第6話



「決まりや小泉さん。この問題は反則やで。考えた所でわかるはずもないわ。」

 ドヤ顔で荒木は小泉に回答をする。


 が、相変わらず冷めたままの小泉は「いいえ、多少の思う所はありますが、問題として成立しております。さっさと答えてください。」と荒木に回答を促す


「そ、そんな馬鹿な!ワシはまだここにきて初日。この施設に何があるのかもわからないんじゃ。なのに回答できるはずがないじゃろ!」


 『わからない』と答える事は荒木のプライドが許さないのか審判の小泉に食って掛かる。「では私が3回の回答で正解してみせましょう。その場合荒木様の負けとなりますが宜しいですが?」


「おお!答えてみいや。お前が正解したらこの勝負ワシの負けでいいわ」


「些(いささ)か、でしゃばりな気もしますが、早く終わらせたいので僭越ながら回答させて頂きます。では黒田様、1つ目の質問です。貴方は次の質問にYESと答えますか?」


 荒木は再び絶句した。自分の発想にはない質問だった。


ここで黒田がYesと答えれば次に

「では今から私がこのハンカチの下を確認しますが構いませんね?」といえば良いし、


Noと答えれば

「今から私がこのハンカチの下を確認しますが、邪魔や抵抗をしますよね?」といえば良い。たった2回の質問で正解までたどり着ける。

 荒木は残念に思いながらも楽しくなってきてもいた。この世にはまだまだ自分の知らない|世界(考え方)がある。と。

 既に2ポイント取られているが、まだ勝負は終わっていない。

 この負けでヒントは得た。次は正解して見せるし、相手の解けない問題を出せばいい。


「Yes」と黒田は答え、「では2つ目の質問です。今から私がこのハンカチの下を確認しますが構いませんね?」と小泉が言う。やはりか、荒木の予想通りの質問である。


「Yes」「では失礼して」


 小泉がハンカチを下を確認するとそこには『何もなかった』。


 荒木が興奮しながら

 「ほう? 何もないが正解か。これは楽しいの。さっさと次へ行くかの」

 と言うのを小泉が遮った。


 「ふむ。では最後の質問です。何もないが正解ですか?」


 何をわかりきった事を、そんな質問の必要ないだろ。と荒木が冷たい目を小泉に向ける。何度も冷たい目を向けられたのでささやかな仕返しのつもりだろうか。


「No」


「は? いやいやいや、おかしいじゃろ、だって問題はハンカチの下に何があるかのはずじゃ? 実際ハンカチをどかしたらそこには何もなかったわけじゃ。どう考えても答えは何もないで決まりのはずじゃ? 何をいっとるんじゃあんたは?」


 もし、荒木がさっきまでの自分の態度を心の底から反省していればまた違ったかもしれない。が、荒木の『自分が考えている事が正解だと思い込む』という癖は約30年かけて培ってきた物である。人は簡単には変わらない。これはどうしようもない事なのかもしれない。


 いくら荒木が考えた所で、荒木の発想にない答えは荒木の脳裏には浮かばない。『あの時こう言い返せば自分は負けなかったのに』という考えは、相手がいないからこそ成立する思考だなのだから。




小泉はまず、机の下に視線を移し、そこに何もない事を確認する。

「ふむ。答えがわかりました。答えは机、他にも建物、地球などトンチのきいたものが考えられますが、前提条件が「考えれば必ずわかる事」ならば妥当な答えは机ですな。」


「正解だ。」黒田が答えるとともに小泉が宣言する。

「では、今回の3つの質問の勝者は黒田様です」


「は? まだ2ポイントじゃろうが?」

 思わず間抜けな声を出してしまった荒木に小泉は静かに答える。


「私は言いましたよね? 荒木様の負けとなりますが宜しいですか? と」

「そ、それは1ポイントのやり取りの勝敗じゃろうが!!」


「貴方が勝手にそう思っていただけです。このまま続けても荒木様が負けるので問題ないかと思います。上に確認しましたが問題ないとの事です」


 中立だと思っていた小泉にまさか出し抜かれるとは思っていなかった荒木は、続けざまに怒鳴ろうとするが、小泉が掌を突きつけ宣言する。


 「運営に逆らった場合の罰金はご存知ですよね。今回は1回につき100万円としますよ」

 荒木はただ項垂れるしかなかった。


 小泉はイヤホンで部屋の状況を確認していた為、黒田にひとつ質問をする。

「黒田様、次の質問の内容って決まっていましたか?」

「あ、ああ。次の質問は、「昨日、日本で消費された使い捨てのシャンプーの数は? 誤差15%以内は正解とする」の予定だったけど?」

小泉は「ふむ。」と嬉しそうに頷いた。


~~~次回予告~~~


岸桃香は元地下アイドルである。なんと対戦相手は同じ地下アイドル「Destiny」の三浦レベッカだった。小泉が勝負の方法を告げる。


「二人にはハイアンドローで勝負して頂きます。こちらに1~7の数字が記載されたカードが1枚ずつ御座います。このカードをお互いにセットして数が多いほう勝利です。数が同じ場合は引き分けとします。」


「私たちの勝負は勝敗に関係ないから引き分けにしましょ」

「そうだよね。私とレベッカちゃんの仲だもんね」


 気心知れた仲間との闘い、1勝1敗の今、自分たちの勝敗はダブルスにかかっている。

 そう。これは消化試合なのである。お互いのカードを見せあいながら試合を消化していく。中盤、桃香はレベッカに3の数字を見せ、それをセットする。レベッカも合わせて3の数字を見せてセットする。

「レベッカ様からカードオープンをお願いします」小泉の声が響く。


 数字は『4』 レベッカは笑いながら罵倒しはじめる。


「きゃはははははは、あんたが私に勝とうなんて1000年早いのよ!このバカ乳女がぁぁぁぁ、脳みそに行く栄養まで乳にいってんじゃないの!バァァァァカァァァ」

 三浦レベッカ、恐ろしい女である。引き分けでも全く問題ないのに。勝ちに来たのである。岸桃香はそんなレベッカを見て涙をこぼす。


「そんな、ひどい、ひどいよレベッカちゃん。私信じてたのに、どうして裏切るの? 私たち一生懸命支えあってきた仲間じゃない!」


「うるっせぇぇんだよ。あたしはあんたの事なんかだいっ嫌いだったんだよぉぉぉ。どうよ! マジシャン顔負けのレベッカ様のテクニックわぁぁ、ははは桃香、あんたは昔っから気に入らなかったんだよ! あたしが上であんたが下! その薄っぺらい脳みそに刻んどけや負け犬がぁぁぁ」

「ひどい、ひどいよレベッカちゃん。信じてたのに、私レベッカちゃんの事信じてたのに」


泣きながら岸桃香はカードをめくる。


 数字は「5」である。


「は~い。残念でしたぁ~レベッカちゃんごときが私を出し抜こうなんて一生無理でしたぁ~。ねぇねぇ、今どんな気持ち? 騙してたつもりで天狗になってたレベッカちゃんはどんな気持ちなの? 何その顔~うけるんですけど~(笑)頭も弱い貧乳さんはどこに栄養がいってるのかな? ねぇ教えてよぉ~ねぇねぇ~、ねぇってば~」


次回「マウンティング~譲れない女の闘い~」

※予告は全編カットの可能性があります。

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