永遠の3分間

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神風特攻隊の陰に、なろう系Web小説あり⁉

 ──気がついたら俺は、沖縄戦最前線基地の、医務室のベッドの上で寝ていた。




「……う〜ん、これで確か、6回めだっけ?」


 この場合、皆勤賞って、何回めでもらえるんだ? 10回め?




 ああ、悪い、『こっち』には、どこかの『企画』モノとは違って、皆勤賞なんて無かったっけ。




 ──何せ『神風特攻隊』って、、一回こっきりで、海の藻屑になるはずなんだからな。




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




「──さあてと、腹が減っては、いくさはできねえってか?」


 今や食料も燃料も枯渇している──ということに、一般の臣民に対しては洗脳デマゴギーしている状況下においては、破格とも言える食材の数々を、『特攻隊員特権』によってしこたま腹に詰め込んでいる、俺様こと……………………ええと、わりぃ、この企画も6回目ともなると、いい加減自分の『キャラ』の名前を考えるのも億劫になってきたので、まあ、『名も無き零戦パイロット』ということで、勘弁してくれや。

「かあ〜、この白飯って、この御時世、すっげえ貴重品なんだろうなあ。まあ、文字通りの『飽食の申し子』である俺にとっては、単なるマズメシだけどなw」

 どうせ沖縄なら、チャンプルーとかミミガーとかソーキソバとかを、味わいたいところだけど、一応ここは、『贅沢は敵』ってことで。


「……って、おいおい、何だ何だ?」


 気がつけば、結構広々とした隊員食堂のあちこちから、侮蔑とも恐怖とも怒りともつかない、何ともいや〜んな視線が、俺のほうに集中していた。


「勘弁してくれよ、どこかのアニメの『アニマ』でもあるまいし」


 そういや、アニメとアニマって、同じ語源だっけ? ──いや、違うか?

 おお、そうそう、確かこの時代にも、アニメってあったんだよな。

 ……ええと、何つったっけ? 『桃太郎……海の……海の……ハゲワシ』?




「──おい、貴様」




 俺がせっかく、『懐かしの昭和アニメ』について総括していたら、突然声をかけてくる、おそらくは俺同様海軍航空隊パイロットと思われる、いかにも体育会系な青年。


「うん、あんた、『俺』の、同期なの?」

「な、何だと?」

「何か、歌にもあるじゃん、『と俺とは、同期の桜ちゃ〜んとも○ちゃ〜ん♪ 同じカマ掘って、ケツ穴兄弟〜〜〜♫』とか何とか、言うやつよw」


「き、貴様──い、いや、おまえっ、どこまで我々帝国軍人を、愚弄すれば気が済むんだ⁉」


「ええー? 愚弄だなんて、とんでもない! 俺だって帝国軍人サマでしょうが? ──少なくとも、はね」


「ふざけるな! おまえのような『化物』が、我々と同じ、帝国軍人であるものか!」


 その瞬間、すっかり上機嫌だった俺の心が、とたんに冷え切ってしまった。


「……てめえ、調子に乗るんじゃねえぞ? おまえらなんかよりも『まともな感性』をしている俺からすりゃ、おまえらのほうがよっぽど、『理解不能な化物』にしか見えないんだぜ?」


「な、何い?」




「何でてめえらは、命令一つで死ぬことができる? 何で頭の狂った上官に逆らわない? 『命令は絶対だから』? バカを言うな! どんな国のどんな法律や命令だろうが、それが理不尽なものであったなら、拒否する権利が、どんな人間にもあるんだよ! そんな基本的なことも忘れ果ててしまった、『洗脳ロボット軍人』ごときが、人に意見するんじゃねえ!」




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「……さあてと、今回も滅星メツボシ重工の商売繁盛のために、零戦を一機、『消費』してきますかあ」


 もはや慣れた手順でエンジンを始動させれば、途端に大騒音と大振動との大競演に見舞われる。


「けっ、生まれながらのジェット機世代としては、堪えるねえ。ほんと、飛行機乗りたちは、よくこんなものに乗って、しかも複雑な格闘戦なんかできたよな。──まあ、ただ単純に自爆テロをかますだけの、特攻隊には関係無いか」




「──おやおや、『自爆テロ』なんて言っては、駄目ですよ。この時代の『大日本帝国軍』は、一応正式な軍隊なのであり、テロ組織や武装ゲリラじゃ無いのですから」




 突然の『ツッコミ』の声に、思わず眼下を見下ろせば、滑走路の上からこちらを見上げていたのは、いかにも欧米風な漆黒の聖衣を身にまとい、縁なし眼鏡の奥で青灰色ブルーグレイの瞳を温和に笑み歪ませている、長身の好青年であった。


