西日本魔法少女大戦 

にゃべ♪

最後のカップラーメン争奪戦

 切り札のマスコットフクロウのトリを岡山の山奥で発見し、一路大阪を目指す魔法少女達。島根の攻防戦を制し、無事に兵庫県まで辿り着いた。ここまで来ると異世界モンスターの数も強さも段違いで、彼女達は苦戦を強いられていく。

 とは言え、マルルとキリエの見事なコンビネーションは更に研ぎ澄まされ、以前のように物量で押し返される事は少なくなってきていた。

 戦いの中で閃いた新必殺技や武器、いや、ステッキの進化で切り札に頼る事も少なくなっていく。


 その日、魔法少女達はひと仕事を終え、道中で目にした大型ショッピングモールに足を踏み入れた。


「人がいないショッピングモールは淋しいね、キリエ」

「マルル、油断するなよ」

「分かってる」


 彼女達の目的地はゲームコーナーや映画館ではない。従業員がいなければそれらのコーナーは無意味だ。目指すは当然食料品売場、今日のランチの確保。

 脱出命令で急いで人がいなくなったために、食料品売場には多数の食料がそのまま残されている。インスタント食品ならギリまだ賞味期限内。今日の2人の狙いはラーメンだった。

 マルルは閉じられた自動ドアを無理やり開けながらニッコニコ。


「ラーメンは久しぶりだよ」

「私の好物があるといいけど」


 期待に胸を膨らませた2人がその先で目にした光景、それは荒れた食料品売場だった。誰かがこの楽園をカオスな空間にしてしまっていたのだ。期待を裏切られ、マルルは肩を落とす。


「嘘、何で?」

「まさか!」


 嫌な予感を感じたキリエは走る。その向かう先はインスタントラーメン売り場だ。他の場所がどんなに荒れていたって構わない、ラーメンさえあれば! 

 彼女は天井の案内のプレートを見て該当エリアを探し出す。そこには棚一面に並んだカップラーメンが――ひとつもなかった。


「ああああああーっ!」


 空っぽになった棚を前にキリエは絶叫する。まるで世の中にこれ以上の悲劇はないと言わんばかりに。その悲しみの咆哮を聞きつけてマルルも合流し、相棒と同じようにショックを受ける。

 魔法少女達が悲しみに暮れていたその時、この最悪のタイミングで敵が現れた。


「何騒いでるノォ? あ、もしかしてアナタ達、ラーメンが欲しかった系?」


 姿を表したのはまたしても幹部モンスター。筋骨隆々のナイスガイ体型にオネエ言葉。つまりそっち系だった。

 オネエモンスターはつかつかとモデル歩きをしながら2人に近付き、そのむさ苦しい顔を見せつける。


「ごめんネェ。ラーメン食べちゃったのはワ・タ・シ。美味しかったワァ」

「おまェェェッ!」


 怒りに身を任せたキリエの拳がオネエモンスターに向かう。オネエはそれは軽く避けると、さっと何かを取り出した。

 そうして手に持った物を見せびらかしながら2人を挑発するように腰をくねくねと動かした。


「じゃァーン! ここに最後のカップラーメンがありまァース! 最後の3分間のし・ふ・く。どう、欲しくなァーい?」

「よこせぇっ!」


 おちょくられてバーサーカー状態になったキリエがカップラーメンを奪おうと暴走する。その荒々しい代わりに軌道の読みやすい攻撃を、オネエはひらりひらりと蝶が舞うような華麗なステップで避けていった。


「タダであげる訳がないじゃなァーい?」

「クソがっ」

「あらお下品。レディがそんな言葉を使っちゃノンノン。あなた達もラーメンが食べたいのネ? じゃあこうしまショ。この最後のラーメンを賭けて勝負するノ。アナタ達が買ったらこのラーメンはあ・げ・る」


