第8話 一弥、家に帰る。



一弥かずやが家に帰ると妹の彩加が親父の御札を持ってきた。

御札は一弥が触れると白い煙を発して見る見る姿を変えていった。

すると一弥の手の平で一匹の鈴虫が現れた。

これは親父の四鬼しきだ。

すると親父の声がした。どうやら鈴虫が話しているらしい。

「初仕事ながら良くやった。しかし、お前は大事な四鬼は無くすし、まだまだ未熟だ。これからは真面目に修行に身を入れるように……」

「やっぱり見てやがったのか、自分の息子が死にそうになったって言うのに。あの馬鹿たれ親父め」

一弥は怒りが込み上げてきた。

すると鈴虫がまた喋りだした。

「追伸――。お前が無くしたと思っている式神はちゃんと生きておるから安心しろ。俺はお前に俺の四鬼しきの影丸を憑けていたからなあ。どうせ気づかなかっただろうがな。俺の四鬼はあれくらいじゃくたばらないからな。まあ、悔しかったら修行しろ。まだ、お前には鬼祓いの印可を与えられんなあ。まあ今の段階では仮免ぐらいだろうな」

そう勝手な事ばかり言って親父の鈴虫は消えてしまった。

でも一弥は自分の実力の無さが悔しかった。

親父にもっと鍛えて貰おうと思った。

それに喧嘩が絶えなかったけど、親父は親父なりに息子の心配をしている事がわかって少し嬉しかった。

鬼のような親父にも少しは親心があったのだと。

それで一弥は親父の居所を彩加に聞いた。

すると

「今ごろは熊野じゃないの。」

「え、熊野って……」

「うん、なんでも昨日、なんか重要な書物を発見したとかなんとかって電話がかかってきたら飛んでいちゃった」

「おい、それって僕が出かけてから後の事だろうなぁ」

「ううん。兄さんが学校から帰る前だったっと思うよ。どうしたのそんなに恐い顔して」

一弥は庭に出て上着を脱ぐと、素振り用の巨大な木刀を一心に振るい始めた。

「息子の命より。書物の方が大事なのかよ。あの馬鹿たれ親父が。絶対に越えてやる。それで、あの馬鹿たれ親父に頭下げさえてやる」

一弥の言葉は山の麓に有る藤倉神社から山々へ響きわたった。

「お母さん。また兄さんが叫んでるよ。でも、近所には誰も住んでないから大丈夫だけど……」

縁側から彩加が腕を組んで、そう母さんに話している。

隣にいる母さんは一言

「ああして男の子は立派な男になるのですよ」

そう言い放った。

彩加は

「男って大変だね。兄さん、風引くよ」

そう言って家の中に入っていった。






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鬼祓い 鷹野友紀 @takanoyuki

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