検体名コードネーム『カワセミ』さん、どこか体調に、異状などはございませんか?」

「……あんたか、──いや、すこぶる快調だよ。今から『使い捨て』にするのが、惜しいくらいにね」

「それは、重畳。では6回目の御出陣、御武運の長久をお祈りしておりますぞ?」

「けっ、『長久』って、離陸したら、敵艦隊に突っ込んで、お陀仏だっつうの」


 ──はい、今回もこれで、『お題』クリア! 6回目ともなると、もう慣たもんですなあ♫


「そろそろ私たち『裏方』のほうは、おいとまいたしますね。ここにいると、目立って仕方ないし」

 確かに、さっきの食堂の時とは比べものにならないほどの視線が、さも訝しそうにこちらを睨みつけていた。

「……あんたらの格好は、いかにも敵性国家の宗教団体っぽいんだよ? アーメンとかソーメンとか言っているやつに!」

「ええっ? 一応軍の上層部とは、話をつけているんですがねえ」

「──それを聞いて、むしろ失望したあ〜。ついにこの国は、こんな胡散臭い連中にすがりつかなければならないほどの、壊滅的状況にあるのかよ?」

「あはは、胡散臭さなら、あなただってよほどのものなのでは? ──ねえ、どのフライトシミュレーションゲームにおいても、『特攻上等』のマジキチゲーマーの、HNハンドルネーム『カワセミ』さん?」




「──ああ、それについては、感謝しているぜ? 何せ本当に、念願の『カミカゼアタック』をする機会チャンスを、与えてくれたんだからなあ! ──ねえ、あらゆる世界のあらゆるを司っている、聖レーン教団さん?」




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 ──気がつけば俺は、、最前線基地の医務室のベッドの上で寝ていた。




「……う〜ん、これでようやく、7回めかあ」


 そう言ってのんきに背伸びをした途端、とんでもない『異変』に気がついてしまったのであった。




「──なっ、これって、女の身体じゃないか⁉ 何この、お涙ちょうだいテンプレの『特攻隊』作品においては、別に必要のない意表を突く展開は?」




 ま、まさか、ここに来て『TS転生』とは、どこまで頭が狂っているんだ、この作品の作者は⁉


「──ああ、これは我々教団ではなく、軍側の『実験』ですよ」


 するとその時、まさに打てば響くようにして、俺の疑問に答えを返してくる、もはや散々聞き飽きた声音。


「……また、あんたか? エリート司教殿」

「そりゃそうですよ、私はあなた専任の、『観察官』なのですから」

 ──おいっ、そこは普通、『観察官』ではなく、『監察官』だろうが⁉

「それで、『実験』というのは?」




「いえね、今回の海軍による独断専行の『特攻隊』の見切り発車が、陸軍から猛抗議を受けてしまいましてねえ、まあ、本音としては、『そんな勝手なことをされたら、我々陸軍も追随しなくてはならなくなるではないか⁉』と言うことなんでしょうが、そんなの口が裂けても言えないから、来たる『本土決戦』を控えて、できるだけ航空機パイロットを温存するためにも、特攻隊のような『単純作業』については、先頃招集したばかりの『学徒』や、場合によっては本来非戦闘員である『女子供や年寄り』にでもやらせてはどうかと、実に革新的なご意見が出ましてねえ」




「──っ」


 ……どこまで腐っていやがるんだ、この国の上層部のやつらは⁉


「ふふふ、お気持ちはわかりますが、すでに我々だって、立派な『共犯者』なんだから、今更反抗的態度をとったりなされて、騒ぎを起こされては困りますよ?」

「……わかっている、男を犬死にさせておいて、女は駄目だなんて、21世紀の男女共同参画ジェンダーフリー時代を生きている、俺に言えるわけがないだろうが? ──しかし、おまえら転生教団も、ほんと、うまいことを考えたよなあ」

「おや、何がですか?」




「『神風特攻』を断行するに当たって、最も重要なのは、『誰にどうやって口火を切らせるか』なんだ。こんな狂った凶行でも、すでに誰かの先例があれば、それこそ『帝国軍人』としては、絶対に拒否できなくなってしまうからな。──しかし、だからこそ、そのまさに『先鞭をつける』ことこそが、非常に困難になるんだ。そこで登場してくるのが、何と『なろう系Web小説』でお馴染みの、『異世界転生』ってわけだ。つまり、あらゆる世界のあらゆる異世界転生を司っている、おまえら聖レーン転生教団の秘術を利用して、第二次世界大戦時の帝国海軍のパイロットに、俺のような現代日本人のゲームジャンキーの『精神』を、しかも、転生あるいは転移させて、その身も心も完全に乗っ取らせることによって、俺たちからしたら、本来の自分自身の身も心も完全に安全な状態に保ちながら、ゲーム感覚で『カミカゼアタック』を楽しむことができて、しかも一回特攻を完了して、零戦のみならずパイロットすらも『消費』しながらも、『転生』することで、何度も何度も『カミカゼアタック』を繰り返すことができるという、まさに現代日本人『プレイヤー』側からした、反則技チート的『不死身モード』によって、『神風特攻という永遠の3分間』を、存分に楽しめるってわけなのさ」

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