に三機存在します……けど、これは普通のジェット試験機ですかね。メルたちが見た、あの魔法の波動を持った航空機とは違います」
「サーチを全世界に広げても見つからないか?」
「同型の物体はインフレキシブル帝国にしか存在しません。あとは……こちらの探知魔法が効かない両極部ですかね?」
「南極か北極ってことか?」
そこにはユーフォリアの妹がいるかもしれないと言ってたな。
「ええそうですね。けど……もし、あれが魔法のペンで描かれていたのなら」
「そうか、一日で消えてしまうのだったな」
その可能性の方が高い。最近は武器を描いて実体化することもなかったので、その設定を忘れかけていた。
「現時点ではインフレキシブル帝国が一番あやしいですね。あそこには魔法のペンがあるという噂もありますし」
「とはいえ、あの国のものであるとも言い切れないからな。自分たちの存在を隠したいのであれば、自国以外の物に似せるという方法もある」
わざわざインフレキシブルの試験機を模すというのもアヤシイだろう。
俺が考え込んでいると、
「ご主人さま、夕飯の支度ができました。出航は明日になさいますよね?」
メインパネルに右下にある時計を見ると【18:45】となっていた。俺は両手で伸びをすると立ち上がる。
「ああ、そうだな。今行くよ」
「えー、もう夕食ですか? もうちょっといていいですか?」
愛瑠は世界から収集される情報を取りこむのに夢中のようだ、なかなか席を外そうとしない。
「愛瑠。それくらいにしておきなさい。平時は、みんなで食事を摂るって約束でしょ?」
「舞彩姉さま、もうちょっとだけ、もうちょっとだけ……」
愛瑠の返事に苦笑いを浮かべる舞彩。そして俺に伺いをたてるようにこちらを向く彼女。その表情には「どうしましょうか?」という困惑の表情も読み取れる。
「まあ、仕方ないって。気の済むまで弄らせてやれって」
「うふふ。ご主人さまがそう仰るならいいですけど」
舞彩の瞳が優しく愛瑠を見る。少し前の彼女なら、愛瑠を厳しく叱っていただろう。長女として役割に縛られていたのだから。
「怒らないのか?」
「あの子の気持ちもわからないでもないですからね。それがあの子の個性であるなら、なるべくそれを否定することはしたくありません。もちろん、度を過ぎたりご主人さまを危険に遭わせるようであれば叱責いたしますけど」
彼女の心にも整理が付いたのだろう。
そうやって人は変わっていくものだ。人を象るものであれば、それが人工的に生み出されたものであっても。
**
翌日、出航した俺たちは数時間後には目的地へと到着する。
「ハルナオ、もうすぐバラング共和国付近に到着するよ。あの国に最接近できる海域はここらへんが限界みたい」
操舵手の
「よし。打ち合わせ通り愛瑠と舞彩はこの船で待機だ」
「わっかりました」
「了解です」
俺は立ち上がると恵留と亜琉弓にこう告げる。
「恵留、亜琉弓、行くぞ」
「うん」
「はい、お供します」
舞彩と愛瑠に「行ってらっしゃいませ」と見送られながら、二人を引き連れて多目的輸送機スバルへと向かった。
プレイオネの現在位置は、バラング共和国の南端の軍港エールアから百キロほど南西。付近に艦船がいないことはレーダーからも、リンクしたユーフォリアからのデータからもわかっている。
ここで停泊して光学迷彩モードを起動し、俺たちは空路にてバラング共和国へと向かうわけだ。
目的の△印は、共和国南東部の砂漠地帯。人がほとんど近寄らない場所なので、現地の人間と戦いになる可能性は低いだろう。まあ、あふれ出た魔物を警戒するだけだ。
この国はインフレキシブル帝国と同盟を結んでいるわけだが、左隣のオルレアン首長国連邦とは同じ同盟国なので国境線での争いもなく、またミルシャ湾を挟んだ北東の隣国ヴィクラント帝国も同様だ。
軍隊が力を入れているのはジーマ諸島へと派遣する海軍なので、内地の陸軍はそれほど強力な部隊はいないとのことだった。ゆえにそれほど警戒する必要もない。
今回はそれほど難易度の高いミッションでもない。魔法のペンを持つと思われるインフレキシブル帝国に比べれば楽な任務だろう。
「楽勝だよね?」
操縦席に座った恵留が苦笑いしながら聞いてくる。臨安はいろんな意味で面倒なことが多かった。戦闘自体は苦戦したというわけではないが、裏工作に奔走してかなり疲れた記憶がある。
「まあ、臨安みたいに遺跡に仕掛けがあって、それを作動させるのに一苦労……ってのがなければ楽勝ではあるかな」
「まあ、そりゃそうだよね」
恵留はわりと気楽にしていたが、亜琉弓は少し顔を俯かせてこう呟く。
「……わたし、もうあんな悲しいお別れは嫌です」
モンファのことでまだ引き摺っているのだろう。亜琉弓にとっては初めて出来た人間の友達なのだから無理もない。それに、この子はわりと人懐っこいから、また現地の子と仲良くなって別れがつらくなるということも有り得るわけだ。
そういや龍譲では木の聖霊とも友達になってたからな。こいつ陰キャっぽいのに誰かと仲良くなるのは得意だからなぁ。
「亜琉弓。ハルナオも言ってたでしょ? 会おうと思えばいつでも会えるんだからさ。あの子にだって、あたしたちにだって、まだまだやることがいっぱいあるんだからさ。それが終わって落ち着いてからゆっくり会えばいいじゃん」
「そうなんだけどね……恵留お姉ちゃん」
亜琉弓のフォローをする恵留。俺もちょっと付け加えておくか。
「亜琉弓。今回行く場所はほとんど人がいないからな。誰かと仲良くなることもないだろう」
