西日本魔法少女大戦 

にゃべ♪

悪夢の果てに

 切り札のマスコットフクロウであるトリを仲間に加え、魔法少女のマルルとキリエは敵の本拠地のある大阪へと向かっていた。2人の旅は一旦島根まで後退するものの、その後は鳥取、兵庫と着実に大阪に向かって進んでいる。


 ショッピングモールに現れたオネエなモンスターを倒した後、2人はいい感じのホテルを借り、そこで1日の疲れを取る事にした。

 そうして、そこで2人は不思議な世界に迷い込む事となる。


 辺り全体を不思議な霧が包み込み、周りがほぼ見えない中をマルルとキリエは歩いていた。視界も悪いものの、更には音も全く聞こえない。

 静寂の支配する世界で、マルルはこの状況になってしまった原因を何も思い出せなかった。


「ここはどこなの?」

「見覚えのない世界だ。マルル、油断するな」

「日本じゃないっぽいホ」


 トリもちゃっかりこの世界にいる。この時点で魔法少女2人は敵が自分達を異世界に飛ばしたのではないかと推測する。まだ姿を見せない敵、けれど実体はすぐ近くにいるはずだ。マルルもキリエも周りを警戒する。トリはのんきにあくびをしていた。

 そんな緊張感の漂う中、場違いなほどに大きな声が聞こえてきた。


「ふははは! 夢の世界を楽しんでくれているかな?」

「お前の仕業か!」

「そうだとも! ここには私達しかいないんだよ。さあ、楽しもうじゃあないか!」


 何かイっちゃってるセリフを吐きながら、霧の中を何かが歩いてくる。こう言う場合、現れるのはまず間違いなく敵だ。

 2人がその声のした方向に注目していると、霧の中から坊主頭でその両脇に角を生やした見た目小学生っぽい感じの幹部級モンスターが現れた。あ、何かこう言うキャラどこかで見た事ある。

 その角少年は2人の前まで歩み寄ると、紳士っぽい仕草をしながらペコリと頭を下げた。


「皆さんはじめまして。私の名前はバウと申します。以後お見知りおきを」

「トリ君、任せた」

「ホー!」


 何か関わるのが面倒だと感じたマルルがフクロウの尻を思いっきり叩く。その刺激で、反射的にトリは口から謎ビームを吐き出した。そのビームは眼前のバウとか言うヤツを包み込む。

 今までのパターンから言ってこれで瞬殺、めでたしめでたし――の、はずだった。


「愚かですね。それで物語を終わらせようとは……」


 トリの必殺の一撃を受けてなお、モンスターは健在だったのだ。ビームの影響がなくなり2人に視界が戻ってくると、そこには全くダメージを受けた気配のないバウの姿があった。

 勝利のテンプレパターンを崩され、マルルは目を丸くする。


「あれれ?」

「夢の中での私は無敵です。分かって頂けましたか?」


 角少年はそう言うとニタァといやらしく笑う。トリの攻撃が効かないと言う事は、どうやらその言葉は事実らしい。

 最強の攻撃が通用しないと言う事で、2人はすぐにその場を離脱した。


「マルル、逃げるぞ!」

「はいっ!」


 魔法少女はその身にまとう魔法の力で人間の限界を超えた機動性能を発揮する。2人はその魔法の脚力で無敵の敵から距離を取ろうとした。


「ふっ……。逃げても無駄ですよ?」

「「うわーっ!」」


 全力で走っていた2人の前に突然バウが現れ立ち塞がる。どうやら敵は瞬間移動的な能力も持っているらしい。この危機的状況を前に、魔法少女達はピンチに陥った。トリの攻撃も効かないとなると、彼女達の攻撃も通用するかどうか……。

 困惑するマルルは、思わず相棒の方に顔を向けて苦笑いを浮かべる。


「この状況、どうにかならないかな……?」

「さあてね……」

「困ったホ」


 あのいつも余裕たっぷりのトリでさえ、この状況に戸惑っていた。バウはすぐに何か行動を起こすでもなく、魔法少女達の動向を見定めている。

 このにらめっこ状態はしばらく続き、そこで何かに気付いたキリエはマルルに耳打ち。話を聞いた彼女はすぐに内容を理解してうなずいた。


「じゃ、取り敢えずやってみようか……」

「うん、やろう」


 こうしてキリエ発案の作戦が始まる。そこで動いたのはマルルだった。


「鬼さんこーちらーっ!」


 キリエが動かない中、マルルが挑発するように飛び出した。それに気付いたバウはすぐにこのやんちゃ少女の方に意識を向ける。

 彼女の進む方向を先読みし、その動きを阻止するように前方に瞬間移動。


「逃しませんよ?」

「うわあっ!」


 しかし、その行動こそが作戦だったのだ。マルルは目の前に現れた角少年の背後にすばやく回り込み、思いっきり羽交い締めにする。


「捕まえたっ!」

「ほう? それで?」


 拘束された状態になってもバウは全く焦る素振りすら見せなかった。次の瞬間、間髪を入れずにキリエがブレードを構えて距離を詰める。そうして必殺の光速剣で角少年を斬りつけた。


