むしの音
糸花てと
第1話
「残り時間三分! 見直ししとけよー」
その声のあと、勢いよく教科書が振り下ろされた。
「いった……え?」
「テスト時間に寝るやつがどこにいるんだ。最後の三分間だぞ、真剣にやれ」
男子はぼんやりした目で、「どこにって、今ここに寝てた……」
先生は改めて教科書をまるめ、男子のおでこに喝を入れた。
「いっ──二回もやりやがった……」
よく見る光景。
不正がないか見回る先生の足音が、遠く近くとよく聴こえる静けさ。迷いなく動くシャーペンの音。
テストって、この雰囲気に集中力をもってかれるから嫌なんだよね。だから、となりの男子には、助けられてる。良い具合に肩の力が抜けるからだ。
きゅぅ~るる──…
……うそ、やばい。誰かに聴かれたかな!? まわりに神経をくばってみるが、とくに変化はないようだ。
お昼まで三分……大きく鳴りませんように。
きゅー
きゅるる
お腹に力いれるほうがいいのかな、うぅ、恥ずかしい。見直ししたいのに……。
カンッ! カラカラ──
え? シャーペン落としたにしては、勢いよすぎない? 私の机に当たったような……
「先生、ペン回ししてたらシャーペン落としたんで、拾っていいですか?」
「なにを遊んでるんだ、真面目にやれ」
あと、カンニングするなよ。と拾ってもいいとの許可がおりた。
先生と男子との会話が、すこしだけ笑いを起こした。残り一分もない? なんとかなるかも。
さん、
に、
いち、
ほんの少し、チャイムより早く腹の虫が騒いだ。
顔を真っ赤に目が泳いだ、となりの男子。
「くそ、タイミング悪っ……」
お昼間近、お腹の音を隠したいのは、男子も同じみたい。
むしの音 糸花てと @te4-3
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