僕は三周年記念パーティの企画をします
亥BAR
※イライラ注意
「という訳で、お客様であるA社の三周年記念のパーティ企画が今回、このチームの仕事となります」
イベント企画会社に就職した僕は、新人研修を終え、初めて仕事に携わることになった。
もちろん、新人の僕が出す企画が通るなんて思っちゃいない。でも、全力をだすため、僕は資料を最後までしっかり作り込み、企画の場にたどり着いた。
まず、長い髪の女性先輩の提案。
「今回のお客様は創業からたった3年で驚く程巨大に成長された企業となります。そこから考えると、その今までの過程をぐっと一度見みることができるイベントを提案します。
そこでメインに持っていきたいのはビデオ映像。お仕事に携わっている関係者皆様が感動していただけるドキュメンタリーを作ってはいかがでしょうか」
僕は先輩方の話も聞こうと必死だったが、緊張してまるで耳に入ってこない。いつのまにか手まで震え始めた。
「次!」
「はっはい!」
僕の番になり、思わず声が裏返った返事をしてしまう。少し端から笑い声まで聞こえた気がする。やばい……なにもできないかも……。
その時だった。
「大丈夫だよ。勇気を持って」
プレゼンを終えた先輩が声をかけてくれる。
その言葉と先輩の笑顔に僕の気持ちはすっと落ち着いた。
僕は本当に全力で考えたプレゼンをするため、口を開く。
――
「という部分まではできたんですけど……、この主人公が出すあっと驚く企画がうまく思いつかなくて」
わたしは頭をぐっと抱え込んで、企画の脚本を上司に見せてみた。
イベント企画会社に務める今回のわたしの仕事は、新入社員の歓迎会で披露する劇の脚本。わたしが新人に仕事の楽しさを伝える一番の方法として演劇を提案。採用はされたものの、肝心の脚本まで任されてしまった。
上司はわたしの脚本に目をさらっと通してくれる。
「そんな悩まなくてもいいんじゃない? あなたがこの会社でやってきた経験をそのままここに書けばいいもの」
「いや、別に本当に素晴らしい即採用の企画はいくらでも思いつくんですけどね? でもこの子は新人ですよ。新人がいきなりそんな企画だせると思います?」
「……入社してから三周年のあなたがよくほざくわね」
上司は少し呆れたような顔をしてきた。でも、わたしは本気でこの仕事をしようとして、考えているのだ。
「でも、新人がやった初提案が即採用で大成功なんて、そんな夢物語は新人に見せたくないんです。ここで出すこの子の企画はもっとこう……」
手をくるくるもやもやと目の間で動かす……ようはまとまっていませんということ。
すると上司はあからさまにため息をついた。
「先輩たちに”悪くない”と思わせつつ、最終的に提案の一部分だけ使ってもらえるような企画ってこと?」
「そう、そんな感じです! なんで分かったんです?」
「あなたが最初そうだったからよ。その経験に基づいてこの脚本を書いてるんでしょ?」
わたしは本当にびっくりしてしまった。まさにその通りだったから。
「覚えてくれていたんですね。そうなんですよ、わたし、あの時、一部採用されたの本当に嬉しかったんです。仕事が楽しいって思えて!
それを伝いたいんです!」
そう、わたしはあの時……。
――
「と、ここでこの主人公の回想に入るわけなんだけどさ。この仕事が好きになったきっかけってのが、うまく描けなくて」
俺は漫画のネームをサークルの仲間に見せてみた。仲間は俺が書いたネームをさらっと一瞥する。
「……既にこの中のキャラが俺らと似たようなやりとりしてた気がするんだが?」
「いや、そんなことどうでもいいからさ」
俺はひたすら案を求めて仲間に視線を送る。
「ってか、俺たち漫画研究部だよな?」
「おう!」
「そして、漫研三周年を記念として作る俺たちの雑誌の漫画だよな?」
「むろんだ!」
すると仲間はぐっと頭を抱え込んだ。
「なんで企画会社の物語なんだよ!? もっとこう、なんというか……」
仲間が手をくるくるもやもやと動かす。
「それ、漫画のキャラと同じことやってるぞ」
「うるせぇ! あ……そう、もっと漫画の話とかのほうがよくないか? 漫研っぽくさ。漫画書いて三年目。そこで出会う漫研の人たち。
初めて得た漫画仲間と切磋琢磨して漫画の楽しさをより伝えられるような」
俺はポンと手を叩き仲間に指を向けた。
「確かに、それは悪くない。でもな……」
俺は少し首をかしげる。
「俺、三周年をテーマに書いてるんだよな。この漫研も三周年ってことで。でも、その話だと、三周年としてのテーマが薄くなっちまう」
そこで仲間もぐっと頭をひねった。
そんな仲間にフォローを入れるべく、俺は指を一本立てる。
「まぁ、でも、本当にそのストーリー自体は悪くない。一部は採用させてもらうよ」
「マジで!? やったよ! 一部だけでも認められた。仕事って楽しい!」
と来て仲間が俺の襟元を掴み上げてくる。