 オネエのその言葉にキリエの動きは止まる。そうしてオネエをキッとにらみつけると、右手を上げてモンスターに向かって指をさした。


「絶対勝つ!」

「ちょ、待ってよ、私達が負けたらどうするつもりなの!」

「マルルは黙ってて! 私、負けないから!」

「これで交渉成立ねン」


 オネエモンスターは話がうまく進んで満足そうだ。この強引な展開を止められず、マルルは両手をギュッと握りしめる。

 こうしてモンスター対魔法少女の、最後のラーメンを賭けた勝負の火蓋が切って落とされた。


「改めて自己紹介するワネ。私の名前はトゥンク。お手柔らかにネ、マルルにキリエ」

「やっぱり名前、知られてるんだ……」

「そんな事はどうでもいい、早く勝負だ!」

「せっかちネェ……。じゃあ2人共、ついてきて頂戴」


 オネエ、いや、トゥンクに導かれ、一行はモールのゲームコーナーへ。そこでは人がいなくなったので稼働していないはずのゲーム筐体が、何故かしっかり稼働していた。

 久しぶりに見る動くゲーム筐体を前に、マルルは戸惑う。


「え? どう言う事?」

「私サァ。人間の文化が好きじゃナイ? だから頑張ってここだけ動くようにしたのよネェ」


 オネエはそう言うとにやりと笑う。人間の文化が好きなモンスターもいるんだと、マルルは感心した。

 一方、早くラーメンが食べたかったキリエは、この会話の時間も惜しいのか秒でキレる。


「そんな事はどうでもいい! 早く勝負内容を言え、つんく!」

「私はトゥンクよッ! 間違えないデッ!」

「それこそどうでもいいわ!」

「うわ、傷つくゥ。ま、いいワ。勝負はゲーム対決ヨ。ほら、あの筐体」


 トゥンクが指さした先にあったのは対戦格闘ゲーム。キリエは腕に自信があったのか、ブンブンと腕を振り回しながら筐体に向かって歩いていった。


「じゃあ、始めましょうかァ」

「秒でコロス!」


 殺気立っている彼女は巧みにキャラを操作する。得意なのは間違いないようだ。

 しかし、そんなキリエを上回る技量をトゥンクは持っていた。1勝もさせてもらえずに彼女は敗北する。


「アナタも強かったけどォ、ゴメンネェ、私の方が強かったみたい」

「くっそォォォ!」


 悔しさがマックスまで高まったキリエは何度も筐体を叩く。良い子は真似しないでね! 

 一方的に負けてしまったと言う事で、心配になったマルルは勝利の美酒に酔いしれるオネエに質問した。


「あの、まさか勝負はこれで終わり?」

「フフ、勿論まだヨ? アナタも倒さないとネ!」


 次に一行が向かった先はフードコート。勿論そこも人はいなくて、代わりにモンスター達が厨房で作業をしていた。何だこの光景。


「次は大食い競争よォ。私に勝てるかしらン?」

「マルル、絶対勝って!」

「まーかして!」


 こうして第2ラウンド、大食い競争が始まった。大柄のトゥンクは確かにその風貌通りにガツガツと料理を平らげていくものの、それを上回るペースでマルルは料理皿を次々と空にしていく。この勝負は魔法少女側の勝利に終わった。


「う、嘘でショッ? アナタ、一体どんな魔法使ったノ? この勝負はガチよ! 魔法禁止!」

「私、魔法なんて使ってないよ。食べようと思ったらいくらでも入るんだよ」

「嘘仰っしゃァァァイ!」


 2連勝に持ち込めなかった事でオネエは逆ギレ。ついにその本性を表した。


「私の可愛い部下ちゃん達、や~っておしまいッ!」


 その号令をきかっけに、厨房にいたモンスター達やモール内のどこかに潜んでいたモンスターたちがわらわらと現れた。その数はざっと500。大量のモンスターがフードコートに集まり、魔法少女達は身動きが取れなくなるほど。

 この集団が一気に魔法少女倒そうとするものだから、場はさらにカオスになる。そんな満員電車状態の中、キリエが叫ぶ。


「勝てないから数で勝負? この卑怯者!」

「何とでも言いナ! 勝てばいのヨッ!」

「その言葉、そっくりお返しだっ!」


 キリエは自慢のブレードを振り回す。敵が固まってるために面白いように倒れていく。マルルも負けじと銃を乱射した。数の上で有利だったはずのモンスター勢は、あれよあれよと数を減らしていく。

 物量作戦はこうして逆効果となり、味方を無駄死させた無能なオネエだけが1人残る結果となった。疲れた様子も見せずにブレードを肩にかけると、キリエはドヤ顔でトゥンクの顔を見る。


「勝てばいいんだっけ?」

「くッ! こうなったら私の真の実力、見せてあげるッ!」


 オネエはそう言うと不思議な構えを取りながら腕を様々な方向に動かし始める。それはまるで何かの拳法の構えのようだった。

 ただ、準備が必要なのか、威嚇いかくしながらもすぐには襲ってこない。今がチャンスだとキリエは一瞬で距離を詰める。


「言い残す事はない?」

「アナタねェ……懐に入れば勝てるとでモォ?」


 トゥンクはそう言いながらも顔が青ざめていた。キリエはそのままブレードを下から上に勢い良く斬り上げる。一連の動作が素早すぎてオネエは受け身を取る事も出来ず、そのままフードコートの屋根を突き抜けて空の彼方へふっ飛んでいった。


「ぎゃぴりーん!」


 こうして魔法少女達はモンスターとの戦いに勝利する。彼女はブレードをステッキに戻し腰の収納箱にしまった。全てが終わり、マルルは相棒の側に駆け寄る。


「呆気なかったね」

「幹部クラスも雑魚だったな。私達が強くなったのかも」


 敵がいなくなったショッピングモールでキリエはキョロキョロと辺りを見回し始めた。トゥンクの置き土産、ゲームの戦利品を探していたのだ。

 けれど、すぐにそれは見つけられなかった。もしかしてさっきの一撃でオネエと一緒に吹き飛ばしてしまったのかと焦っていると、聞き覚えのある声が背後で聞こえてきた。


「ホゥ、美味しかったっホ。お前達もよく頑張ったホ」


 そう、魔法少女達がバトルに夢中になっている間に、トリがカップラーメンを作って食べてしまったのだ。

 最後のカップラーメンを食べられてしまい、このために気合を入れて頑張ってきたキリエは力なく膝から崩れ落ちる。


「そ、そんなぁ……」


 その後、マルルがフードコートの調理場からうどんを調理し直してキリエに提供する。彼女は文句ひとつ言わずそれを食べると、長い長い溜息を吐き出すのだった。

 兵庫まで来たら大阪はすぐそこだぞ! 頑張れ魔法少女達。めげるな! 魔法少女達。



 次回『悪夢の果てに』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888953174/episodes/1177354054888953548

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西日本魔法少女大戦  にゃべ♪ @nyabech2016

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