最後のモンスター達と伝説のトリ

にゃべ♪

復活した地上の魔王

 そこはモンスターが虐げられている世界。ドラキュラは伝説のフクロウ、トリに乗って故郷を飛び出した。トリの記憶を頼りに天空の楽園と言う場所を安住の地に定めた彼は、この地に仲間を集めようと行動を開始する。

 ひょんな事で仲間になったモンスター保護官のリホを仲間に加え、ドラキュラ達のモンスター保護計画は進んでいく。


 モンスター研究施設から捕らわれのモンスターを保護してから3年が経った。3つの楽園のひとつ、天空に浮かぶ天空の楽園では、今まさに3周年のお祝いのお祭りが始まろうとしていた。


 モンスター保護計画が本格的に始まってから3年、ドラキュラ達の志に共鳴する人も現れ始め、今ではこの楽園は数百単位のモンスターと数十人の人間の保護官が共同で暮らしている。

 かつて楽園が多くの生き物で溢れていたその当時を思わせる光景が、今まさに出来つつあったのだ。


 その頃、この計画の立役者の1人、保護官のリホはこの楽園の秘密を好奇心の赴くままに研究していた。

 天空に浮かぶこの楽園は失われた技術で空に浮かんでいる。しかも特定の種族にしかその姿を視認させない。この秘密を探ろうとしていたのだ。


 遺跡の中枢部にはまだ可動し続けている2万年以上昔のシステムがある。その日もアチコチいじりまくっていた彼女は、ついに余計な所を触ってしまう。

 そのせいで当然楽園中に警報が鳴り響き、住人達はパニックになってしまった。


「うわぁ、一体何なんだ?」

「取り敢えずお祭りは中止、安全な所に避難して!」


 警報が鳴り響いた事で大体の事情を察したドラキュラは、すぐに遺跡中央の特別制御室へと向かう。


「リホ、また変なところ触っただろ!」

「ご、ごめん、つい……。でも大丈夫だよ。何も起こってないみたいだから」


 彼女の報告は正しく、結局警報は音だけだったようで、避難勧告はすぐに解除された。みんなが安堵する中、何故かトリだけが何かを感じ取ったのかガクガクと震えていた。


 その頃、天空の楽園の警報に呼応するように、地上ではドラキュラの故郷である鳳凰エリアが、かつて地上の楽園だった頃のいにしえの姿を現し始めていた。遺跡の研究をしていた研究者が封印を解いてしまったのだ。

 ただ、その研究者達の間でも、何故急に封印が解けたのかは分からずにいた。


 そうして、この復活と共に遺跡が長年封印してきた魔王級のモンスターもまた長い眠りから目覚める。当然研究者もこのモンスターを研究していたものの、いきなり動き始めた事で全くコントロールが効かず、現場はパニックになっていた。


 研究が失敗した時のために雇われてたハンター達がすぐに魔王を攻撃するものの、彼らの持っている装備では魔王に傷ひとつつけられず、諦めたハンター達は一目散に逃げ出していく。


「我は今ここに復活した!」


 目覚めた魔王は楽園のシステムを掌握し、地上を支配していた人類に宣戦布告をする。遺跡の研究者はみんな捕らえられ、復活した鳳凰エリアの攻撃システムが地上の街の破壊を始めた。エネルギー砲によって世界各地の都市が火の海に沈んでいく。

 その様子は、天空の楽園の監視システムからでもハッキリと確認する事が出来ていた。

 燃える都市を目にしたドラキュラは、その悲惨さに思わず息を呑む。


「ちょ、地上がヤバい事になってるぞ」

「あれは倒せないホ……」


 トリは復活した魔王について詳しい事を知っているのか、戦う前から意気消沈していた。さっき震えていたのもそのせいなのだろう。


「でも、このままじゃ……」


 リホは燃やし尽くされていく各地の都市を見て、何も出来ないのを歯がゆく思っていた。そこで何か手はないか考え始める。


「そうだ、この楽園にあるもので何とかならないかな? 例えばこれとか、さっき見つけたんだけど……」


 彼女はさっき見つけてきた遺物を手にして訴える。それを見たトリの目が大きく見開いた。


「その封印も解けたのかホ!」

「え?」

「もしかしたら……勝てるかもしれないホ」

「どう言う事? これ、そんなにすごいものなの?」


 どうやら見つけたリホ自身はそのアイテムの能力を知らないらしい。トリはコホンと軽く咳払いをすると、代わりに説明を始めた。


「それは設置した生き物の時間を止める事の出来るアイテムなんだホ。俺様が引きつけるから隙をついて魔王に設置するホ」


 作戦としてはこうだ。トリが魔王の気を引いて、その間にドラキュラが時間停止アイテムを設置。動きを止めた魔王をトリがボコボコにする。

 単純な作戦ではあったものの、早くしないと被害が広がるばかりだと、トリは巨大化してドラキュラを乗せる。

 そうして、今まさに飛び立とうとしたところでリホが叫んだ。


「私も行くよ!」

「でもアイテムはひとつ……」

「ほら、もうひとつ持ってる。保護官してる時にどこかの遺跡で見つけたんだ」


 ドラキュラがアイテムの数を理由に断ろうとしたところで、リホはポケットから同じ物をもうひとつ取り出した。どこまで強運なんだか、確かにそれは同じく時間停止アイテムだった。