「てめえ。漫画の序盤にまで強引に伏線貼ろうとしてんじゃねえ!!」
「あっ、バレた? にしても、ナイスなノリツッコミ!」
と、ここで一度落ち着いて、俺たちは向かいった。
「でも、問題は三周年というテーマをどうするかだよな?」
「本当に……そうだよな」
――
「本当に、このテーマは難しいよ。三周年だってさ」
あたしはパソコン画面と睨めっこしながら、腕を組んだ。
すると、となりにいた友人がなにやらプルプル震えている。
「ごめん、ちょっとイラっとしてきたよ」
「えぇ!? なんで!?」
友人がちょっとお怒りモードになりかけ。そんな友人がパソコン画面を指差す。
「いや、なにコレ!?」
「あぁ、これ? ほら、カクヨム単発参加OK3周年記念選手権、八日目のお題が「3周年」じゃん? でも難しいんだよ。で、ふにゅ~~って考えて……。
ごちゃごちゃってしてきた思いをぶつけた小説がこちらになります」
「そんな出来損ない、さっさとゴミ箱に捨てちまえ。あと、「単発参加OK」部分はタイトルじゃねえ!?」
あたしは泣く泣く(思うがまま打ち殴った)小説を削除し、友人と向かい合う。
「でも、本当に難しい。だって三周年だよ? 正直、シチュエーションがかなり限られちゃうし、上手く思いつけないよ」
「まあ、それに関してはわたしも同意だね。わたしもいくらか考えたりしてるけど、これといった感じのはまだ。
だって、書いてもなんというか……こう……」
友人は手を動かそうとしてやめた。
「コホン……わたしは乗らんぞ」
「……チェッ」
内心期待してたあたしは本気でつまらんと思った。
「ま、その三周年じゃなくてもいいよね? って話になっちゃうんだよ。正直、十周年でもよくね!? って話になっちゃいそうで。
それだと、なんかもう悔しいというか、足りないというか……」
「本当にそのとおり。ほら、ハイ〇ック(ご本人さんすみません)さんも難しいって嘆いてるよね」
「でも、あれはお見事としか言いようがないけどね。「3」がしっかり生かされてるし」
……
「「ってそこじゃない!!」」
ここで、もう一度冷静に考えを絞り出していく。
「でも、三周年って一番初めにくる大きな括りだよね? 一周年記念より、三周年記念のほうが、よく聞くし!」
「そうか? 付き合って一年って大きな節目だと思うけど? ってか、一ヶ月も大きいよね」
「……伸びかけた鼻を容赦なく折るのはやめてくれる?」
あたしは結局思い浮かばず、頭をガーッと振りまくった。
「一周年じゃなくて三周年。十周年じゃなくて三周年。なんか、ないかな?」
――
「って、ここで終わりかいっ!? 最後まで頑張れよ!? まだ文字数あるぜ!?」
カクヨム3周年を記念した企画で集まった小説を漁る僕。ひとつの作品を読み終え、一応「3周年」のテーマに沿ってはいることを確認して、次に進んだ。
「ねぇ? さっきので終わりだと思った? カクヨムに投稿している人たちの視点でオチ付くと思った? 残念、まだ続きます!
どんな気持ち? ねぇねぇ、今どんな気持ち!?」
「誰に何を煽ってんだオメエは!?」
先輩に活を入れられ、おぉっと思いながら、たくさんある作品に再び視線を送る。
「にしても、この企画やべぇっすよ。ここまで大量に作品よせられるとか思ってませんでしたよね? いそがしいったらありゃしない!」
「しかたねえよ」
先輩はとなりで同じようにひたすら作品を見続け、同じようにテーマに沿っているかどうかをチェックする。あと、文字数のチェックも。
「でも、今回のお題は流石に難しかったんだろうな。良作がすくねえ感じだ。まぁ、編集部賞はねえんだけどな」
「まぁ、そうですよね。こっちでいい作品を選ぶなら、三周年を上手く利用したやつ出したいですけど。今回はお題に沿っているだけのチェックですから。
ぶっちゃけ、三周年ってワード入ってたらOK。ってか、三年関係の話ならOKってことでいいですよね?」
「そりゃな。こまけえことまで決めてたら、大量の数を裁けねえからな。……ってか、この皆勤賞ってやつのためで、どエライ苦労をしてるような気がする」
「……それ言っちゃだめなやつっすね」
――
「よし、書き終わった! これで八日目のお題はクリア、皆勤賞まであと一歩だぜ! さて、投稿しよっと!」
「いや、流石にしつこい! いいかげんにしろっ!?」
「「どうも、ありがとうございました」」
――
「結局、三周年ならでは、ってのは思いつかなかったんだね」
「いや、もう。これでいいかなって? 皆勤賞取れれば」
「……うん」
「いや、頑張ったんだよ!?」
「うん、それは伝わった。で、結局着地できなかったんだね」
「……うん!!」
僕は三周年記念パーティの企画をします 亥BAR @tadasi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます