最後のモンスター達と伝説のトリ

にゃべ♪

3年前の出来事

 そこはモンスターが虐げられている世界。ドラキュラは伝説のフクロウ、トリに乗って故郷を飛び出した。トリの記憶を頼りに天空の楽園と言う場所を安住の地に定めた彼は、この地に仲間を集めようと行動を開始する。

 ひょんな事で知り合ったモンスター保護官のリホを仲間に加え、ドラキュラ達のモンスター保護計画は進んでいく。


 楽園にモンスターが集まり始めてから3年が経ち、3周年記念パーティが盛大に行われた。その後にちょっとしたトラブルに見舞われるものの、それも無事に解決し、パーティは再開される。


 ドラキュラが宴に参加していると、この楽園に住むようになった元モンスター保護官のルクスが、酒の入ったグラスを片手に彼に話しかけてきた。


「改めて3周年おめでとう! いやぁ、ここも随分と立派になったねぇ」

「いや、まだまだだよ」

「思い出すよ、昔を。あれは確か3年前か……」


 そうして話は3年前へと飛ぶ。そう、あれはドラキュラとリホがモンスター保護に本腰を入れ始めた頃の事――。



「私も力を貸したげる!」

「上から目線かよ」

「いいじゃない、どうせあなた達だけじゃモンスターを探し出せないんでしょ? 私の情報は役に立つよ?」


 成り行きで天空の楽園に連れ帰ったリホは、ドラキュラ達の活動に協力すると言って聞かなかった。しつこくしつこく声をかけられてドラキュラの方が根負けし、渋々3人パーティを結成。

 このトリオで不幸なモンスターの救出作戦が始まったのだった。


 ある時は悪徳モンスターブリーダーの拠点を襲ってモンスターを開放し、ある時はお金持ちが道楽でモンスターの多頭飼いしている所を襲っては開放しと、活動している内に無人だった天空の楽園も少しずつ賑やかになっていった。


「次のターゲットはモンスター運搬船にしない?」

「運搬船?」

「その船の中にはハンターに捕まえられたモンスターや、ブリーダーが飼育を放棄したモンスターがぎゅうぎゅうに押し込められて、タダ同然で売り買いさせられているらしいんだ」

「何て酷い話だよ。今すぐ出発だ!」

「そう来なくっちゃ!」


 そうしてその話に出てきたモンスター運搬船を襲い、捕らわれのモンスター達を開放する。

 3人はいつの間にか絶対のモンスター解放隊と呼ばれ、不遇な目に遭っているモンスター達の希望に、モンスターを商売の種として扱う人間達には天敵扱いされるようになっていく。


 ドラキュラ達に襲われ、何度も煮え湯を飲まされてきたモンスター商人のガンボはこの邪魔者の排除に本格的に取り組み始めた。


「また奴らに襲われただと? ええい、護衛のハンター共は何をやっておる!」


 彼はモンスター関係の商売を手広くやっており、業界でも五本の指に入るほどの利益を上げている。

 しかし、最近はドラキュラ達の妨害によってその売りげをどんどん落としていた。ガンボも手をこまねいていたのではなく、様々な手を講じてはいたのだ。

 けれど、その全てをドラキュラリホトリの巧みなコンビネーションによって打ち砕かれてしまっていた。


「もう楽観視は出来ん! 調子に乗った解放隊に目にものを見せてやらねば……!」


 彼は商売の邪魔になる解放隊を捕まえるために独自に作戦を立案、すぐに行動を開始する。

 優秀なハンター部隊の招集から、罠になるイベントの準備。そうして全ての作戦が失敗に終わった時の保険等――。

 入念に計算され尽くしたそれは、まさに邪魔者は絶対許さないと言う、彼の執念が形になったものだった。


 こうして開催されたのがガンボ主催のモンスターの見世物イベント。世界各地のレアモンスター達を大型テント内で披露すると言うものだ。勿論モンスター達には厳しいしつけが行われ、見世物としての芸を仕込んでいく。

 ここまですれば解放隊が動くとにらんでの興行だった。


 イベント初日の夜、いきなり空からやって来る巨大なフクロウ。それを確認したガンボは控えているハンター達に作戦の実行を伝える。


「こんなバカげたイベント、ぶっ潰してやる!」


 モンスターを助けるためにトリからドラキュラが飛び降りたその瞬間だった。その一瞬を狙って多数のハンターのライフルが火を吹いた。狙われ慣れているドラキュラはモンスター独自の勘で危険を察知、コウモリに変化して弾を紙一重で避けていく。

 罠だと勘付いたドラキュラは、自らおとりとなってモンスター救出をリホに一任。


「俺がハンター共を引きつける。モンスターの方は任せた!」

「了解!」


 リホは体力増強パーツを装着して、まずは現場を混乱させる所から始める事にした。イベントは盛況でテントには満員の観客がいる。彼らをパニックにさせて、その隙にモンスターを開放する段取りだ。

 この時、出演するモンスターの健康管理等の専門家枠として雇われていた保護官のルクスが現場にいた。彼はこの混乱の理由も熟知しており、それをどこか他人事のような視点で眺めていた。


