お地蔵さんの話

陽月

お地蔵さんの話

 あなたの近くにお地蔵さんはありますか?

 地域によるかもしれませんが、お寺に道ばたに、案外色々なところにあるものです。

 関西では、「地蔵盆」という行事もあるくらいです。

 笠地蔵や賽の河原のお話といった、お地蔵さんが出てくるお話もご存じなのではないでしょうか。


 そんな身近なお地蔵さんですが、「お地蔵さんは怖いから、入れ込まないように」そんなことを聞いたことはありませんか?

 今回は、お地蔵さんにまつわるお話を紹介したいと思います。



 ♫Happy Birthday to you

   Happy Birthday dear たくちゃん

  Happy Birthday to you 〜♫


 お祝いの歌が終わり、ホールケーキの上で燃えていた七本の蝋燭が、今日の主人公のたくちゃんによって吹き消される。

 パチパチパチパチと、拍手の音が続き、蛍光灯が点いた。


 父と母とたくちゃん、家族三人だけの小さなお誕生日会。

 机の上には、ケーキの他にもたくちゃんの好物がずらりと並んでいる。

「七歳おめでとう。お父さんとお母さんからのプレゼント」

「開けていい?」

「もちろん」

 父親から渡されたプレゼントの包みを開ける。あれかなと、思うものはあったし、大きさもそのくらいだった。

 早く確かめたくて、びりびりと包装紙を破いた。


「やったー。ありがとう」

 思っていたとおりのプレゼントで、早速箱から出したかったが、さすがにそれは止められた。

「遊ぶのは、ご飯の後でね」

 切り分けられたケーキが目の前にあり、ご馳走ばかり。こちらもきっちり楽しまなければならなかった。


 幸せな親子の誕生日のお祝い。

 両親は、この幸せな日を迎えることができたことを、心から感謝していた。



 それは、二ヶ月前のこと。たくちゃんは生死の境をさまよっていた。

 交通事故で、意識不明の重体におちいっていたのだった。

 どうか無事に、返してください。祈ることしかできない母親の脳裏に、家の近くのお地蔵さんが思い浮かんだ。

 賽の河原で子どもを守ってくれるお地蔵さんなら、子どもが賽の河原で石積みをしなくていいように、してくれるかもしれない。

 どうせ、見守ることしか、祈ることしかできないのならと、そのお地蔵さんにお参りすることにした。


 お地蔵さんへのお参りが功を奏したのか、たくちゃんは目覚め、後遺症もなかった。

 両親は、お地蔵さんのおかげだと喜び、感謝した。

 たくちゃんが退院した後も、母はお地蔵さんへのお参りを続けた。

 おかげ様で元気に過ごしていますと報告をし、どうかこれからも見守っていてくださいとお願いをし。


 一時は意識不明になっていたたくちゃんが、そんなことなどなかったかのように、元気に七歳の誕生日を迎え、その後も健やかに成長していった。

 時は流れ、新しい命が宿ったことがわかってしばらくしたある日、父親の転勤が決まった。

 家族は引っ越すことになった。引っ越せば、お地蔵さんにお参りすることができなくなってしまう。


 引越の日の朝、母親は最後のお参りをした。

 引っ越すことを伝え、これまでの感謝を伝えた。いつも以上に丁寧にお参りをした。



 新しい年度が始まり、たくちゃんは当たらし学校に通い出した。

 新しい友達ができたと、両親に報告するようになったある朝、登校中のたくちゃんに飲酒運転の自動車が突っ込んだ。

 たくちゃんだけでなく、一緒に登校していた児童も、被害にあった。

 そして、見守り登校で一緒に登校していた母親と、そのお腹の中に宿った新しい命も。


 たくちゃんは、次の誕生日おめでとうを聞けなくなった。

 新しい命は、最初のおめでとうさえも叶わなかった。


 愛する家族を、思いもよらぬ事故で失った父親は、失意の中、ふと、昔祖母から聞いた言葉を思い出していた。

「お地蔵さんはね、お参りできなくなった後が怖いから、ほどほどにね」

 この事故が、お地蔵さんにお参りできなくなった反動だなんて、バカげている。

 けれども、あれほど感謝を伝えていた妻に対し、お参りに来なくなったからとこの仕打ちかと、そう思わずにはいられなかった。



 お地蔵さんには、よからぬ霊もつきやすいとも言われています。

 その様な霊は、あがめられた最初は御利益をもたらしますが、理由がなんであれ、離れたときの祟りが怖いとも。


 けれども、それは決して、お参りをするなと言うものではありません。

 何事もほどほどに、適切な距離を守って。

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お地蔵さんの話 陽月 @luceri

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