「超次元斬!」


 しかし、彼女の攻撃は虚しく空を斬る。敵の動揺を誘い、瞬間移動を意識させる前にキリエが攻撃と言う作戦はこうして失敗に終わった。

 無心でブレードを振り抜いた彼女は、すぐには自分の作戦の失敗を理解出来ない。


「何……だと?」


 2人がバウの姿を見失ってキョロキョロと見渡していると、全く別の場所、いつの間にかそこにあった建物の屋上から笑い声が響いた。


「あの程度で私を捉えようなどと、全く舐められたものです」

「くっ……。やばいな……」


 圧倒的な力の差を前にして、流石のキリエも冷や汗を一筋垂らす。自分の強さを自覚しているからなのか、バウは自分からは手を出そうとはしない。もし彼女達に勝ち目があるとするならば、その余裕の隙を突くしかないのかも知れない。

 膠着状態の続く中、マルルがこの世界の本質に気付く。


「あ、そっか。分かったよキリエ」

「えっ?」


 さっきはキリエが耳打ちしたけれど、今度はマルルが耳打ちする。その話を聞いたキリエはうんうんとうなずいた。


「君達、さっきから一体何を……?」


 ヒソヒソと話す2人の内緒話に、圧倒的有利のはずの角少年は酷く動揺する。その様子を見て確信したものがあったのか、マルルは高い所に経って格好つけている角少年に向かって指を指した。


「分かったんだよ、バウ! あなたがこっちの世界に来ているんでしょ!」

「よよよ、よく分かったな。だだだ、だがっ、それがどうしたっ!」

「ここが私達の夢世界ならっ! 飛べるっ!」


 マルルはそう力強く宣言すると目一杯ジャンプする。そうして、その勢いで更に上昇した。魔法少女は体力はパワーアップしても空を飛ぶ事は出来ない。

 その出来ないはずの事をやってのけた彼女を目にして、キリエもこの世界の秘密に気が付いた。


「そうか、強い意志だ!」


 気付いたと同時に彼女も大地を蹴って空高く上昇する。普段ありえない事が起こる、この夢世界は意思次第で何でも出来る世界だったのだ。そうして、夢を見ている本人の方がその実現力は強い。

 上空で合流した2人はうなずきあうと、往年の特撮ヒーローのように愕然としているバウに向かって足を伸ばして急降下する。


「「魔法少女ダブルキィーック!!」」


 お互いに片足に魔法エネルギーを集中させて放った同時キックは、角少年に直撃して大爆発。

 こうして夢世界での戦いは、魔法少女達に軍配が上がったのだった。


「や、やるな……流石は魔法少女……。ですが……残念。私を倒しても……夢からは覚めません……よ」


 バウは最後にそう言い残し、ばたりと倒れ、消失する。その言葉の通り、お約束通りなら元に戻るはずの世界は全く何の変化も見せなかった。

 この想定外の状況に、マルルは困惑する。


「あれ、夢から覚めない」

「嘘……でしょ?」


 キリエもこの結果は読めていなかったらしく、盛んに顔を左右に振っている。やがて辺りを包む霧は濃くなっていき、ついには至近距離の2人の姿すらお互いにハッキリと確認出来ないほどに――。



「2人共、そろそろ起きるホ。もう起きる時間だホ」


 現実世界のトリが2人の頭を交互にくちばしでつつく。その刺激で彼女達は無事に現実世界に戻る事に成功した。

 起き上がったキリエは、自分の視界がホテルの一室である事を確認して頭を押さえる。一方、マルルは目が覚めたと同時に大きくあくびをした。


「……あれは本当に夢? キリエも見た?」

「……確か、角の生えた少年っぽい姿の敵が……」

「「バウ!」」


 答え合わせをした2人はお互いに強く抱き合った。事情の飲み込めないトリはホウホウと言いながら首をかしげるばかり。この時、ホテルの窓から朝日が射し込む。

 この有り触れたいつもの朝の風景が、2人にはとても素晴らしいものに見えたのだった。


「最高の目覚めだね」

「ああ、最高の目覚めだ」

「何言ってるホ。いつもの朝だホ」


 こうして2人は夢世界の刺客を倒し、大阪に向かって旅を再開させる。頑張れ、魔法少女達! 負けるな、魔法少女達! 大阪は多分後もうちょっとだ!



 次回『3年迷う迷路』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888994434/episodes/1177354054888994656

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西日本魔法少女大戦  にゃべ♪ @nyabech2016

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