カップ麺食べたいだけの私を永遠の3分間が妨害する件

PURIN

カップ麺食べたいだけの私を永遠の3分間が妨害する件

 ……今度こそ、今度こそは……


 心拍数がバクバクと上がっていく。

 いろんな意味で生唾を飲み込む。


 両腕を組んで正座する私。その目の前のちゃぶ台には、国民的アニメの主人公である、5歳の幼稚園児が文字盤に描かれたアナログの目覚まし時計。小学生の頃、秋に学校のバザーで買って以来もうかれこれ10年は愛用している。

 カチ、カチと規則正しい音をさせるその横には、自宅から徒歩2分の距離に存在する、緑と水色の看板のコンビニで購入したカップラーメン。

 愛食している、激辛担々麺。お湯を入れて、3分間待つやつ。

 ふんわりと、食欲を誘うごまの香りがしてくる。そう、これはごまが決め手のやつなんだ。

 でも、まだ食べない。私はいついかなるときでも、カップ麺は表記してある時間通り待ってから食べる主義だから。


 ちらりと、時計を確認する。

 あと10秒、9秒、8秒。

 7、6、5、4、3、2、1。

 よし!


 大急ぎで箸を手に取り、カップ麺の蓋を開け


 次の瞬間、私は両腕を組んでちゃぶ台の前に正座していた。

 カップの中の様子を確認する。お湯に浮かび上がる麺もかやくも、硬いまま。


 時計に顔を向ける。

 3分前。今にも「ほっほーい」とか言い出しそうな呑気な幼稚園児の顔の上を走る針が示しているのは、私がカップ麺にお湯を注いだ3分前の時刻ちょうどだった。


「あああああああああああ!!!!!」

 頭をかきむしらずにはいられなかった。




 待ち続けている。私はさっきからずっと、3分経つのを待ち続けている。


 別に普段と変わったことは何もしていないはずなんだ。ただ普段通りに仕事を終えて、コンビニに寄ってラーメンを買って、帰宅して、お湯を注いで3分間待っていた。

 それなのに、時の流れは普段どおりにいかなかった。

 間違いなく3分経ったのを確認してすぐさま箸を持って、カップ麺の蓋を取ろうとする。

 なのに、その瞬間、刹那のうちに時が戻ってしまう。お湯を注いだ、3分前に。


 最初は、ラーメンが食べたすぎて幻覚を見たんだと思った。

 笑って、もう一度3分待った。

 けれど、同じことはもう一度起こった。

 また幻覚、ともう一度笑って、もう一度3分待った。

 そうして、同じことは再び起こった。

 それでも笑い続けていた。けれど何度目からだったか、笑えなくなった。




 3分。3分。3分。3分。3分。




 3分を何度も何度も重ねた。

 時は進み、湯気は吹き上がるを何度も何度も繰り返した。

 到底数え切れないほど繰り返した。

 記憶できないくらいの回数繰り返した。

 次に3分経った時こそ食べられる、そう信じていたのに何度も繰り返した。

 繰り返して繰り返して繰り返した。



 

 けれど何度繰り返しても、時刻もラーメンの状態も私の動作も、3分前のそれに戻されてしまった。


 なんでだよ! 普段通りにやってるだけだろうが! ただラーメンが食べたいから普通に待ってるだけだろうが! もう体感で半日くらいはこうしてるぞ!


 もしここでラーメンが乗っていなかったら、往年の某アニメのごとくちゃぶ台をひっくり返しているところだが、ラーメンが乗っているのでそういうわけにもいかない。


 待っている間ちょっと外に出てみたり、本を読んでみたり、スマホをいじってみたりと毎回少しずつ変化を出してみたりしたが、結局3分前に逆戻りしてしまった。


 誰かに相談しようとしたが、外を歩いてみても誰もいないし、メッセージアプリもメールも文字が書き込めなくなっていたし、電話も通じなくなっていた。

 誰かと連絡を取る手段は完全に絶たれていた。これはもう、私だけが知らぬ間に、謎の不思議空間に迷い込んでしまったんだと考えるほかなかった。


 私に残されたのは、3分待ち続けることだけだった。


 これが最後の3分間になりますようにと祈りながら、私は再度カップ麺のパッケージを見つめた。

 側面の坦々麺の写真。そのスープの赤が、やたらと澄んだ赤だった。

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カップ麺食べたいだけの私を永遠の3分間が妨害する件 PURIN @PURIN1125

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