お地蔵さんの話
陽月
お地蔵さんの話
あなたの近くにお地蔵さんはありますか?
地域によるかもしれませんが、お寺に道ばたに、案外色々なところにあるものです。
関西では、「地蔵盆」という行事もあるくらいです。
笠地蔵や賽の河原のお話といった、お地蔵さんが出てくるお話もご存じなのではないでしょうか。
そんな身近なお地蔵さんですが、「お地蔵さんは怖いから、入れ込まないように」そんなことを聞いたことはありませんか?
今回は、お地蔵さんにまつわるお話を紹介したいと思います。
◇
♫Happy Birthday to you
Happy Birthday dear たくちゃん
Happy Birthday to you 〜♫
お祝いの歌が終わり、ホールケーキの上で燃えていた七本の蝋燭が、今日の主人公のたくちゃんによって吹き消される。
パチパチパチパチと、拍手の音が続き、蛍光灯が点いた。
父と母とたくちゃん、家族三人だけの小さなお誕生日会。
机の上には、ケーキの他にもたくちゃんの好物がずらりと並んでいる。
「七歳おめでとう。お父さんとお母さんからのプレゼント」
「開けていい?」
「もちろん」
父親から渡されたプレゼントの包みを開ける。あれかなと、思うものはあったし、大きさもそのくらいだった。
早く確かめたくて、びりびりと包装紙を破いた。
「やったー。ありがとう」
思っていたとおりのプレゼントで、早速箱から出したかったが、さすがにそれは止められた。
「遊ぶのは、ご飯の後でね」
切り分けられたケーキが目の前にあり、ご馳走ばかり。こちらもきっちり楽しまなければならなかった。
幸せな親子の誕生日のお祝い。
両親は、この幸せな日を迎えることができたことを、心から感謝していた。
それは、二ヶ月前のこと。たくちゃんは生死の境をさまよっていた。
交通事故で、意識不明の重体におちいっていたのだった。
どうか無事に、返してください。祈ることしかできない母親の脳裏に、家の近くのお地蔵さんが思い浮かんだ。
賽の河原で子どもを守ってくれるお地蔵さんなら、子どもが賽の河原で石積みをしなくていいように、してくれるかもしれない。
どうせ、見守ることしか、祈ることしかできないのならと、そのお地蔵さんにお参りすることにした。
お地蔵さんへのお参りが功を奏したのか、たくちゃんは目覚め、後遺症もなかった。
両親は、お地蔵さんのおかげだと喜び、感謝した。
たくちゃんが退院した後も、母はお地蔵さんへのお参りを続けた。
おかげ様で元気に過ごしていますと報告をし、どうかこれからも見守っていてくださいとお願いをし。
一時は意識不明になっていたたくちゃんが、そんなことなどなかったかのように、元気に七歳の誕生日を迎え、その後も健やかに成長していった。
時は流れ、新しい命が宿ったことがわかってしばらくしたある日、父親の転勤が決まった。
家族は引っ越すことになった。引っ越せば、お地蔵さんにお参りすることができなくなってしまう。
引越の日の朝、母親は最後のお参りをした。
引っ越すことを伝え、これまでの感謝を伝えた。いつも以上に丁寧にお参りをした。
新しい年度が始まり、たくちゃんは当たらし学校に通い出した。
新しい友達ができたと、両親に報告するようになったある朝、登校中のたくちゃんに飲酒運転の自動車が突っ込んだ。
たくちゃんだけでなく、一緒に登校していた児童も、被害にあった。
そして、見守り登校で一緒に登校していた母親と、そのお腹の中に宿った新しい命も。
たくちゃんは、次の誕生日おめでとうを聞けなくなった。
新しい命は、最初のおめでとうさえも叶わなかった。
愛する家族を、思いもよらぬ事故で失った父親は、失意の中、ふと、昔祖母から聞いた言葉を思い出していた。
「お地蔵さんはね、お参りできなくなった後が怖いから、ほどほどにね」
この事故が、お地蔵さんにお参りできなくなった反動だなんて、バカげている。
けれども、あれほど感謝を伝えていた妻に対し、お参りに来なくなったからとこの仕打ちかと、そう思わずにはいられなかった。
◇
お地蔵さんには、よからぬ霊もつきやすいとも言われています。
その様な霊は、あがめられた最初は御利益をもたらしますが、理由がなんであれ、離れたときの祟りが怖いとも。
けれども、それは決して、お参りをするなと言うものではありません。
何事もほどほどに、適切な距離を守って。
お地蔵さんの話 陽月 @luceri
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