 切り札を持っていると言う事で、彼女もこの作戦に参加する事に。


「よし、出発ホ!」


 こうして巨大化したフクロウは天空の楽園を出発、鳳凰エリアへと急行する。そこでは巨大化したトリと同じくらいの大きさになった魔王が腕を組んで仁王立ちで待ち構えていた。

 巨大モンスター同士のバトルが始まる直前、ドラキュラ達はトリの背から飛び降りて地上に着地する。


「俺様が相手だホ! 魔王アルファ!」

「お前もやはり復活していたか、だが1人で勝てるとでも?」

「やれるだけやってみるホー!」


 トリによれば、この巨大モンスターはアルファと言う名前らしい。戦いは巨大飛行モンスターの攻撃から始まった。


「ホー!」


 トリの口から放たれる超音波的な攻撃がアルファに直撃。魔王は多少体勢を崩すものの、ほぼノーダメージだ。次にアルファはトリを捕まえようと手を伸ばす。

 その文字通りの魔の手を、フクロウは巧みな飛行テクニックでかわしていく。二体の魔王級の戦いはどちらにも大きなダージを受ける事なく、消耗戦に入っていった。

 タイミングを見計らっていたドラキュラは、魔王の攻撃パターンを読み切って行動を開始する。


「よし、今だ!」

「馬鹿め」


 どうやらアルファはこちらの作戦を最初から読んでいたらしい。至近距離に近付いたところで攻撃魔法が発動し、ドラキュラは呆気なくふっ飛ばされた。


「ドラキュラー!」

「ほう、もう一匹虫がいたか」


 リホの存在に気付いた魔王は、魔法ではなく物理で潰そうとその巨大な拳を彼女に向かって放とうとする。その動きに気付いたトリが咄嗟とっさに急降下。


「させないホー!」

「馬鹿め!」


 そう、保護官を狙ったのはトリをおびき寄せる罠だったのだ。ダイレクトに殴られた伝説のフクロウはそのまま吹っ飛び、鳳凰エリアの遺跡の一部を破壊する。


「トリくーん!」

「後はお前だ。無駄な努力だったな」


 魔王はそう言うと、指先をリホに向けた。その先から魔導エネルギーが充填していく。死を覚悟した彼女は、それでも必死で腕で顔をガードした。


「ささやかな抵抗もこれで終わりだな」

「隙あり!」

「何……だと?」


 一連のゴタゴタの最中、意識が他に移っている間にドラキュラが復活。そうして千載一遇のチャンスを狙い、ここで気付かれる前に素早く動いたのだ。

 魔王の足に設置された時間停止ユニットは、順調にその機能を発揮していく。


「リホ、早く!」

「分かった!」


 ユニットひとつだけでは魔王の動きを完全には停止させられない。ドラキュラに急かされたリホは、素早くもう片方の足に装置をめり込ませた。


「ば、馬鹿な……。人とモンスターが呼吸を合わせるだと? その世界は破壊したはず……」

「何言ってるかよく分からないけど、分かり合おうと思えるなら、いつかはその気持ちは通じるんだよ」

「そうか、お前……」


 アルファがリホに何か言いかけたところで、完全に動きは停止した。時間停止ユニットがその効力を発揮するのは相手の力に比例する。魔王クラスともなれば有効時間はせいぜい3分がいいところだろう。

 つまり、ここからが本当の時間との勝負と言う訳だ。


「やった、動きを止めたぞ!」

「よくやったホー」


 この瞬間を待っていたのか、ここでトリが復活。残った力を全て吐き出すくらいの勢いで口から超音波的な攻撃を繰り返す。

 10回、20回と何度も当てている内に魔王の体に亀裂が入っていき、ユニット有効期限ギリギリの2分59秒時に魔王アルファの体はこなごなに砕け散った。


「やった、のか……?」

「さ、帰るホ」


 鳳凰エリアに人が集まる前にと、トリは2人を乗せて天空の楽園へ帰還する。その途中でリホが振り返ると、主を失った遺跡が次々に崩れていくのが見えた。もうあの遺跡を悪用しようと考える人はいないだろう。

 燃え盛っていた各都市も、かなり消火が進んでいるようだった。


 天空の楽園では、勇者達の帰還を確認してお祭りが再開される。傷つきながらも2人を運んだトリは、楽園に辿り着いたところで元の大きさに戻って、そのまま勢い良く地面を転がっていく。

 傷だらけで消耗しきったフクロウをリホは優しく抱き上げた。その瞬間、トリの体はその内側からまぶしい光を発光させる。


「わっまぶしっ」

「リホ、有難うホ」


 光が収まると、何故かトリの傷はすっかり消えていて、しかも弱い光を発光させ続けていた。そうして、彼女の胸から飛び出し、どこかへと飛び去ってしまう。

 こうして全ては終わり、ドラキュラがリホの肩を優しく叩いた。


「とんだ3周年イベントだったな」

「でも、みんなが無事で良かった」


 それから2人は賑やかな3周年のお祭りを共に楽しんだ。この宴は一晩中続き、人もモンスターも笑顔でその時間を楽しんだのだった。



 次回『3年前の出来事』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054889028310/episodes/1177354054889028820

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