宇宙人を日本人にしてみた

紅雪

言わない奥ゆかしさ、いとおかし

眼下に見えるのは青い球体ー地球である。


平成の世も残りわずかとなった今日

ようやくこの地へ降り立つのである。


さて、われわれ地球外生命体がこの地になじむためにはどうすればよいのか、いまいちどおさらいしよう。


『ルールその1』

日本人は日本語を使え

表現が難しいだと?「全然大丈夫」なんだよ、最近は。


『ルールその2』

空気は吸うものじゃない、読むものだ

右に倣って行動しろ



『ルールその3』

とりあえず「すみません」

注文も、謝罪も、感謝も、


『ルールその4』

玄関で靴を脱げ

わすれものをしたことに気が付いたら?膝立ちで頑張るんだよ



『ルールその5』

箸を使え

米はもちろん、ステーキも、パスタも、ポテチも箸だ。



『ルールその6』

もったいない精神を大切にしろ

蓋についてるヨーグルトとかプリンはちゃんと舐めるんだ。家ではな。



『ルールその7』

なんでも丁寧に扱え

一枚一枚、物を大切にするんだ



『ルールその8』

感想は「かわいい」

かわいいって言っておけば許されるよ



『ルールその9』

電化製品が壊れたら叩け

叩いたら直るらしいぞ



『ルールその10』

保冷剤は常に保管すべし

何かあった時のために



さて、この地におりたって1年ほどが経ったであろうか

私はなじめているか

この者たちにとって宇宙人とは初対面に

「ワレワレ ハ ウチュウジン ダ」とカタコトで言う者だそうだからな

宇宙人が日本語ペラペラだったら疑いもしないのか


「おぉ長島!ほらこれ、プレゼント。」

ふいに後ろから知り合いの女性に声をかけられて振り向くと白い小さな箱を私に差し出すではないか。

「これは・・・?」

「ま、まぁ、なんだっていいだろ。受け取れ。」

赤らんだ顔で、言いにくそうにしていたからあえて何も言わず

「そうか、すまない。」

とそれをいただいた。


受け取ったそれが気になって家に帰るなり、靴なんか脱ぎっぱなしにしてその箱を開けた。

「なんだこれは。」

薄いクリーム色の膜がいくつも層になり、その間、あいだには薄く均一にかつ丁寧に純白のクリームが塗られている。

「食べるものなんだろうが、どうやって食べるんだこれは」

まずはまわりについた透明なフィルムをはがし、さらにそこへついた微量のクリームをなめた

甘さは適度だ

押せば層が崩れ、かといってかぶりつくわけにもいかない

「そうか。」

キッチンからおもむろに箸を掴んで、上から1枚、また1枚とはがす

なんとまあ手間のかかることを

しかし勤勉な彼ららしい、いや、社畜というべきか

うん、まぁ、悪くない。

最後に箱に残った水色の「食べられません」を見つめ「またか」と思う。

なぜこれを捨てられない

冷凍庫にたまっていくばかりではないか。

しかも「食べられません」だぞ、なぜ冷凍庫に入れる?

理解不能だな。

『さっきの、かわいかったよ。ありがとう。』

食べ終わるなりメッセージを送った。正直人間の味覚がよく理解できていないので、適当な言葉を送って濁す。

瞬時に「既読」がついた

いつもならここですぐに

なにか返ってくるはずなのに

なにもおくられてこない。

震えないスマートフォンを叩き起こしてみてもどうやら直った気配はない。


言わなくても伝わるか

わからないよ、頭のなかも心のなかもなんにも

言わなくってもわかってもらえるなんてルール

捨てちまったら、どうだ、日本人




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宇宙人を日本人にしてみた 紅雪 @Kaya-kazuha

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