無限ループ

流々(るる)

「うわぁっ!」

 奥歯に力を込めて堪えていたはずなのに、思わず叫び声をあげた。

 、という意識がある。

 意識と現実がだんだんと近付いていく。

 二つが重なった時、僕は目を開けた。



(……なんだ、夢か……)


 カーテン越しの気配を寝たままうかがい、大きく息を吸い込む。

 脳に酸素をたっぷりと送り込み、ゆっくりと吐き出す。

 ようやく意識が動き出した。

 どうやら起きるにはまだ早いらしい。

 カーテンから漏れる陽射しは見えず、部屋の中は薄暗いままだ。


(それにしても……)


 怖い夢だった。

 気がつけば、Tシャツの首回りが汗でべっとりと濡れている。

 冷たくなって気持ちが悪いので、半身を起こして他のシャツに手を伸ばす。

 着替え終わり、もう一度横になった。

 洗いたての匂いがする乾いたシャツが肌に気持ちいい。

 もう一寝入りしようと思ったけれど、おかげで目が冴えてしまった。

 

(このまま早起きするのも悪くないかもな)


 気持ちとは裏腹に、体は疲れているのか起き上がる気にはなれない。

 寝たまま目を閉じていると、見たばかりの夢のことが浮かんでくる。



 誰かから逃げているのが始まりだった。

 街並みに目をやると、どこか外国のようだ。

 僕を追っているのは……警官か? 東南アジア系の顔をしている。

 夢の中で盗みでもしたのだろうか。

 いや、違う。思い出してきた。

 僕はスパイとして送り込まれた警官をあぶり出すために、潜入調査を進めていたのだ。

 それを敵の組織に感づかれ、追われている。


(夢らしくなってきたぞ)


 場面が急に切り替わった。

 ハイウェイを疾走する赤いスポーツカーのルーフに、僕はしがみついていた。

 運転しているのは、あの警察官。

 僕を振り落とそうとしている。

 運転しながら拳銃を取り出し、僕に向かって撃ってきた。

 左腕を撃たれ、手指がマヒして動かない。

 しかし、奴も運転を誤り、街路樹にぶつかって停まった。


(なんか、左手がしびれてきた気がする)


 また、場面が切り替わった。

 今度はビルの屋上だ。

 奴が何か言っている。

 どうやら、仲間の名前を言えと脅しているようだ。

 僕は絶対に口を割るもんかと、奥歯をぐっと噛み締めた。


 じりじりと端に追いつめられる。

 屋上にはフェンスもなく、周囲が三十センチほど高くなっているだけだ。

 高所恐怖症の僕は下を覗き込んだだけで目眩めまいがする。


 奴は拳銃を持った右手を前に出し、なおも迫ってくる。

 もう後がないところまで追い詰められた。

 奴が何か叫ぶ。

 僕が黙ったままでいると、一声怒鳴ったあと銃爪ひきがねを引いた。

 右肩を打たれた僕はバランスを崩し、後ろへ倒れる。


(これは夢、だよな)


 ビルの屋上から地面に向かって堕ちていく。

 スローモーションのように、アスファルトが目の前に近づいてくる。

 だめだっ!

 もう――ぶつかるっ!




「うわぁっ!」

 奥歯に力を込めて堪えていたはずなのに、思わず叫び声をあげた。

 、という意識がある。

 意識と現実がだんだんと近付いていく。

 二つが重なった時、僕は目を開けた。

 

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