それを言ったら身も蓋もないんだけどね。
「あ、そうですね。けど、それはそれで寂しいです」
「亜琉弓ってちょっと変わってるよね」
恵留が口を挟む。少しばかり、彼女は表情を歪める。苦笑いになりかけの口の開き方だ。
「そうかなぁ……」
「あたしは姉妹とハルナオがいれば別に寂しくないよ。たぶん、舞彩姉の愛瑠もそうだと思う。けど、亜琉弓。あんたは他者との交流を求めている」
たぶん、それが彼女の個性なのかもしれない。
「うーん……そうなのかなぁ?」
「それはそれで悪いってわけじゃないよ。でもさ、時に足枷にもなるのよ。あたしたちはハルナオと姉妹の安全さえ考えてればいい。だけど、亜琉弓は現地で親しくなった相手をも助けようとする。……臨安ではうまく行ったからいいけど」
恵留は亜琉弓の危うさを感じ取っているのだろう。本来、使い魔である彼女らは主人こそ第一に考え、その命令に絶対的に従うはずだ。
それもまあ、個性なのかもしれないがな。舞彩にしろ恵留にしろ愛瑠にしろ、主人と使い魔という関係からすでに逸脱した個性も持ってしまっているのだから。
「わかってる。いずれハルナオさんや他の姉妹を危険な目に遭わすかもしれないっていうんだよね?」
「そう。わかってるならいいや」
恵留はそう言って僅かに口元を緩める。
「……」
顔を伏せる亜琉弓。申し訳なくなって言葉が出なくなってしまったのだろう。自分がお荷物になるということも理解しているのかもしれない。けど、恵留は亜琉弓のことをそれ以上責める事もなかった。
姉として妹を理解したという感じかな。
「俺はさ、亜琉弓の『誰かと仲良くなってその子も守りたい』って気持ちはわからないでもない。だから、それをやめさせるつもりもない。むしろ、それは大切にすべきだと思うよ」
人ってそういうものだ。誰か一人との関係に縛られるのはあまり健全とは言えない。
「亜琉弓。あたしはあなたの姉でもあるんだからさ、いざという時のフォローはするよ。だからさ、できればなんでも話してくれるとありがたいかな」
恵留が精一杯良き姉として振る舞おうとしているのが微笑ましい。これが愛瑠相手だったら、喧嘩に発展するんだろうけどね。
「ありがとう。恵留お姉ちゃん」
複雑な笑みを浮かべ、それでも心からの感謝を恵留に伝えているような気もする。
「亜琉弓はいい子だよ。素直だし、愛瑠みたいに憎まれ口叩かないし……まあ、たまに強情なところもあるけど」
「あははは……わたしのこの気持ちはなんなんでしょうね? 作られたものなのに、刻まれた本能とは矛盾したものを内包してしまう」
使い魔は本来、俺を全力で守ることに縛られている。でも、亜琉弓は他の姉妹たちと比べてそれが緩い。いや、そもそもそんなことに縛られていること自体が異常なのだ。
「それはおまえの個性だよ。気にしないでいいよ。俺だって、おまえらに守られているばかりで、おんぶに抱っこってのもプライドが許さないからな」
「ハルナオ、危ないことはしないでよ」
俺の言葉を真っ先に心配するのは恵留だった。
「わかってる。そうじゃなくて、おまえらが動けない時でも俺は俺自身を守るってことだよ。その方が効率がいいだろ」
「まあ、そりゃそうだけど……」
「だからさ。恵留、亜琉弓、おまえらはおまえらのやりたいように行動してくれ。けど、その代わり、なんでも相談すること。俺に話せなかったら他の姉妹にでもいいからさ」
**
「恵留。生体レーダーに多数の魔物を確認した。これは、ゴブリンよりデカいが大型ってわけでもない。大きさは百七十センチ程度……人間サイズだな」
「ってことは遺跡付近に降りるのは危険だよね?」
「ああ。魔物から距離を置いて着陸しないとマズいな」
その時、レーダーに無数の魔力反応が表示される。それは、まるで飛来するミサイルのように高速でこちらに向かってきていた。
「恵留、二時の方角から魔力反応。緊急回避!」
左へ旋回したスバルの右すれすれの部分を光る物体が大量に通り抜けていく。まるで小さな鳥の群れが突っ込んできたかのように。
「飛行タイプの魔物ってわけじゃないな」
その時、亜琉弓から声があがる。
「ハルナオさん。これ、矢じゃないですか? それもマジックアローです」
マジックアロー? いわゆる魔法で創り出した矢か。亜琉弓もその類の魔法を使えるんだよな。
「敵に魔法を使える魔物がいるってことか?」
「そうみたいですね。それも一人二人じゃないです」
「ハルナオどうする?!」
「反転して戻るぞ。南へ向かえ、魔物から、さらに距離を置く」
対空砲火……いや対空魔法がある敵の真っ只中に降りられるほど、このスバルが頑丈とも思えないからな。超技術なわりに、紙装甲なところもあるし。
「了解!」
「亜琉弓。敵の魔法の威力とタイプはわかるか?」
「はい。いわゆる木属性。わたしと同じですね。タイプは強化系。弓矢自体に攻撃力増加を付与しただけなので、誘導系ではありません。魔法付加のおかげで射程は……そうですね。およそ五キロ」
なるほど、誘導系でないなら敵の攻撃を躱すのも苦労はしないかな。
「恵留。後方からくるマジックアローを避けつつ、全速力で逃げろ!」
理想の七姉妹と魔法じかけのペン ~ 描いたモノがなんでも実体化できるなら近代兵器でも最高にかわいいヒロインでもOKですか? オカノヒカル @lighthill
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