「おー、派手にやり始めたなあ……」


 と、そこで同僚の姿を発見し、ルクスは目を疑う。何故ならリホはもう数ヶ月も保護官の事務所に顔を出していなかったからだ。

 てっきり他にやりたい事が出来てそっちで頑張っているものと思っていた彼は、意外な場所での邂逅に驚きを隠せず、つい声をかけてしまう。


「あれ? リホ? 君、こんなところで何を?」

「せ、先輩? 先輩こそどうして?」

「いや最初に質問したの俺だからね?」


 重要な仕事の最中に前職の知人に見つかり、リホは一瞬困惑する。ただ、自分の行いに一切の後悔がなかったのもあって、彼女はすぐに開き直った。


「私、天職を見つけました」

「は? どゆ事?」


 この斜め上の回答にルクスは首をひねる。リホは彼なら理解してくれるだろうと、モンスター解放の事について洗いざらい説明した。

 最後まで話を聞いたルクスは、感心したように声を上げる。


「へぇ、モンスターとの共同作業かぁ。それはすごい」

「じゃ、私、行きますね!」

「ちょい待ち、俺にも手伝わせてくれ」


 彼もまたモンスター保護官。モンスターに対する愛情は人一倍強い。

 と言う訳で、それがモンスターのためになるならばとルクスはリホに協力を申し出たのだ。彼の人柄を知っていたリホは一瞬悩むものの、今は余計な事をしている暇はないと軽く断ろうとする。


「えっと、それはまた今度に……」

「オレも保護官だ。モンスターの役に立ちたいんだよ。どうか信用してくれないか」


 そんなやり取りをしている内に、モンスター解放の動きが一向にないのを不審に思ったドラキュラが合流する。リホはすぐに事情を話し、判断を彼に委ねた。

 ドラキュラは顎に手を乗せて少し考え、この賭けに乗っかる事を決断する。


「……じゃあ何かあったらリホの責任って事で」

「おおドラキュラ君、君、話が分かるね!」


 こうして仲間を現地調達した一行は改めてモンスター解放に向けて動き始める。

 ドラキュラはまだハンターから狙われていたので、解放を2人に任せて別方向に飛び出していった。


 テントに潜り込み、どうやって会場をパニックにするか考えているリホに向かって、ルクスがポツリと耳打ちする。


「なあ、君ら2人付き合ってるの?」

「ななな、違いますよ! 彼とは……そう、同士! 同士ですっ!」

「モンスターでもハーフとかいるし、別に気にしなくていいのに」

「や、止めてくださいよもう! それより始めますよ!」


 こうしてモンスター解放組が自分達の仕事に専念し始めた頃、テントの外では何とかドラキュラとトリが襲い来るハンター達を倒していた。

 モンスター商人のガンボはこの最悪の展開も想定済みだとばかりに、最後の切り札を披露する。


「よくもここまで馬鹿にしくさってくれたな! お前らは生きては帰さん! いでよ! 魔獣シーヴ!」


 彼の号令と共に凶悪そうな魔獣が姿を現した。全長は5メートルほどで、牙の発達した獰猛そうなそいつは、赤い目を光らせてドラキュラに襲いかかる。

 魔獣は異世界から召喚されたものらしく、こちらの世界の攻撃はほとんどが無効。制御するには特殊なアイテムを必要とし、ガンボはそれを大枚はたいて手に入れていた。

 魔獣を目にしたドラキュラはハア……と、軽くため息を吐き出す。


「どんなバケモノが来るかと思えば……トリ、任せた!」

「ホー!」


 トリの発した目に見えない攻撃は、目の前の魔獣を一瞬で異世界に返してしまった。自慢の切り札が呆気なく無効にされてしまい、ガルボは膝から崩れ落ちる。


「そ、そんな馬鹿な……」


 その後、何とかモンスターの開放に成功した保護官組がドラキュラ達に同流する。巨大化したフクロウに全員を押し込むと、そのまま楽園へ向けて飛び去っていった。

 この時、開放組に人間の保護官が混ざっているのを目にしたガルボは大声で叫ぶ。


「保護官がモンスターに手を貸すなど、絶対に許さん! 社会に居場所があると思うな!」

「いいよ。別に人間界に未練ないし」


 リホはそんな脅しを笑顔で一蹴する。


 後日、それからも次々にモンスターを強奪され、ガルボの事業は失敗。彼は路用に迷う事となったのだった。



 ルクスは3年前の思い出話を語り終え、酔っ払いながら改めてドラキュラに話しかける。


「なあ、そろそろリホと付き合っちまえよ」

「ななな、何を……っ。お前、酒の飲み過ぎだぞ!」

「今度はまた別のおめでたい話で盛り上がりたいぜー」


 彼はそう言いながら近くにいたドラキュラとリホの2人に向かってチラチラと目配せをする。そうして変に意識し始めた2人は、お互いに赤面して無言になってしまったのだった。



 次回、最終回『トリを探して』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054889058705/episodes/1177354054889059265

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